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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-42.【神域結界】

 前話あらすじ

 カイエンデのところへと報酬を届けにいった彰弘とサティリアーヌは、そこで予想外の魔導具プレゼントという事態に遭遇する。

 自分たちはほとんど何もしていない。それなのに破格の報酬を受け取ることになった二人は妙な疲れを感じて、その日はそうそうに床に就くのであった。





 ケインドルフとカイエンデに依頼の報酬である輝亀竜の甲羅を届けた日から三日後。彰弘たちはケルネオンにある冒険者ギルドの北支部建物内で依頼が貼り出されている掲示板を見ていた。彼と一緒にいるのは同じパーティーメンバーであるミレイヌとバラサである。

 二日間をケルネオンの観光に充てていた彰弘たちだが、街中の主要な見所を一通り見終わったこともあり、依頼でも受けようかとこの場に足を運んでいた。

「まあ、この時間だしな」

 自分たちが受けられる依頼書を確認し終えた彰弘が特に表情を変えることもなく、そんなことを呟く。

 既に時間帯としては昼間近だ。

 冒険者ギルドで新規の依頼が掲示板に張り出されるのは、早朝の一回だけとなっている。そのため、この時間まで割の良い依頼というものが残っていることはない。これはケルネオンだけではなく、彰弘たちが拠点としているグラスウェルでも、またその他の場所でも同じだ。

 勿論、例外はある。それは依頼主から即日の要望がある依頼が持ち込まれたときだ。その場合は都度掲示板に依頼が貼り出されることになる。そして、それが割りの良い依頼の可能性はあるのだ。

 とはいえ、そんなことは滅多にない。

 大抵、朝の依頼争奪戦の後に残るのは、報酬が安かったり難易度が高かったりというような、受けたくない受けることが無謀といった依頼ばかりなのである。

「毎度のことなのだけれど、冒険者としてこれでいいのかしらと思うのは私だけかしら」

「金に困っているわけじゃないからな。それに常時依頼のゴブリンやオークの討伐に薬草関係の採取はやってるんだし、気にしなくてもいいんじゃないか?」

 冒険者ギルドの建物内が混んでいるうちは併設の訓練場で身体を動かし、空いてきたころに依頼を確認して良さそうな依頼が残っていれば、それを受ける。なければ目的を決めずに防壁の外へ出て常時依頼に指定されている魔物を狩ったり、薬草の採取を行う。彰弘が冒険者として本格的に活動を始めてから今まで、これが恒例の流れであった。

 ゴブリンはともかく、オークを一体でも狩れればその日の収支が黒字となる彰弘たち三人であるからこその流れだ。

 加えて言えば魔力を見ることができる彰弘がいることで、止血効果のある塗り薬を作れるエイド草や魔力回復ポーションの素材であるマナマジ草などの薬草類を比較的簡単に採取できる。そのため、彼らは普通の同ランク冒険者よりも金銭を稼ぐのが楽であり、切羽詰った状況とならなければわざわざ常時依頼以外を受ける必要はないのであった。

 ちなみにこの世界の薬草類は普通の植物よりも多くの魔力を宿しているという特徴があった。なので、魔力を見ることができる者が、そうでない者よりも簡単に発見できるのである。

「確かに余程運が悪くなければ赤字にはならないし、魔物の間引きもできていると考えると何も悪くない気はするのだけれど……やっぱり何か違う気がするわ」

「そこは飲み込んでしまいましょう、お嬢様。無理な依頼を受けても意味がありません」

「そういうことだ。さて、行こうか。依頼を受けないから予定は前倒しだが……ま、問題ないだろ」

「ふうー。分かったわよ」

 少々不貞腐れ気味のミレイヌへと苦笑した顔を彰弘は向ける。

 何れは積極的に依頼を受けるべきかもしれないと彰弘も考えているため、ミレイヌの思いも分からないわけではない。だが、彼の当面の目標は家族と出会うために必要な強さを手に入れることである。なので、とりあえずは今のままで良いと考えていた。

