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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
109/265

4-21.

 前話あらすじ

 八月初日。六花の親友である美弥がファムクリツへ移住する日がやってきた。

 彰弘たちは、美弥やその家族、それに誠司たちを見送るために、同行者であり協力者という立場でグラスウェルの北西門を潜るのであった。




 この日、グラスウェルを出発しファムクリツへ向かうのは七百名ほどである。

 その構成は、移住者である元日本人がおよそ五百名に、彼ら彼女らの護衛兼道中の世話役である兵士と冒険者が双方合わせて百名強。ファムクリツで移住に関する様々な手続きを行うための総合管理庁職員が五名に、彰弘たちのように移住に便乗する形でファムクリツへ向かう商人などが百名弱であった。

 ちなみに、移住者の家財道具や野営の道具を乗せた獣車の御者を務めるのは、それができる兵士だ。

 そんな七百名ほどの人たちは、現在六つの集団に分かれていた。

 六つの集団の内の五つは、移住者を百名程度ずつに分け、それぞれに護衛の人員を均等に割り振ることでできた集団だ。ここには総合管理庁の職員が一名ずつと、彰弘たちのようにファムクリツへの移動に協力することを示した者たちも加わっている。

 残る一つは、自分たちの移動に大人数の移動を利用することだけを考えた者たちだ。この者たちは移住者の集団とは完全に別の集団という扱いで、移動する位置も移住者たちの集団から、少し離れた最後尾を進むことになっていた。









「よろしくな。ところで、それはどうする?」

 自分たちが行動をともにする移住者の集団に近付くなり、彰弘は見知った顔に向けて声をかけた。その先にいたのは、世界融合の初日に知り合いとなった誠司たちだ。当然、そこには六花の親友である美弥とその家族、そして康人もいる。

「道中よろしくお願いします。そうですね、邪魔にはなりませんが、まだ使いこなせませんし……お願いできますか?」

 誠司は挨拶を返した後で、その手に持つ自身の身長ほどもある金属製の棒を一瞥してから、それを彰弘へ渡した。

 その様子を見ていた美弥と康人も、「すみません。わたしのもお願いします」、「僕のもお願いするっす」の言葉とともに、誠司と同じ金属製の棒を二人は彰弘に渡す。この二人も誠司と同様に、まだ金属製の棒を上手く扱えないでいたのである。

 さて、この誠司たちが持っていた金属製の棒は何なのかだが、これはファムクリツへ移住する三人への餞別として彰弘が渡していた物だ。元々は剣の類を送ろうと考えていた彰弘であったが、移住後に冒険者を辞めることを決めていた彼らの要望もあり、餞別の一品を金属製の棒としたのである。

 なお、この金属製の棒は、誠司たち三人がその意図を持って魔力を流すと、棒の両先端に槍の穂先のような魔力の刃を発生させることができる代物だ。無属性の魔力を宿している魔鋼という金属を、イングベルト武器店の店主であり鍛冶職人でもあるイングベルトが張り切り鍛え造った結果、そのような機能を持つに至ったのである。使いこなすことさえできれば、並みの魔剣よりも強力な武器となるはずであった。

 ちなみに、この棒に使われている金属は彰弘の鎧用にとイングベルトが取り寄せたものであったが、暫くはブラックファング製の防具で十分という彰弘の言葉で、誠司たちへの餞別に使われたのである。









 誠司たちから受け取った三本の金属製の棒をマジックバングルへと収納した彰弘は周囲を見回した。

 黙って出発を待つ人に、そわそわと落ち着かない人。隣の人と話をする人や、辺りを見回す人。ファムクリツへ移住することを決めた人たちは、それぞれがそれぞれの気持ちで出発を待っていることが見て取れる。

