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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-31.

4-30.

 前話あらすじ

 ファムクリツ・セトラにあるメアルリアの神殿で輝亀竜の殻の欠片を加工する情報を彰弘は手に入れる。

 そのころ、輝亀竜の甲羅で長剣を破損させてしまったベントは、ケイミングの紹介により青魔鋼製の長剣を手に入れてご満悦なのであった。




 広大な耕作地で働く人々の姿を横目で見ながら、彰弘たちはファムクリツ・ヒーガへ続く道を歩いていた。

 ファムクリツは大小様々な集落が広大な耕作地内に点在している。そして、その集落間は例外なく並の大きさの獣車なら余裕ですれ違うことができる幅の道で繋がっていた。彰弘たちはその道を歩いているのである。

 なお、この集落間を繋ぐ道とは別に農道と指定されている道も存在した。この農道は耕作地で働く人のみが利用可能なもので、それ以外の人がこの道に入ることは基本許されていない。これはファムクリツの基幹産業である農業は個人個人が行っているものではなく、所謂会社として領が取り仕切っているためだ。

 ちなみに、魔物などが耕作地に侵入した場合には、農道指定は一時的に解除される。

 ともかく、このようにファムクリツに二種類ある道の内の一つを、ファムクリツ・セトラでの用事を終えた彰弘たちはのんびりと進んでいた。









 ショウヤともう一人の兵士が二台の獣車を監視しながら歩くその後方を行く彰弘は、のどかといえる光景を穏やかな顔で見ていたが、ふいに隣を歩くベントへと声をかける。

「今更なんだが。よく信じたな」

 カイ商会にいたときからの上機嫌を未だ維持していたベントは、何のことか分からずに彰弘に顔を向けた。

「いやな。輝亀竜のこともそうなんだが、あの小さな殻の欠片が実はとんでもない大きさであることとかのことなんだけどな」

 彰弘の言葉ももっともなことである。

 今、彰弘の肩に乗っている輝亀竜は、その大きさのこともありどう見ても陸に生息する亀にしか見えない。それに殻の欠片についても見た目からも重さからも、超高密度に圧縮された甲羅であるとは、とても思えないものである。

「ああ、そのことか。一応、あなたが神殿に行っているときにショウヤさんやケイミングさんと話してみたんだが……嘘を言っても意味ないだろうし嘘を言っているようには見えないってなった。ついでにメアルリアの神様の加護持ちだしな。まあ、完全に信じれているわけじゃないが、信じてみるのも一興だ。ってな感じだな」

 冒険者のベントとしては一生ものの装備が自分の分のみならず仲間の分まで手に入る可能性がある。商人であるケイミングにしても取り扱いに悩みそうであるが、一度は手に取りたいと思える一品だ。唯一の兵士であるショウヤは、独断でどうにかできる事ではないために頭を悩ませたものの、上手くいけばベント同様に自分と仲間の分の装備を強化できると考えたのである。

「なるほど。実に冒険者的商人的な考えとなったわけだ。ショウヤさん的にも悪くないかもしれないと」

「ああ。とりあえず、楽しみにしている。俺らは今北西支部を拠点にしているから、行く日が決まったらギルドに伝言を頼んでいてもらえると助かる」

「分かってる。サティーの予定もあるだろうから、恐らく来年の春あたりになるだろうが、間違いなく伝言を残しておくよ」

 そんなやり取りを彰弘とベントがしている内も歩みは進んでいる。ファムクリツ・ヒーガの門はもうすぐであった。









「じゃあ、そっちは頼む」

「了解だ。次に会うのは来年の春か? まあ、そのときはよろしくな」

「ああ」

 ファムクリツ・ヒーガの冒険者ギルド建物の中に入り、そんなやり取りをしながら彰弘とベントは二手に別れた。

 彰弘は従魔登録と先日ギルドの支部長であるグランソンから頼まれた依頼を受けるため。ベントはカイ商会の代表であるケイミングから受け取った金銭を、グラスウェルからファムクリツへの道中でオークを一緒に討伐した残る二つのパーティーへと渡るように手続きをするためである。

