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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
132/265

4-43.

 前話あらすじ

 ケルネオンの観光が一段落した彰弘たちは、依頼でも受けようと冒険者ギルドへと向かった。

 しかし、時間が昼前だったこともあり、受けたいと思える依頼はない。

 そのため、彰弘は元々の予定であった神域結界を見ることを前倒しで同行する面々に提案するのであった。





 その光景は傍から見ると奇妙なものかもしれない。

 それぞれの形で黙祷する彰弘たち六名の前には、一見するとただ自然が拡がっているだけに見えるからだ。しかし実際は違う。小高い丘の近くに建物のようなものが見えるし、森の向こうには高層ビルなどを目にすることができた。

 日本の東京都・神奈川県・埼玉県・茨城県・千葉県・栃木県。サンク王国のディーリプス領・ミアス領・シャプニル領。彰弘たちの先にあるのは、この一都六県三領だ。これらの地は、その全てをまたは一部を邪神に汚染され最悪と言っても過言ではない被害を被った地なのである。

 そう、彰弘たちが立つこの場所は汚染された地と、その影響を辛うじて免れた地の境界であった。

 世界融合の際に顕れた邪神の被害者は二千万名を超える。

 彰弘たち六名の黙祷は、その人たちへと向けられたものであった。









 ミレイヌとバラサが、続いてアキラとショウヤも閉じていた目を開ける。そして最後に彰弘とサティリアーヌが黙祷を終わらせた。

「さてと、行くか」

 思ったよりも明るい彰弘の顔に、残る五人の視線が集中する。

 邪神の犠牲者を軽く見るわけではないが、必要以上に重く受け止めても意味はない。むしろ、重く受け止め過ぎることは、今を生きる上で害悪になる可能性がある。特に知り合いが亡くなっているなら尚更だ。

 彰弘の通っていた大学も、そして会社も東京にあった。そしてそれらに通う知り合いや同僚は、その近辺に住んでいたのだ。つまり、全てではなくても確実に何名かは亡くなっているはずであった。

 だから彰弘は努めていつも通りに声を出したのである。

 その彰弘の思いを知ってか知らずか、今度はミレイヌが口を開いた。

「そうね。行きましょう。亡くなった人が生き返るわけではないもの。それに、私たちは私たちの人生を楽しむべきね」

「月並みな言い方ですが、一理ありますね」

 思うところがあったのだろう。ミレイヌの言葉に真っ先に反応したのは珍しくもアキラで、それに頷くショウヤであった。

 アキラもショウヤも直接の知り合いではないが、日本の自衛官という意味では仲間を邪神により亡くしている。とはいえ、それは既に一年以上も前のことで普段表に出てくることはない。しかし、先ほどの黙祷で少しだけ表面に出てきたことにより、幾分気分が沈んでいたのだ。そのことがあり、ミレイヌの言葉に反応したのである。

 が、どうやらそのアキラの反応はミレイヌ的に気になるものだったらしい。

 ミレイヌは少し深刻になりすぎているだろう二人の表情を見て、やや大げさにため息を吐き一歩進んでから、睨むような目でアキラとショウヤを見る。

「ちょっと、あなた方。一理ではなく、至言と言いなさい」

 怒っているような、だけど心配の色が見える瞳の顔を向けているミレイヌに、アキラとショウヤは思わず目配せする。そして、自分たちのことを苦笑し、殊更元気に応えた。

「……おっと、これは失礼。確かに至言だね。ははは」

「まったく。私が若いからと馬鹿にしてるのではなくて?」

「いやいや。そんなことはこれっぽっちも」

「はい。私もまったく。ええ、まったく思っていませんよ」

 会話の終わりに不貞腐れたような態度でそっぽを向いたミレイヌだが、その顔には笑みが浮かんでいた。アキラとショウヤの二人を心配して何とかしたいと考え発言したことが、良い結果に繋がったからだ。ちなみに不貞腐れたような態度をとったのは、単純に恥ずかしさを隠したかっただけである。

 わざとおどけた態度でミレイヌに応えたアキラとショウヤの顔にも笑みがあった。それは自分たちへの苦笑も入り込んでいたが、大部分はミレイヌの行動への感謝と彼女がしてくれたことへの嬉しさが表れたものである。感謝というのは重い空気を引きずることなくこの場で終わらせてくれたこと。嬉しさは大して親しいわけでもない自分たちのことを気にして声をかけてくれたことに対するものであった。