 ともかく、彰弘たちは自分たちに合う内容のものがなかったため、冒険者ギルドで依頼を受けることなく、その場を後にしたのである。









 冒険者ギルドを出た彰弘たちが向かったのは、ケルネオンの北門近くにある広場であった。依頼を受けた受けないに関わらず、この場所で待ち合わせをしていたのである。

「その様子だと予想通り良い依頼はなかったようね」

 彰弘たち広場に到着するなり声をかけてきたのはサティリアーヌである。彼女の服装は、いつもの見た目では分からない性能を持った法衣だ。それに加えて柄の部分だけで身の丈ほどとなる先端に人の頭を超える大きさの鉄球のようなものが付いた普通ではまともに振るうことさえ難しいであろう鈍器を持っている。

 なお、この鈍器はケインドルフが輝亀竜の甲羅を使い作ったものだ。しかし、彼はバランスや強度に納得がいかないらしく、最終的にはバランス良く強度も増したものを渡すとサティリアーヌに伝えていた。

「この時間だから仕方ないということですかね?」

 バランスも悪そうで重さも相当ありそうな鈍器を苦もなく持つサティリアーヌの後に続いたのはアキラである。彼は革鎧に片手剣、補助武器として小剣という装備であった。

 自分たちの分は最後で構わないとケインドルフに伝えていたことから、アキラの装備はサティリアーヌとは違いグラスウェルから持参したもののままである。

 アキラの隣にはショウヤの姿もあった。彼も今身に着けているのはグラスウェルから持参した武具だ。革鎧と小剣はアキラと同様だが主武器だけは違い、こちらは短槍を持っていた。

 彰弘たちの待ち合わせ相手は、この三人であった。

 なお、広場で彰弘たちを待っていた三人は武器をすぐにでも使える状態で持っているが違反というわけではない。

 本来、休暇中のアキラとショウヤが、すぐ使える状態で武器を持つことは違反である。しかし二人の実際の状態はグラスウェル所属の騎士や兵士の武具作製を依頼をするためにケルネオンへと来ているのであって、兵士としての任務中という扱いであった。そのために武器を今のように所持していても問題はないのだ。勿論、念のためにケルネオンで武器を持ち歩くことの許可は得ていた。

 サティリアーヌに関しては、ほとんど使うこともないし依頼を受けることもないが、冒険者としての資格を有している。そのため、武器を持っていても違反とはならないのである。もっとも、彼女の持つ鈍器は一見して武器には見えないので、仮に冒険者資格を持っていなくとも大丈夫なのかもしれない。

 それはそれとして、サティリアーヌ、アキラ、ショウヤと合流した彰弘たち三人は、この後の予定を相談するために話し合いを始めたのである。









 待ち合わせ場所にあったベンチに座った彰弘は、周囲に断ってから煙草に火をつけ一息する。

 今の世界の煙草は融合前に日本にあったものに比べて、嫌な臭いや身体への害が皆無といってよい。勿論、それであっても煙を嫌う人はいるので、最低限の礼儀は必要であった。

「さて、依頼は適当なのがなかったから、予定を先に進めて神域結界とやらが張られている境界まで行こうと思うんだが、どうだろう?」

 ここで言う神域結界とは、世界の融合当初に顕現した邪神の影響で汚染され、普通の生物どころか魔物までもが住めなくなった土地を浄化するために張られたと思われているものである。

 だが、実情は少々違う。

 公式な発表ではライズサンク皇国に所属する最高戦力が軍の精鋭と共闘して邪神を倒したとされていた。しかし、実際にはその戦力を上回る埒外の戦力を持つメアルリア教の教主が単独で邪神自体を倒したのである。

