4-26.
4-25.
前話あらすじ
後片付けオーク編。
オークの血抜きおよび内臓取り出し洗浄完了。今回の事を引き起こした馬鹿引渡し完了。オークだったものの回収完了。
二〇一六年 九月二十四日 二十時十七分 誤って投稿した「4-24.」の完成版を投稿
追加文章部分:死体の焼却を行った後
追加文章内容:その場に散らばる無事な荷物を回収する等の文章を追加。
(少々長めの文章追加ですが、話の大筋には関係ありません)
ファムクリツへの移住行程三日目。茜色に染まりつつある空の下を歩く移住者たちの耳に、目的地まで後少しをいう護衛の兵士の声が届く。
その言葉に、疲労で下を向いていた移住者たちが視線を上げと、その目に事前に説明を受けていたものと同じファムクリツの姿が映った。
「おお!? ほんとだ。なんか壁のようなもんが見えてきた!」
「あれがファムクリツ・ヒーガなんだー」
「ん? ひーが、って?」
「瑞穂ちゃん……、もしかして忘れたの?」
「あ、えーと。ひーが……ヒーガ……。おお、東の玄関口だ!」
「もう。そのくらい忘れないでよ」
ここ数日で恒例となった瑞穂と香澄のやり取りに、近くを歩く移住者の間から失笑が漏れる。ただ歩くだけの三日間、この二人の掛け合いは一種の清涼剤のようなものであった。
「それはまあ置いといて。やっぱ狭く見えるね」
「仕方ないわね。グラスウェルみたいに一か所に人が集まってるわけではないもの。耕作地の中に点在して生活しないと、とてもじゃないけど全部を世話なんてできないわ」
「お嬢様の言うとおりです。もし仮に中心部一か所に集中した生活する場合、そこから一番遠い耕作地へ行くだけで半日以上使います。とても耕作などできません」
ミレイヌとバラサの説明に、瑞穂は「ほへー」と、間の抜けた声を出した。
ファムクリツの耕作地は広大だ。領主主導の下に、自分たちの分だけではなく、周辺の街の分まで栽培しているのだから相応に広い。
例えば現在のファムクリツの耕作地全てを正方形とした場合、その一辺の長さは五十キロメートルを超える。
元地球のように自動車などがあるならば別だが、今の世界にはそれの変わりとなるものが存在しない。そのため、耕作に携わる人は耕作地の中に点在して住んでいるのである。
なお、耕作地の中であっても人々は防壁の中で生活をしていた。耕作地が広大であるために、そこ全てを防壁で囲むことは費用と労力の面で無理があるからだ。それでも耕作地が必要以上に荒らされないのは、防衛を担当する人たちが日々耕作地周辺の魔物を狩り続けているからであった。
ちなみに、ライズサンク皇国とその隣国の農業は、大抵がファムクリツと同じような形態である。
ともかく、移住者たちは、その姿を目にしたことにより元気を取り戻した足を、ファムクリツへ進めるのであった。
ファムクリツ・ヒーガへ入る手続きをするために、彰弘たちは防壁の外で順番を待っていた。
移住者とその護衛である兵士、そして総合管理庁からの依頼を受けた冒険者は、国の施策である移住に直接関わっていたことで優先的に街に入る手続きを終わらせることができたのだが、彰弘たちはあくまで同行した協力者でしかない。そのため、普通に順番待ちをしているのである。
なお、オークに襲われ、移住者がいる方へ逃げ出してきた商人とその護衛である冒険者の集団は、何人かの兵士に囲まれて列の最後尾に付いていた。彼らは兵士に見張られていることで、順番待ちの列に並ぶ事情を知らない人たちの視線に居心地悪そうにしていたが、それは道中それだけのことした酬いである。
そんな状況の中で待つこと暫し。ようやく彰弘たちの番となったが、この場所での手続きは初めてだったことから、最早恒例となった流れが再現された。
再現とは次のようなものだ。
まず六花たち四人の誰かが、手続きのために身分証を衛兵に差し出す。
次に身分証を受け取った衛兵は、そこに国之穏姫命の加護が記されていることに目を丸くし、数回身分証とそれを差し出してきた本人を見比べる。
そうこうしている内に衛兵は我に返り通常の手続きを終わらせ、申し訳なさそうな顔で身分証を返してくるので、六花たちはそれに微笑みを返す。
以降人数分、つまり計四回これが繰り返されるのである。
ちなみに、彰弘の場合はその年齢と服装から、ありえなくもないと思われるのか、六花たち四人ほど驚かれることはない。
