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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
120/265

4-32.

 前話あらすじ

 彰弘はファムクリツ・ヒーガ冒険者ギルド支部長からの依頼を受けた。

 そして、無事輝亀竜であるガルドの従魔登録を完了させたのである。

 後、アルケミースライムの名付けも終わり、今まで以上に懐かれることになったのであった。




「元気ね。……いえ、若いわね、かしら?」

 そう呟いた女の目に映るのは、四人の少女が元気良く動き回っている姿である。

 女はミレイヌで、その前で動き回っているのは六花たちであった。

 さて、六花たちは何をやっているのか? それは一人を鬼役とし、残りはその鬼に捕まらないように逃げるという鬼ごっこと呼ばれる遊びである。普通と少々違うのは直径十メートル程度という狭い範囲の中で、それを行っていることだ。

 六花たちは世界融合直後の限定加護期間に普通ではない修練を行っていた。それは僅かな期間であったが、それがあり現在の彼女たちは並みの大人よりも優れた身体能力も持つに至っている。そのため、鬼ごっこは傍からの見た目以上に激しいものとなっており、ミレイヌの言葉に繋がるのである。

 もっとも、それだけでミレイヌの感想となったのではない。今の世界は十五歳で成人となる。そのためか元の日本よりも子供の精神年齢は早熟だ。そのため、既に成人しているミレイヌから見たら、余計に動き回る六花たちが若く見えるのであった。

 ちなみに、六花の親友である美弥はこの場にはいない。彼女は自分の両親や彼氏である誠司らと一緒に、この移住の手続きをしに行っているのである。

「俺からしたら、たいして変わらないと思うけどな」

 六花たちから目を離さず彰弘は声を出した。

 彰弘の年齢は現在三十九。現在十七のミレイヌと、下は十一の上は十四である六花たちの両者はどちらも若いとしかいえない。

「あなたからしたら、そうなのでしょうけど……まあ、いいわ。ひとつ聞きたいことがあったのよ」

「聞きたいこと?」

「ええ」

 ミレイヌは彰弘に向き直り、ちらりと今は自分を守る殻ではなく餌となったものをもぐもぐしているガルドへと視線を向けた。

 その視線の意味が分からず彰弘はミレイヌに先を促す。

「私とバラサは別に問題ないからいいのだけれど、何故あなたまでケルネオンに行くのかしら?」

 ケルネオンとはグラスウェルの東に位置する鍛冶鉄工を主産業とする街の名だ。彰弘は昨日輝亀竜のことを皆に伝え、そして殻の欠片を扱える人物がいるその街へと行くことを伝えていたのである。

 ちなみに、そのとき六花たち四人は学園があるため、彰弘と同行できないことに不満を漏らしたが、それは彼女らの卒業後に一緒に行く約束をしたことで事無きを得ていた。

「まあ、俺が行く必要はないかもしれないんだが、普通とはいえないことらしいし、何よりサティーも巻き込んだからな。流石に後はよろしくとはいかないだろ」

 何で今なんだと考えた彰弘だが、ガルドの紹介を終え、ついでだと名を付けたアルケミースライムのミラを取り出した際の状況を思い出し素直に答える。

 なお、その状況とは取り出した瞬間に、名を付けられた喜びを未だ継続していたミラが狂喜乱舞したことであった。人的にも物的にも被害のないできごとであったが、大気中の水分だけでなく彰弘たちが飲むために用意した飲料までも吸収し体積を増した上での喜びの舞をしたミラの姿は、そのとき浮かんだ疑問を軽く吹き飛ばすほどのものだったのである。

 実のところ、輝亀竜の殻の欠片を受け取ることになっている冒険者のベントとカイ商会のケイミング、そして兵士のショウヤも彰弘が同行することを疑問に思わなかったわけではない。ただ、加工後には膨大な量となる輝亀竜の素材と、その希少性を考えて、あえて彰弘が同行することの意図を確認しなかったのである。

 彼らは、その時点でどう扱えばいいのか不明な素材を自分たちだけで何とかするのではなく、彰弘も巻き込もうと考えたのであった。

「そういえば、そんなことを言ってたような気がするわ。確かに、そのサティーさんて方に任せてしまうのも申し訳ないと思うし、欠片を受け取った方たちもあなたが同行した方が都合がよいでしょうね、いろいろと」

 ベントたち三人だけであればまだしも、本来無関係であるサティリアーヌをも巻き込んでしまっている。ここまできたのだから、彰弘も行く方が波風が立たないというものだ。

「そうだな。それに六花たちと旅に出る前に少しでも知っておきたいという気持ちもある。ケルネオン行きは俺が勝手に決めたことだから二人は無理しなくてもいいぞ」

「それは先ほども言ったけど、たいした問題ではなくてよ。私たちはケルネオンに行くことを別に反対しているわけでも、一緒に行くことが嫌なわけではないの。ただ、昨日理由を聞きそびれたから聞いただけ」

「そうです。お嬢様も私も反対しているわけではありません。未だグラスウェル周辺でしか活動をしていないのですから、ケルネオンまで行くことは私たちにとっても意義のあることなのです」