「お嬢様の成長に涙が出そうです。私も精進しなければなりませんね」

「私としては役割を取られたような気分ね。ネタができたと思えばいいのかしら」

「くくく。まあ、いいじゃないか。丸く治まって」

 少し離れたところで様子を見ていた彰弘たちは、微笑ましい感情を乗せた感想を、それぞれ口にしてからミレイヌたちへと近付いた。

「とりあえず、今日は野営地を探して休もうか」

 そして、彰弘はこの後の予定を示す。

 しかし、はいそうですか、といかないのがミレイヌであった。

「あなたたちね……」

 彰弘たちがいたのは、ミレイヌたちから少し離れた場所とはいっても、僅かに一メートルほどの距離である。当然、微笑ましさを隠しもしない先ほどの声はミレイヌにも聞こえていた。

(あるじ)を想う従者の気持ちと、娘を思う親の気持ちのようなもんだ。細かいことは気にするな。それより野営だ野営。今日はざっと周辺を見て、野営に良さそうな場所を見つけたら、さっさと準備を終わらせてのんびりしよう。本格的に宝探しをするのは明日だ」

 幾分、納得がいかない反応にミレイヌは言葉を返そうとするも、黙祷を終えた後に自分が言った言葉を思い出して口を噤む。それに、よくよく考えてみれば、ここで会話を終わらせとけば柄にもないことをした自分をネタに話が広がることもない。

「分かったわ。元々、先に行くつもりだったのだから、行きましょ」

「ま、話なら野営中にもできるしね。アキヒロさん?」

 ニヤリと笑い、ミレイヌがこの場で回避したことを「話しましょ」と示唆したサティリアーヌは彰弘へと目を向ける。

 そのことに気付き呆れたような顔をした彰弘だったが、一つ息を吐き出した後で合図を口にし先頭に立って歩き出すのであった。









「酷い目にあったわ」

 野営の準備を終えた彰弘たちであったが、まだ夕食にするには早い時間だったため、日が暮れるまでを自由時間としていた。

 その自由時間の間中、サティリアーヌに捉まったミレイヌは先ほどの柄でもない自分の行動だけでなく、それ以外にもいろいろと話すことになってしまったのである。

「お疲れ。夕飯まではもう少しかかるから、これでも飲んで待ってな」

 彰弘はトン汁――肉はオークだが――の寸胴鍋の様子を見つつ、疲れを顔に表したミレイヌにレモン水に少しだけ蜂蜜を混ぜたものが入ったカップを渡す。

 それを受け取ったミレイヌは一口飲むと、ふぅと一息吐き出した。

「本当にお疲れだな。すぐできるから休んでていいぞ」

「そうはいかなくてよ。他の作業をしてたなら別だけれど、今日は何もしていないもの」

「なら、バラサが今盛り付けをやってるからそっちを手伝ってやってくれ。こっちは後ひと煮立ちさせたら椀によそって終わりだから」

「分かったわ。これ、ありがと。美味しかったわ」

 ミレイヌはカップを彰弘に返してから、バラサが作業している場所へと向かった。

 そんなミレイヌの後姿を見送りつつ、「難儀な性格なのかもしれないな」と独りごちた彰弘は、寸胴鍋から少量を自分の椀へとよそい味見をする。そして良い味であることを確認すると寸胴鍋を火から下ろした。

 なお今更の余談ではあるが、魔物の肉というものは普通の熟成が必要ない。というのも魔石から切り離した段階で元の地球でいう熟成期間が終わっているからである。









 白米、肉野菜炒め、トン汁、そして食後のデザートである苺という、今回の宝探しメンバー六名が大満足――まあ、肉はオーク一種で被っているが――な夕食から、およそ三時間ほど。最初の見張り役となった彰弘は焚き火の前で煙草を吸っていた。

 その斜め前にいるのはサティリアーヌである。

「ミレイヌ、本気で疲れた顔していたぞ」

「あははー。ちょっといろいろと聞きすぎたかも。何話したか知りたい?」

「俺に直接関係があっても聞きたくないな。害がこっちに来るようなのは別だが」

「あらま」

「あらま、じゃない。災難の種はいらん」

 話を聞いたがために、相手に対する態度が無意識で変わるというのはなくもない。相手が男であれば多少はマシだ。彰弘も男だから少しは気持ちの推測などができる。だが女の場合、男にできた気持ちの推測ができるとは到底考えられない。

 だから彰弘は聞かない。

「つまらないわね。あんなことやこんなことを教えられるのに」

 実際のところ、サティリアーヌはミレイヌから聞き出した話を全て話すつもりはない。仮に彰弘が興味を持ったとしても当たり障りのない話をするに止めるつもりであった。

 サティリアーヌは単純に、この暇な見張りの暇潰しとして話題を提供。そして、できれば彰弘の反応を楽しみたかっただけなのである。

「ま、しょうがないわね。ちょっと真面目に話しましょうか」

「真面目に?」

「そう。といっても何か危険があるとかじゃないのよ。アキヒロさんて、まあ、いろいろと特殊じゃない? 世にも珍しい神属性混じりの魔力持ちだし、アンヌ様の名付きの加護持ってるし、ついでに国之穏姫命くにのおだひめのみこと様の名付きの加護も貰ったのよね。ああそうそう、アンヌ様の天使であるアイス様とドーイ様から様付けってのもあったわね。ミリアに聞いたわ。それに称号も一杯あるみたいだし、それから……」

