4-EX03.【グラスウェル魔法学園―進級試験―】
前話あらすじ
順風満帆といえる学園生活を送る香澄。
しかし、入学式当初に自分たちを睨んでいた侯爵令嬢からライバル視され、更に氷姫などと呼ばれ始め、それをどうにかできないかと頭を悩ませていた。
そんな香澄に侯爵令嬢から模擬戦が申し込まれる。
香澄は自分たちの呼ばれ方を条件にそれを受け、無事に勝利することで呼ばれ方を普通に戻すことに成功するのであった。
今日は進級試験がある日。この試験でわたしたちが第二学年へと進級できるかどうかが決まる。
試験の内容は入学試験のときと同じで、二十メートル離れた標的の案山子に向けてどんな魔法でもいいから放つというもの。その魔法を試験官である教師が見て、生徒の魔法技術を判断する。
判断基準は入学試験のときよりも少しでいいから上の魔法技術を示すことだから気楽といえば気楽だ。
とはいえ、試験には真面目に臨むべきではある。ヘタに手を抜いて入学試験のときと変わらないとかになって進級できなかったら目も当てられない。
なお、試験結果によっては留年や退学もありうるが、そんな生徒は皆無に近い。なぜなら学園の授業は適切で入学試験のときから全く成長しないわけがないからだ。例外は病気などで長期療養することになってしまった人と、何のために学園に入学したのかが分からなくなるくらい授業をサボったりと生活態度が悪い人くらい。この例外の前者が留年となる可能性があり、後者が留年ではなんく退学となる可能性がある。
ちなみに、わたしが見る限り今年は留年や退学をする人はいなさそう。
現在、学園内にある闘技場ではBクラスの人たちが試験を受けている最中だ。
わたしたちAクラスの試験は、Bクラスの後である。
「おおっ、みんな案山子まで届くようになってる!」
「うーん。ちょと詠唱が長かったり威力が足りない気がするけど、魔力の制御は上手くなってる感じだよね」
六花ちゃんの言うとおり、Bクラスの人たちの魔法は全て案山子にまで届いていた。ただ、瑞穂ちゃんも言っているように威力に関してはまだまだみたい。
魔法は届きはするものの案山子を壊すまでいかず、せいぜいが表面をちょっと傷付けるくらい。でも、入学試験のときよりも進歩しているのは間違いない。
そのためか、うちのクラスのみんなの顔が段々と引き締まったものに変わってきた。
そんな中で変わりがないのは、わたしを含めて六人。意見交換しながらまだ続いているBクラスの試験模様を観察している六花ちゃんと瑞穂ちゃん。その二人とは違って一切Bクラスを見ないで、自分たちが試験にどんな魔法を使うかを話し合っている紫苑ちゃんとクリスちゃん。そして、わたしのことをライバル視しているルクレーシャさんだ。
六花ちゃんと瑞穂ちゃん、それに紫苑ちゃんは問題ない。ちょっと卑怯な気がしないでもないけど、入学試験のときはあれでも大分抑えて魔法を使っていたからだ。勿論、わたしも。
クリスちゃんに関しても問題はないと思う。学園の授業以外でもわたしたちと一緒に一杯練習していたし、ちゃんと実力は上がっていたから。今はちょっと緊張しているようだけど、それは試験までにきっと紫苑ちゃんが解してくれる。そうなれば進級できないんてことにはならない。
そうそうクリスちゃんといえば、夏休みに彼女の誕生会にいったんだけど、何か想像とは違っていた。
クリスちゃんの誕生会は、サンク王国からの慣習を引き継いだものだった。サンク王国での誕生会は、それが例え貴族令嬢のものであっても参加できるのは誕生日を迎えた本人とその家族、それから本人の親しい人に限られるらしい。あ、あと、お屋敷にいる使用人たちも参加する。
つまり、日本のアニメやマンガにあるような派手で豪華なものではないということ。
でも、決して悪いものじゃなかった。クリスちゃんのことを家族も使用人の人たちも本当に祝っていることが見て取れたし、招待されたわたしたちにも彼女の家族や使用人たちは分け隔てなく接してくれた。うん、とても楽しい誕生会だったことは間違いない。