 なお、ショウヤともう一人の兵士、そして獣車二台はファムクリツ移住者の護衛隊が一時的に留まることになっている仮設住宅が建てられた一角へと向かった。獣車二台とその御者や商人は、護衛隊がグラスウェルに戻るまでの間、監視付きの謹慎扱いとなるのである。

 ともかく、そのような理由で独りとなった彰弘は、まず依頼受付カウンターへと向かった。

「ようこそ。依頼書を確認します」

 カウンターに座った栗毛の女職員は、依頼書の類を持っていない彰弘が自分のところに来たことを訝りながらも、お約束の言葉を口にする。

 通常冒険者ギルドでは、依頼が貼り出された掲示板から冒険者自身が受けたい依頼の紙を剥がし依頼受付カウンターに持っていく。そしてそれをギルドの職員が依頼内容や持ってきた冒険者のランクなどを考慮して、依頼を受けさせても大丈夫か否かを判断する。

「依頼書はない。確か今日の朝には依頼が用意されていると支部長から言われていたんだが、確認してもらえないか?」

 別段気負った様子も見せずにそう返してきた彰弘に、栗毛の女職員は今朝方話のあった依頼のことを思い出した。

 そのため、「少々、お待ちください」と断ってから立ち上がり、カウンターの奥にある指名依頼が保管されている棚へと近付く。そして目的の依頼と封筒を手に取ると、彰弘の前に戻ってきた。

「お待たせしました。当ギルドのグランソンから、断罪の黒き刃のアキヒロさんへの依頼ですね。身分証のご提示をお願いします」

 彰弘の差し出す身分証を受け取った栗毛の女職員はいつもと変わらぬ手続きを行う。

 そして、その手続きを終わらせ彰弘へと身分証を返すと依頼内容の説明を始めた。

「依頼内容はグラスウェル北西支部へこの封筒を届けていただくというものです。特に期間は定められていませんが、グラスウェルに着き次第速やかに行っていただけると助かります」

「分かった。向こうに着いた日にギルドへ行って届けよう」

「ありがとうございます。では、よろしくお願いいたします」

 栗毛の女職員は一礼をしてから封筒を両手で持って彰弘へと差し出す。

 彰弘はそれを受け取ると、その場でマジックバングルへと収納した。

「それが噂のマジックバングルですか?」

 彰弘の行動に思わずといった声が出たのも仕方ないことかもしれない。彼が持つ魔法の物入れは普通に流通するようなものではなく、この栗毛の女職員も昨日話には聞いていたが、実際にその目で見るのは初めてだったからだ。

 なお、本来業務に関わること以外での雑談は褒められたことではないのだが、今は昼前という時間であって他の誰かに迷惑をかけるものでもない。多少のことは許容範囲内のことである。

 勿論、声をかけられた本人――この場合は彰弘――が迷惑に思うのであれば別だが、そうでなければ問題とはならない。

「ああ、ほら」

「はぁ、便利ですねえ」

 仕舞ったばかりの封筒を再び手の中に取り出した彰弘に、栗毛の女職員は感嘆の声を出す。

 そんな様子に彰弘は笑みを浮かべると再び封筒を仕舞い、もう一つの用件を済ますために声を出した。

「ところで、従魔の登録をしたいんだが、どうしたらいい?」

 呆けたように封筒が消えた彰弘の手を見ていた女職員は、はっと顔を上げる。

 そして周囲を見渡し、ある一点で目を止めた。

 そこにいたのは、先日彰弘がオークの換金をしたときに対応した職員である。

「でしたら、あそこに昨日あなたが持ち込んだ素材の買い取り対応した職員がいますので、彼女のところへ行ってください。それにしても魔物使い(テイマー)だったのですか?」