「よし、そのへんでやめようか」

 まだまだ続きそうなサティリアーヌの口を彰弘は強制的に終わらせる。

 全て事実ではあるのだが、このまま自分の特殊性を改めて聞かされるのは、どうにも心地好いものではない。

「俺のそれらは置いといて、本題に入らないか? 見張りは始めたばかりだが、時間は無限じゃないんだ」

「そう? まだリッカちゃんたちのこととかいろいろあるのに……仕方ないわね」

 本当に残念そうな顔をするサティリアーヌに、「何が残念なんだよ」と心の中で突っ込みを入れつつ彰弘は先を促した。

「まあ、真面目といっても大したことじゃないのよ。アキヒロさんは神域結界の結界が見えてるって言ってたわよね?」

「ああ、でかすぎて平面の壁があるように見えたな。あれは半球……じゃなく球か」

 俺が特殊だとかは関係ないんじゃないかと思いつつ、彰弘はサティリアーヌの問いに答えた。

 ちなみに結界というものは障壁系統の魔法のように、魔力が見えない者には視ることができない。障壁は彰弘たちが住まう現界の物質と魔力の混合物であるのに対して、結界は基点となる物質以外は純粋に魔力のみだからだ。

「うん。よく分かったわね。邪神がいたところを中心に球状に汚染されたからそうなってるのよ」

「まあ形は半分以上推測だが。で、それがどうかしたか?」

「ちょっとした確認よ。私も興味があるのよ。境界付近がどう変化したのかが。だから明日は調査に専念したいな、って。実のところ、あの結界って外から無理矢理中に入ろうとしたら入れちゃうのよね。メインは内から外へを防ぐものだから。そりゃ普通の人程度じゃ入れないし、冒険者でも余程力がないと入れないはず……なんだけど、まかり間違って入れちゃったら、その人大変なことになっちゃうから」

「つまり、結界に触れないように移動の案内をすればいいのか。まあ、後で調査結果を教えてくれると嬉しい。ああ、ガルドが喜びそうな変化した石とかあったら欲しいな」

「それは任せて。私は調査ができれば満足だから、目ぼしいものは全部あげるし分かったことも教えるわ。まあ、危険そうなものは除いてだけど」

「なら、明日の案内は引き受けよう。ところで、結界内に入ったらどうなるんだ?」

 危険は回避できるならそれに越したことはない。それにガルドの食事になりそうなものも貰えるのであれば、サティリアーヌの言葉を断る理由は彰弘にはなかった。

 それはそれとして、サティリアーヌが言う大変の内容は気になるものがある。

「今結界の中は汚染されたものを神域の力で浄化しているようなものなのよ。で、その神域いうのは、許可なき者が入ると絶対に許されず神の力を受けてしまうの」

「つまり、あれか。穏姫の央常神社の超強い版か」

「うっわ、かるっ。でもそうね。それで間違いはないわ」

「理解した。注意する」

 人種(ひとしゅ)が設定した神域とは違い、神の力が宿る真の神域は許可なき者が足を踏み入れてい良い場所ではない。仮に無理矢理神域に入る者がいたら、その者は神の力を受けることになる。つまり神に対抗できる存在でない限り、許可なく入ったら最後、その種としての生を終わらせることになるのだ。

 例えば国之穏姫命の力が十全に発揮されている神社の裏側にある神域の場合、そこへ無断で入ると即座に穏やかな眠りへ陥り、次の瞬間には大地の一つとなってしまう。彰弘たち一部の者は国之穏姫命の許可を得ているから、その場所で寛げているだけなのである。

 また央常神社の全敷地も神域ではあるが、そこについては極度に神域としての効果を薄めているために人々が訪れることができていた。勿論、国之穏姫命が参拝者に参拝と休息のための許可を与えているからこそだ。しかしそれでも神域は神域。大抵の者は長時間その場にいることはできず、用が済むと無意識の内に境内の外へと足を向けてしまうのであった。

 ちなみに神域に入るための障害は神によって違う。今回の宝探し現場のように『壁』であったり、国之穏姫命のところのように『認識不可』であったりと様々である。

 それはさておき、彰弘とサティリアーヌは会話をしつつ見張りをこなし、次の見張りであるアキラとショウヤへと交代をして眠りについたのであった。









 そして翌日。

 あるかも分からない宝探しが始まった。

お読みいただき、ありがとうございます。

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