 そしてその教主が邪神を倒すために神域自体を顕現させたことが起因で、今の神域結界と呼ばれるものが存在することになっていた。

 神域自体は既に地上から消え去っているが、その力は残り続け汚染された土地を今も浄化し続けていた。それだけなら良いが邪神により汚染された土地を浄化するほどの力が、正常な土地へと拡大していく様子を見せたのだ。強すぎる浄化の力は正常な土地を神域とはいかなくても聖域へと変化させてしまう可能性があった。そうなると、邪神の汚染とは逆の意味で地上の生物が住めなくなる。真なる神域や聖域は地上に住む生命体にとって、生活できる場所ではなかった。

 神域結界は浄化の力を邪神が汚染した土地に止めるために、各宗教の神職が協力し合い張ったものだったのである。

 余談だが邪神の討伐はメアルリア教の教主が単独で成したが、それ以外の邪神の眷属や従属者などはライズサンク皇国の最高戦力や軍の精鋭、またランクの高い冒険者や各宗教の神職などにより倒されていた。

 ともかく、彰弘が言葉にした境界とは、強すぎる浄化の力を押し止める結界が張られている場所のことである。

「いいんじゃない? 魔力が見えない普通の人には結界自体は見えないけど、そのあたりには面白い変化が起きているらしいし。何でも普通の草木や石だったものに魔力が付いたりたりしているみたい。もっとも、ほとんどはその場から離すと普通のものになっちゃうらしいけど」

 浄化の力がそれ以上の範囲に広がるのを防ぐことを可能とした結界であったが、僅かに漏れ出す力までは防ぐことができなかったのだ。それが周辺の物質に影響を与えているのである。

「詳しくは知らなかったから今聞くのだけど。ほとんどと言うことは、そうではないものもあるというの?」

「そうよ。数は少ないらしいけど、ものによっては完全に魔力が定着して元とは別のものに変化してるのもあるらしいわ」

 言葉に反応したミレイヌに、サティリアーヌが肯定の意を返す。

「そんなわけで、ちょっとした宝探しにでも行こうかと考えたわけだ」

「元々、近い内に行く予定ではあったわけだから、それが今日になっただけ。特に反対する理由はないかな」

「同じくです」

「私も構わなくてよ」

「お嬢様と同じくです。あえて言えば宿の主人にこのこと伝えておくべきでしょう。代金は十日分先払いしていますが、出て行ったきりその日に戻らないのでは無用な心配をさせてしまいますし、予定を前倒ししたことを知らない皆さんにも言伝を頼めるでしょう」

「それもそうだな」

 元々予定であったものを一日分前倒ししただけなこともあり、その場の全員が彰弘の提案自体には同意を示した。

 ただ、確かにバラサの言うとおりだ。いくら代金を先払いしているといっても、このことを伝えておけば無用な混乱を避けることができる。

 今はここにいない、早朝から冒険者ギルドの依頼を受けたベント含む草原の爪痕パーティー。いつの間にか獣車の強化という魔改造が決定してしまい、それに付き合うことになったケイミングとルースにファルン。それぞれ別々に行動しているため、今回のことを個別に伝えるのは時間の無駄でしかない。それも宿屋に伝えておけば事足りるのだからバラサの言うとおりしない理由はなかった。

 なお、ケインドルフとカイエンデについては問題はない。

 ケインドルフによる武具とカイエンデも魔導具、どちらも作製には早くても二十日ほどかかると言われていたからだ。勿論、各人に合わせた調整などはあるのだが、それについては一通り作製が終わってからとなっているので、そちら方面に関しても気にする必要はなかった。

「じゃあ決定だな。一度宿に戻って伝言を頼もう。時間が時間だから、ついでに昼飯も宿で食べようか」

 煙草の灰と吸殻を消却の魔導具で消してから、確認にために彰弘はその場の面々を見回した。そして、そこに異論の色がないことを見て取ると「行こうか」と声を出し、足を宿屋へと向ける。

 彰弘たちはこの後、一度宿に戻り自分たちの行動を宿屋の主人に伝えた。そして満足いくまで昼食を楽しんでから、神域結界の境界へ向けて出発したのである。

お読みいただき、ありがとうございます。

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