 ミレイヌも、そして今横から声を出したバラサも、今まで冒険者として活動してきたのはグラスウェルの周辺だけであった。ファムクリツについても、いろいろと調べて知ってはいたが、実際にこの街にきたのは今回が初めてである。そんな二人にとって、ケルネオンに行くという彰弘に付いて行くことは、有用なことであり何か特別な事情が起きない限りは反対するに値しないのであった。

「そうか。それじゃあ、来年になるがそのときは頼む」

「よくってよ」

「はい」

 彰弘の言葉にミレイヌとバラサは頷く。

 来年のケルネオン行きは、冒険者であるベントのパーティーとカイ商会の代表であるケイミング、そして彰弘たち三人。それから兵士であるショウヤ……はどうなるか分からないが、ともかく街道が用意されていることを考えると、比較的安全といえる道程になるだろうことが予想できるのであった。









 既に日が傾き夕方といえる時間帯になっていた。そんな頃になって、ようやく六花たちの鬼ごっこは終了したようである。

 昼過ぎからおよそ五時間。途中で休憩を挟んではいたが、それでもとんでもない運動量である。

「いやー、動いた動いた」

「魔物相手の全力とは、やはり違った爽快感があります」

「夕御飯もおいしくいただけますー」

「みんな元気だね。わたしはもうクタクタ」

 その感想は三者三様だ。

 汗だくの顔に笑顔なのは六花と瑞穂で、冷静に満足そうなのはこれまた汗だくな紫苑である。唯一香澄は疲れを隠そうとはしていなかったが、別にそれが嫌だとは思っていない顔であった。

「お疲れさん」

「相変わらず、見た目からは想像できないことをするわね」

「お疲れ様です」

 自分たちのところに戻ってきた六花たちに、彰弘たちもそれぞれ声をかける。

「まだまだ、です。彰弘さんと一緒に行くんだから、まだまだ」

 笑みを引っ込める六花。

 そして、それに残る三人も同意を示した。

 遊んでいるように見えて、六花たちは学園卒業後に備え身体を鍛えていたのである。範囲を限定し距離をとって逃げる以外も相手の攻撃を回避することも行っていたのであった。

「ま、無理はするなよ。とりあえず、飯にしようか。いや、その前に風呂かな。俺らも汗をかいたからな」

 彰弘たちもただ見ていたわけではない。確かに最初は六花たちの鬼ごっこを見学していたが、それは最初の方だけで、残りの時間は交代で素手による模擬戦を他の人の邪魔にならない場所で行っていたのである。

 ともかく、午後の間で十分すぎるほど身体を動かした彰弘たちは、汗を洗い流し風呂でゆっくりとした後、常人の三倍以上の食事を完食したのであった。









 このような過ごし方で彰弘たちはファムクリツ滞在中を過ごしていく。時折、散歩などの観光紛いのことをしたりもしたが、基本は同じである。違いはといえば、この翌日からは六花の親友である美弥や、誠司に康人が加わったことか。

 そんなこんなでファムクリツの滞在期間は過ぎていく。

「美弥ちゃん、また来年来るね!」

「うん。待ってる。今より強くなって待ってるよ」

「うん!」

 十一歳の少女同士のやり取りとは思えない言葉を交わしつつ、これまたそれとは思えない拳を付き合わせる姿を六花と美弥は行う。

 少し離れたところで、そんな様子を見せる二人に苦笑気味の彰弘は、誠司と康人に顔を向けた。

「あの二人に負けないようにしないとな」

「そうですね。幸い仕事がない日は、外に出るのを禁止されているわけではありませんから、無理しない程度に魔物を狩ったりして頑張りますよ。美弥のためにも、自分のためにも」

「僕も、いろいろあったっすけど、生き延びてちょっとだけ強くなれたので、みんなの足手纏いにはならないように頑張るっす。できれば、次会うのときには恋人でもつくって紹介したいっすねぇ」

「まあ、二人とも程ほどに無理せずにな。じゃあ、また今度」

「ええ」

「はいっす」

 彰弘は二人との挨拶を終わらせると、美弥の両親に一礼してから二人と話をしていた瑞穂と香澄の家族へ声をかける。そしてその後で、まだ美弥と話をしている六花たちへも声をかけた。

 彰弘の言葉に気付いた紫苑が身体を返し、瑞穂と香澄もそれに倣う。

 そして六花はというと、美弥に一度抱きついた後で、「またね!」と笑顔を見せてから彰弘のところにとてとてと近付いた。

「さて、皆も待ってるし行こう」

 全員が自分のところに集まったのを確認した彰弘は歩き出す。

 彰弘の歩く先にいるのは、ファムクリツ移住者の護衛だった人たち、移住者の手続きを行うために同行した総合管理庁の職員、そしてミレイヌとバラサという彼のパーティーメンバーと御者として雇ったファルン。さらに、ファムクリツへ移動の際に事を起こして危うく犯罪者となるところだった護送対象の人たちがいた。

 この総勢百名近い人数で、彰弘たちはグラスウェルへの帰途につく。

 こうして、彰弘のグラスウェル以外での初滞在は終わりを向かえるのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



少々短めです。

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