ともかく、そのような調子で街へ入る手続きを終わらせた彰弘たちは、歩きながらファムクリツ・ヒーガの街並みを眺めていた。
その全体的な印象はグラスウェルと、そうは変わらない。防壁があり、その防壁から各施設や民家が建つ場所まで、そこそこの空き地があるのも同じ。建物の様式なども大きな違いは見当たらない。
「グラスウェルとそう変わらないんですね」
「うんうん、そう思う」
紫苑の短い感想に、きょろきょろ周囲を見回す六花が頷く。
ファムクリツを実際に見るのは初めての彰弘に瑞穂や香澄も同じ感想を持ったようである。
建物の様式とかはともかくとして、街の中の雰囲気は耕作を主産業としているということで、五人はもっと違うと思っていたのであった。
「このヒーガのようにファムクリツの外側に面している街は大体こんなものね。領都であるグラスウェルに近いこともあるけど、魔物に対抗するための兵士や冒険者が多いから雰囲気も似ているのよ。耕作地の中にある街なら、ここよりものどかよ」
「ほう、日本の田舎みたいな感じか?」
「日本の田舎が分からないから、それは何とも言えないわ」
「おおう、ちょっと楽しみ」
このようなことを話しながら彰弘たちが、ファムクリツ・ヒーガの街中を歩いていると、彼らの目に一人の兵士が向かってくる姿が映った。
「あれは二日目のオークを確認にきた……」
「そうみたいね。邪魔にならない場所で立ち止まった方が良いのではなくて?」
獣車込みで移動しているために、へたな場所で立ち止まると邪魔になる。
彰弘たちは適当な場所を見つけて、そこへ移動し兵士が近付いてくるのを待つことにした。
「なんのようだろ?」
「集合場所変更だったり?」
「元々は、わたしたち自身で宿を見つける必要があったから、そのことかな?」
「今回のための仮設住宅が余っていると言われたのは、つい先ほどですから、それはないかと思いますが」
立ち止まるや否や、兵士が自分たちのところに来る理由を考察し出した六花たち。
それとは別に、彰弘は昨日以前にも会ったことがあるようなと記憶を探っていた。
そうこうする内に、兵士が彰弘たちと会話が可能な距離まで近付き頭を下げる。
「ああ、思い出した。アキラ隊長のとこの、ショウヤ・ホンゴウさんか」
いきなりの声に、頭を下げたショウヤを含め、その場の全員が彰弘に注目した。
その状況に彰弘は苦笑を浮かべてから口を開く。
「すまん。思わず口に出た。随分と見た目が変わっているから昨日は気付かなかったが、あなたは避難拠点の仮設住宅に魔石を届けてくれたショウヤさんですよね?」
「え、ええ。あの後、一度も会ってませんでしたから、覚えてもらえているとは思いませんでしたよ。それにしてもよく分かりましたね。言われるとおり、自分でも驚くほどに外見が変わっているんですが」
元日本人から兵士になった人たちは、元の職業が何であれ一定以上武具が扱えるようになると強制的に魔物を狩らされていた。
これは魔物を倒すと、その魔素を吸収し強くなることができるからだ。
ショウヤも例外ではなく、その魔物狩りを行っていた。そのため、今現在は一回り程度身体が大きくなり、顔も以前に比べ精悍さが増している。
ちなみに、彰弘と違い、元自衛官であるショウヤは贅肉のない身体をしていたので、そういった方向での身体の変化はない。
「見た目はともかく、雰囲気は変わってないようだったからな。それはそうと、わざわざ来てくれた理由を聞いても?」
「勿論。そのために来たわけですから。といっても、たいしたことではありません。アキヒロさんたちは、この後冒険者ギルドへ向かいますよね? そのときに少々お願いしたいことがありまして」
「ここに着いたことの報告もあるし、その予定だが。お願い?」
「はい。二日目のオーク襲撃のことを。正確には、それを行った者たちのことを説明する場に同席してもらいたいいうのが、アキラからの伝言です。説明にはアキラの他に、清浄の風のグレイスさんも行くのですが、やはり実際にその場にいた人にも同席を願いたいということです」
今回の件の場合、グラスウェルの冒険者ギルドに所属している冒険者を、ファムクリツの冒険者ギルドが処罰することはできないが、それでも報告しておけばその者たちが滞在中に新たな依頼を受けさせなくすることや、宿に謹慎させるなどの制限をかけることはできる。