ちなみに、誕生日を迎えた人に友人知人がプレゼントを贈る習慣はないみたい。勿論、家族や使用人たちは別だけど。
あ、話が脱線した。
えっと……そうそう、Bクラスの人たちの試験を見て態度が変わらなかった最後の一人ルクレーシャさんのことだ。彼女は試験を受ける前にわたしのところにきて、「今日こそは負けませんわ!」と、わざわざ自信満々で言い放っていた。そして、その自信満々な態度は今もって変わっていない。
まあ、ルクレーシャさんも見た限りでは、入学時より順調に成長しているから進学できないなんてことはないだろうけど。
そんなことより、そろそろライバルとかなんとかは諦めてくれないかな。何かこのままだと、貴族家の人との知り合いが意味もなく増えそう。ほんと諦めてくれないかなと、切にそう思う。
さて、それはさておきまして、どうやらBクラスの試験は終わったみたい。彼ら彼女らの顔を見るとどれも満足そうな顔だから、思う結果が出せたってことかな。
わたしたちも頑張らないと。
「見ていなさいカスミさん! 特訓の成果を見せて差し上げます!」
ルクレーシャさんは、わたしをピシリと指差し自信満々な態度で闘技場の指定位置へと足を向ける。
その後を追うのはルクレーシャさんと、いつも一緒にいるミナさん、ナミさん、カナさんの三人だ。彼女らは申し訳なさそうな顔で、こちらに頭を下げてから足早に試験の指定位置へと向かっていった。
なお、この三人は取り巻きというわけではなく、ルクレーシャさんの幼馴染で仲は良いらしい。
貴族家のご令嬢である三人だけど家督を継ぐ必要はなく、将来も自分のしたいことをしてよいと言われていたため、ルクレーシャさんを心配していた三人は家族の了承の下、このグラスウェル魔法学園へと来たとのことだった。
「いやー、香澄愛されているね」
「あげるよ? 瑞穂ちゃん」
「いや、いらない」
ほんと、もう少し普通に付き合ってくれないものだろうか。
そんなことを考えているとルクレーシャさんたちの前に試験を受けていた、寮でわたしと同室のセリーナちゃんたちが戻ってきた。
たち、というのはセーラちゃんとパールちゃんも一緒だからだ。二人は瑞穂ちゃんと六花ちゃんの同室の子たちである。
「相変わらずだねー」
セリーナちゃんは呆れ顔だ。勿論、残る二人も似たような顔をしている。
「ところで、手ごたえはどうでしたか? 見ていた限りは大丈夫そうですが」
苦笑気味の顔でルクレーシャさんの後姿を見ていた紫苑ちゃんが、セリーナちゃんたちに声をかけた。
「まあまあ、かな。うん大丈夫だと思うよ」
「わたしたちも。ね?」
「うん」
試験を終えたみんなは入学試験のときよりも結構威力がある魔法を案山子にぶつけてたし、わたしも三人は大丈夫だと思う。
さてさて、それはそれとしてそろそろわたしたちの番だ。
先ほど試験を受けにいったルクレーシャさんたちも、わたしたちが話している内に試験を終えたみたい。
ルクレーシャさんは伊達に氷魔法を得意としているわけじゃない証拠に、氷で作った槍を案山子へと突き刺していた。もう少し威力が上がれば案山子を完全に貫けるようになるかもしれない。
ミナさんたち三人も大丈夫そう。全員が火の玉を案山子にぶつけて、その表面を少しだけ砕いていた。
「では、私たちの番ですね」
ルクレーシャさんがこっちに戻ってくる姿を見て、さっきまで緊張した様子だったクリスちゃんが気合を宿した目でそう言う。
なんか、入学試験のときと似たような雰囲気になってる。
きっと紫苑ちゃんが上手くアドバイスしたんだと思う。
「準備万端。今日はできそう」
ふいにそんな声が聞こえた。
顔を声がした方に向けると、そこには右手に黒い雷を纏ったような六花ちゃんがいた。
どうやら六花ちゃんは案山子を消し去るつもりらしい。
ルクレーシャさんから激励をもらったわたしたちは試験を受けるため、指定された位置まできていた。