魔物使い(テイマー)というわけじゃないが、今日いろいろあったんだ」

 思わずため息が漏れる彰弘。

 それを見た栗毛の女職員は、「神様の名付きの加護持ちともなると大変なんですねえ」と漏らした。

 「まあ、退屈だけはしないな」と、彰弘は苦笑を浮かべた後で、お礼を言ってその場を立ち去る。

 そんな彰弘の背中には、「依頼をお願いします」という言葉が栗毛の女職員からかけられたのであった。









 時間が時間なだけに暇そうにするギルド職員の前に彰弘が立つと、その彼女はそれまでが嘘のように笑みを浮かべた。

「ようこそ。今日は何を換金いたしますか?」

 その変わり様に彰弘は半ば感心したような呆れた笑みを浮かべる。

「今日は換金じゃないんだ。ここで従魔の登録もやってると聞いたんで来たんだが、間違いないか?」

「はい。やっています……って昨日の。魔物使い(テイマー)だったんですか?」

 先ほどの栗毛の女職員も同じ反応をしていたなと彰弘は思い出した。

 モーギュルなど一部の魔物を除いて、魔物を使役できるのは魔物使い(テイマー)のみというのが、この世界の常識である。そのため、ギルド職員である二人は同じような反応をしたのだ。

 勿論、広く知られているわけではないが例外というものもある。それは、長く生き人種(ひとしゅ)の言葉を理解できるようになった魔物は、言葉の交流を通じて魔物使い(テイマー)とその従魔のような関係になることもあった。だがそれは本当に極一部だけである。

 魔物使い(テイマー)以外が従魔登録を行うことは稀有なことであった。

魔物使い(テイマー)じゃないが、いろいろあったんだ」

「はあ、まあこちらとしては拒否する理由はありませんね。では従魔登録の説明をさせていただきます。といっても難しいことはありません。登録用紙に必要事項をご記入いただき、その従魔がちゃんと使役者の言うことを聞くかどうかの確認を行います。それで問題がなければ晴れて登録が完了となります。では、こちらに記入をお願いいたします。あ、ちなみに私の名前はケイです。一応、二度目のお相手となりますのでお伝えしておきますね」

 いつのまに取り出したのか、ケイは登録用紙と記入用のペンを彰弘に差し出す。

 それを受け取った彰弘は特に躊躇うこともなく必要事項を記入していく。

 登録用紙に記入する内容は、使役者の氏名、従魔の種類、従魔の名前だけである。そのため、彰弘はものの一分と掛からず記入を終えた。

「はい。確認します。使役者はアキヒロ・サカキ。従魔は輝亀竜。従魔の名前はガルド。……輝亀竜!? まじ?」

 登録用紙の内容を機械的に読み確認していたケイは、それを読み終わった後でありえない内容に素の口調で疑問の声を上げた。

 その声に、この場にいた冒険者ギルド職員と偶々建物内にいた冒険者が一斉に顔を彰弘とケイへと向ける。

 ここ暫く従魔登録どころかその発見報告すらない、噂だけは存在する輝亀竜という言葉を聞いたのだから当然の反応であった。

 そのことに気付いた彰弘であったが、いちいち反応していては埒が明かない。とりあえず、周りの反応は無視してケイの疑問に答えることにする。

「嘘じゃないぞ。神様もそう言ってたしな」

 彰弘は輝亀竜という存在を、つい先ほどまで知りさえしなかったのだが、輝亀竜本人からとメアルリアの一柱である平穏と安らぎを司る破壊神のアンヌより、そう聞かされていた。彼としては、その事実だけでガルドを輝亀竜であると信じるに足りたのである。

「いやもう何ていうか、神様の名付きの加護持ちって、あなたに会うまで会ったことがありませんでしたが、普通じゃないんですね」

「普通の基準は分からんが……とりあえず、この後は?」

「はあ。まあいいです。この後は、あなたと従魔の関係確認を行います。大きさはどのくらいですか? それにより場所を移す必要がありますので」

 さらりと流されたことをため息一つでケイは飲み込み、次に行うことを示す。

「大きさなら問題ない。ほら」

 彰弘が腰に吊るした皮袋から取り出したのは、手の平程度の大きさの生物であった。その姿形は誰が見ても陸生の亀である。

 なお、建物に入るまでは彰弘の肩の上にいた輝亀竜であるが、グランソンの依頼を受け取る際には邪魔になると思い、一時的に皮袋の中に入っていたのであった。

「えっと、この子が輝亀竜……ですか?」

「ああ」

「亀……ですよね?」

「そう見えるが、輝亀竜で間違いない」

 ケイは困ったように周りに目を向けるが、それに返されたのは困惑したような表情ばかりであった。

(あるじ)よ。今のワレの姿は正しく亀そのものじゃから仕方ない。だが、普通の亀ではないと思われれば、とりあえずはいいのではないか? どうじゃろう、そこなケイという者にワレの甲羅を攻撃させてみてはどうかな。殻の欠片もいくつか吸収したし、多少腕に覚えがある程度では傷一つつかんぞ)