「まあ、今日は冒険者ギルドに行った後は休むだけだから構わない。ところで、何故俺に?」
「あの場でリーダー役をやっていたとのことですので」
「そういうことか。仕方ない。じゃあ、この後は集合場所に着いたら、アキラ隊長のところへ行けばいいと?」
「はい。お願いします。では、私はこれで。別件の用事がありますので、失礼します」
この場での用事を終えたショウヤは軽く頭を下げると、先ほど彰弘たちが街へ入るための手続きをした東門の方へ歩み去っていった。
その様子を少し眺めていた彰弘はため息を一つ吐き出す。
それから、「リーダー役なんてやるもんじゃないな」と、そう呟いたのであった。
ファムクリツ・ヒーガの冒険者ギルドの中は非常に混雑していた。元々夕方という時間帯の混んでいるところに、今回ファムクリツへ移住する人たちを護衛してきた冒険者が訪れていたからだ。
「こりゃ、少し外で時間を潰した方がいいか?」
「かもしれねーな」
移住の護衛で来た冒険者は口々にそう言うと、混雑が解消されるまで酒でも飲もうと外へと出ていく。
「グレイス。こっちも外に行ってる」
「分かりました。合流は仮設住宅の場所で」
「あいよ」
清浄の風も、どうやら混雑を嫌い所在報告は後にするようである。
そんな周囲の様子に彰弘はアキラに顔を向けた。
「アキラ隊長、どうする? 先にあいつらのことを報告するなりした方が良さそうなんだが」
「私もその方がいいと思います」
「そうしましょうか。少し待っていてください。ここの支部長に話は通っているはずですが確認してきます」
この街に着いてすぐに、アキラはここの支部長に面会の可否を確認していた。当然のことながら、ギルドに支部長が必ず在席している保障はないからだ。
彰弘とグレイスの言葉を受けて、アキラは先に今回の件を支部長へと報告するために、総合案内カウンターへと向かった。
そのアキラの背中を一瞥した後で彰弘は、六花たち自分のパーティーメンバーへと顔を向ける。
「六花たちは、どこかそこらの喫茶店で時間を潰していてくれるか? ここが空くまで暫くかかりそうだ」
「むー。しかたないです」
頬を膨らませる六花に、「そう、むくれるな」と彰弘は声をかけ、その頭を撫でた。
それからミレイヌとバラサへ視線をやる。
「ミレイヌ、バラサ、悪いが頼む」
「よくってよ」
「承知しました」
「こっちは、どれだけ時間がかかるか分からないから、戻って空いていたら先にやっててくれ」
「ええ。多分、一時間くらいしたら、ここの混雑も中の喫茶室も空くでしょから、そこで待っていることにするわ」
彰弘たちがそんなやり取りをし、行動を決めたところでアキラが戻ってきた。
その顔を見るに、どうやら支部長は在席いるようである。
「お待たせしました。行きましょう。あなたたちも行きますよ」
アキラは彰弘とグレイスに声をかけた後、今回の事を起こした冒険者たちを促し、案内のためにカウンター内から出てきた冒険者ギルド職員へと歩み寄る。
「面倒だが、行くか」
「そうですね」
彰弘とグレイスも顔を見合わせたその後でアキラたちに続いた。
そんな二人の後ろ姿を見えなくなるまで見送った六花たちは、ミレイヌを先頭に冒険者ギルドを一時後にする。
なお、冒険者登録を解除するためにギルドへ来ていた美弥と誠司に康人、それにジンとレミも、この混雑の中で列に並ぶ気にはならなかったようだ。お互い声を掛け合い、六花たちと一緒の喫茶店で時間を潰すことにしたようである。
ちなみに、この冒険者ギルドの混雑が解消されたのは、ミレイヌの予想通り、およそ一時間後のことであった。
お読みいただき、ありがとうございます。
感想にあった質問、「地球側の土地が少ない」について
日本と融合した異世界側の土地は面積でいえば四倍以上となります。
そのため、本編中ではあまり出てきません。
後、魔物の脅威があるために日本の土地にそのまま済むことは難しい、また主人公が異世界側の街を拠点として活動しているなどの理由があり、結果的に日本の土地に関しての表現が少なくなっています。
二〇一六年 九月二十四日 二十時十七分 誤って投稿した「4-24.」の完成版を投稿
追加文章部分:死体の焼却を行った後
追加文章内容:その場に散らばる無事な荷物を回収する等の文章を追加。
(少々長めの文章追加ですが、話の大筋には関係ありません)