それにしても、「私より情けない魔法を使ったら許さなくてよ」とは、何を考えて発言したんだろう。
まあいいか。がんばろう。
「では、はじめっ!」
最初に魔法を放ったのは瑞穂ちゃんだった。
瑞穂ちゃんの魔法は、入学試験のときと同じ『ウインドバレット』だ。でも、あのときは詠唱してたし標的である案山子の頭を貫いただけだった。でも今回は詠唱なしの魔法名だけ、しかも貫いたのは全部で三か所。顔のなかった案山子に、見事二つの目と一つの口を作っていた。
続いたのはクリスちゃん。こちらも瑞穂ちゃんと同様に使用したのは入学試験と同じ魔法だった。その結果は文句の付けようがないと思う。彼女が放った『ファイアアロー』のために、標的の案山子は上半身部分が地面の上に落ちたからだ。うん、良い威力。
そして、そんな二人の魔法に試験官が驚く中、六花ちゃんと紫苑ちゃんが同時に詠唱を終わらせ魔法名を叫んだ。
「撃ち砕け、『ダークネスサンダー』!」
「滅せよ、『シャイニングサンダー』!」
六花ちゃんの右手からは黒色の雷のようなものが、紫苑ちゃんの右手からは白色の雷のようなものが迸る。
次の瞬間、二人の標的となった二つの案山子は土台部分だけを残して粉々に砕け散った。
場内が静まり返るのも分かる。試験管が間抜け面をしてしまうのも分かる。
やりすぎじゃないかな二人とも。
なお、二人はサンダーと言っていたが別に雷じゃない。この世界には雷とか電気とかないので、あくまで魔法名がそうなだけ。この魔法の正体は攻撃力を持たせた闇属性、または光属性の魔力を雷の姿を模して撃ち出しただけだ。
ちなみに、魔法名についてはイメージがしやすいからというのと、自分たちの目標の一つである魔法を完成させるために必要だから、こうなった。
さて、最後に残ったわたしはどうすべきだろうか。
なんか凄い魔法でも使わないといけない気分になってきた。とはいっても、そんな凄い魔法なんて知らないし……とりあえず、ルクレーシャさんのこともあるし凍らせてみようかと思う。
「覚醒せよ」
体内の魔力を覚醒させ、魔法を使う準備を始める。
「集え」
覚醒した体内の魔力を右手の平に集める。
そして、十分に集まったところでなんの属性も持たない魔力を氷属性へと変えていく。それから標的の案山子へ右手の平を向け魔法を成すための詠唱を開始する。
「我が魔力は全てを凍てつかせる氷結の力」
詠唱とともに力を現し始めた右手の魔力が周囲にある水分を小さな氷と変え、太陽の光をキラキラと反射させる。
ここまできたら後は撃つのみ。
「いって! 『アイススプラッシュ』!」
魔法名とともに右手の周りでキラキラ輝いていた小さな氷が、その数を数十数百倍に増やしながら突き進み案山子へと着弾した。
一つだけならたいして威力もなく、ちょっと冷たいだけでしかない小さな氷だけど、その粒が数千数万の数となれば馬鹿にできない。
結果、無数の氷に穿たれた案山子は強度を失い、やがて崩れ落ちる。が、当然それだけじゃなくて案山子の破片は凍り付いてもいた。氷の粒は案山子の穿たれた場所に留まったままであるからね。
普通の氷じゃこうはならないかもしれないけど、わたしがその意思をもって使った魔法だから、こうなった。
何だかんだで進級試験は無事に終わった。
後は結果を待つだけだけど、全員合格で間違いないと思う。
問題は激しく落ち込んでしまったルクレーシャさんを慰めるときに、一緒に修練する? と聞いてしまったことかもしれない。
どういう心境の変化なのか、ルクレーシャさんはこちらが、そしていつも一緒にいる三人が驚くほど素直に頷いた。
まあ、友達が増えたと思えばいいのかもしれないけど、今までが今までだけにちょっとだけ不安がある。
ともあれ、グラスウェル魔法学園第一学年の進級試験はこうして終わりを向かえたのであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
どうにもうまく書けませんね。
練習あるのみでしょうか。