 脳内に届くガルドの声に彰弘は思考する。それからケイの体格や動きを見て大丈夫そうだと判断すると口を開いた。

「その困惑は分からないでもない。だが、輝亀竜であることは事実だ。その証拠というわけではないが、試しにこいつの甲羅でも攻撃してみるのはどうだろう? 少なくとも普通の亀でないことは分かるはずだ」

 周囲に向けていた目を戻したケイは、そんなことを言った彰弘と亀にしか見えないガルドを交互に見る。

「いえ、それは流石にできません。アキヒロさんが神の名付きの加護持ちということは昨日の段階で分かっていますので、この子が輝亀竜であるということはギルドとして承認します。ですので、この子がアキヒロさんの言うことを聞くことを示してください。それが確認できれば正式にこの子があなたの従魔であると登録いたします」

「そうか。なら、ガルド右前足を上げてみろ」

 彰弘の指示に従いガルドが器用に右前足を上げる。

 それから左前足を上げたり、後ろ足だけで立ち上がったりと次々に彰弘の声にガルドは応えていく。

「じゃあ、今度は目の前のケイさんの言葉に従って動け」

「え? 私ですか?」

「問題ない。ほらガルドも頷いている」

 ケイが半信半疑でガルドを見ると、確かに首を上下に動かしていた。

「では、お手!」

 ケイが指示したのは、彰弘が指示しなかった狼系の魔物を使役する魔物使い(テイマー)が、よくやる動作である。

 先ほどまでの彰弘とガルドのやり取りで従魔登録の条件は満たしていたのだが、あえてそれまでに行っていない動作を要求したのは如何様な理由なのか。

 果たして、ガルドは自分の右前足を差し出されたケイの手の平の上に載せた。

「おおう!」

 思わず声を上げるケイ。と、周りで固唾を呑んで見守っていたギルド職員と冒険者から拍手が起こる。

 そして、「よし」の声で右前足を降ろすガルド。

 これにて輝亀竜であるガルドの従魔登録は間違いなく可とされた。

 ちなみに、ケイが「お手」を指示したのは特に意図はなく、それまでの彰弘とガルドのやり取りに呆気に取られていたため、思わず一番見慣れているそれを口にしてしまっただけのことである。

「んんっ、失礼しました。特に問題はありません。登録を行います」

 空咳の後、ケイはカウンターの下から一つの魔導具を取り出した。

 それは中央に身分証の大きさと同じだけの四角があり、両脇に透明な石のようなものがはめ込まれたものである。

「では彰弘さん、身分証を中央の四角い部分に置いてください。そしてその後で、右側の石に触れてください。左側の石にはガルドちゃんを触らせてください」

「分かった」

 彰弘は身分証を置き右側の石へと触れ、それからガルドへと目をやる。

 するとガルドは「心得た」と彰弘に念話を飛ばすと、自ら移動し左側の石へと右前足を載せた。

 その様子に目を丸くするケイに、彰弘は「賢いだろ?」と笑みを浮かべる。

「賢いどころじゃありません。まさか、この子は私たちの言葉が分かるのですか?」

 驚きのままガルドを見るケイへと返されたのは、輝亀竜の上下に振られる頭であった。

 そうこうする内に、身分証を載せた中央部分が僅かに光り、従魔登録の完了を知らせる。

「……はっ!? 従魔登録はこれで完了です。では諸注意ですが、まず従魔には従魔であることの印を付けてもらいます。従魔の身体のどこかにこれを付けて置いてください。これを付けていないと、いらぬ誤解を受けることがあります。最悪の場合、犯罪者ということになってしまうので、必ず付けてください。」

 表情を戻したケイは、カウンター下から取り出した独特な模様の付いた、直径が四センチメートルくらいのメダルを取り出した。

「この子の大きさだと印が甲羅の上に来るように固定するのが良いと思います」

 メダルを受け取った彰弘はどうしたものかと首を傾げる。

 ガルドの言い分を信じるならば、そう時間をかけずに大きくなるだろう。とすると、紐か何かで身体に固定するのはあまり良い手とは言えない。なら、どうするか?

 と、そんなことを彰弘が考えていると、ガルドからの念話が届いた。

(あるじ)よ。それをワレの甲羅の前側に付けてくれんか? 甲羅に固定する)

(そんなことができるのか?)

(問題はない。伊達に数千年生きているわけではないからの。さ、早く)

 彰弘は半信半疑ながらも、ケイから受け取ったメダルをガルドの甲羅へと触れさせる。すると甲羅がメダルの大きさと同じだけ凹み、がっちりとはめ込まれた。それだけでなく、逆さになっても落ちないようにメダルの縁部分は釣り針の返しのようになった甲羅が食い込んだ。

「こういうことになったんだが、問題はないかな?」

 自身も驚きながらも、従魔の印がガルドに固定されたことを確認する彰弘。

 それに対して、ケイは目を丸くしながらこくこくを無言で頭を動かした。

「輝亀竜って凄いんですね。いえ、この子が特別なのかも。……失礼しました。結構です、問題ありません。では、最後になります。従魔が起こしたことは全てその使役者が起こしたこととして扱われます。例えば、この子が何か壊したり誰かを傷つけた場合、それは使役者であるアキヒロさんが行ったこととなるわけです。ですので、十分にそのことは留意してください。もっとも、ここまで頭の良い子ならば、そんな心配は無用だとは思いますが」

「なるほど。ところで一つ質問なんだが、もしガルドが攻撃を受けた場合、それに対して反撃をすることは許されているのか?」

「それは状況によります。防壁の外でならば基本は可です。ですが、防壁の中であった場合、致命となる攻撃以外は不可と考えてください。納得できないかもしれませんが、魔物は魔物ですので」

(心配するな(あるじ)よ。ワレも伊達に竜ではない。随分と軟くなっている甲羅ではあるが、ものの数日もあれば殻の欠片を吸収し終える。そうなれば、大抵の攻撃ではビクともせんぞ。当然、甲羅ほどではないが、それ以外も魔鋼なぞよりもずっと堅くなる。ちなみに、水の中や土の中、それに火の中に入れられても大丈夫じゃ)

「そうか。分かった」

 前半はガルドに向けて、後半はケイに向けての言葉である。

 魔物というのは基本的に人種(ひとしゅ)の敵だ。ケイの言葉も分かるというものだ。

 それに殻から出てきたばかりのときでさえ、熟練といえる冒険者であるベントの長剣を破損させるだけでの強度を持っていたガルドの甲羅である。それに甲羅に覆われていない部分も魔鋼よりも堅くなるというのだから、心配するだけ無駄であった。

「後は特にはないかな?」

 一通り考えを巡らせた後で彰弘は他にはないかと、ケイへと問いかける。

 それを受けたケイは手元の資料を確認し、全て伝え終えたことを彰弘へと返した。

「さてガルド行くか」

 彰弘はカウンターの上にいるガルドに声をかけると自らの手を差し出す。

 そして、その手から腕を伝わり肩へとガルドが登り位置を固定したのを確かめると、ケイへとお礼の言葉をかけてからその場を後にする。

 そんな彼の背中をギルド職員と冒険者は、何とも珍しいものを見たという思いを誰一人違わず抱いた後、日常へと還っていくのであった。

 なお、全くの余談であるが、従魔にした輝亀竜に名を付けた彰弘は、それと同時に彼が契約しているアルケミースライムにもミラという名を付けている。

 その際、ミラは名を付けてもらえたことを身体全体を使って喜びを表した。それは何も知らない人が見ればスライムが人を襲っているように見え、周囲を騒然とさせたのだが、それは彰弘の必死な説明により事無きを得ている。

 ともかく、思った以上の時間がかかったものの、彰弘はようやく六花たちが待つ、ファムクリツの北の玄関口であるファムクリツ・ノスへと向かうのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



輝亀竜は防御特化。

だが、しかし成体以上の突進と噛み付きは脅威である。というか天災レベル。


二〇一八年 九月 九日 一時五十五分 変更

最後に書いてある街の名前を変更

変更前)ファムクリツ・ギダン

変更後)ファムクリツ・ノス

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