 そんな三者三様の様子を見せる人たち唯一の共通点は、老若男女の区別なく誰もがある程度の緊張を顔に浮かべていたことであった。

 世界の融合からおよそ十か月。ファムクリツへ移住することに決めた人たちは、街を囲う防壁の外を行く最低限の心構えができていたのである。

 そんな人々の様子に安堵を覚えた彰弘は、改めて辺りを見渡した。すると今度は見知った男女二人が、自分たちのところへと歩いて来る姿が目に映った。

「ここにも形式上護衛を配置しなきゃいけないのは分かるけど、過剰だよな?」

「移住する人たちと、善意で協力してくれる人たちを最初から計算に入れちゃダメだよ」

「いや、分かるけどさ。分かるけどな」

 そんな会話をしつつ彰弘たちに近付くのは、ジンとレミという二人の冒険者である。

 ジンとレミは、現在彰弘のパーティーに入っているミレイヌとバラサの二人とパーティーを組んでいたことがあった。しかし、そのパーティーはジンとレミ、ミレイヌとバラサという両者間の軋轢により解散することとなってしまう。だが、その後不和を解消した両者は再度パーティーを組むことはなかったが、今では以前よりも良い付き合いとなっている。

 ちなみに、ジンとレミは少しの間二人だけで活動していたが、冒険者となったことの理由が同じである誠司、美弥、康人の三人と最近までパーティーを組んで活動していた。

「やっぱ、過剰だと思わないか? ミレイヌ」

「随分といきなりな投げかけではなくて? ごきげんよう、ジン。レミ」

 挨拶とともに頭を下げるレミと、遅れて「おはよう」と言うジンにミレイヌは笑みを返す。

「で、何が過剰なのかしら?」

「いやな。今回この位置で進むのが俺ら二人に与えられた依頼なわけなんだが……。そこらの野盗やオーク程度なら無双する男がいたり、目を疑うような実力の魔法使いが五人いたりする。セイジやヤスヒトも、そしてバラサもぶっちゃけ俺より強い。ミレイヌだって、今じゃランクD程度の実力はあるだろ。過剰じゃね?」

「別にいいのではなくて? これで他のところに穴があるのなら問題だけれど、話に聞く限り、そうではないみたいだし」

 今回護衛として同行している兵士は元日本人が多かったが、街の周辺にいる魔物相手に一対一で苦戦するようでは話にならないということがあり、最低限の武具の扱いを習得した者から、ある段階の強さとなるまで連日魔物狩りを行っていた。そのため、現在は元日本人で兵士となった人たちもグラスウェルからファムクリツへの街道を進むくらいならば、問題のない強さとなっている。

 冒険者については、指名依頼で最低限必要な数を集め、残りについてもある一定以上の強さがあることを、今回の依頼を受ける条件としていた。

 ジンとレミが、この移住者の護衛依頼を受けられたも、その実力があると認められたからである。

 もっとも、もし仮にジンとレミの二人が誠司たちとパーティーを組まずにいた場合は、依頼を受けることができなかったかもしれない。二人は誠司たちとパーティーを組んだことにより、魔物との戦闘経験も魔素を吸収する機会も大幅に増え、その実力を上げていたのだから。

 ともあれ、ジンとレミが受け持つこの位置の戦力は過剰で間違いない。ないのだが、他のところが弱いというわけでもなかった。つまり、問題はないのである。

「過剰だったとしてもやることは変わらないさ。警戒を怠れば、どれだけ強くてもあっさり死ぬだろうしな」

「だからといって、緊張のしすぎは逆効果よ?」

「重々承知しているさ。というわけで、そんなに気合を入れる必要はないからな」

 ミレイヌへと言葉を返し終わり、後ろを振り向く彰弘。

 そこには両拳を胸の前で握り込み向かい合った六花と紫苑がいて、その横では瑞穂と香澄が握った拳の甲部分を打ち合わせ固まっている。

「梯子を外された感がハンパない……」

「あー、うー」

 身体の向きやら握った拳などはそのままで、顔だけ彰弘に向けた六花と瑞穂が何とも言えない残念そうな顔を見せ、紫苑と香澄は恥ずかしそうに顔を俯かせた。

「深呼吸でもして一度肩の力を抜いてみろ。ファムクリツまでは三日間かかるんだ。今からそれだと持たないぞ。それにな、二日目に通る森と森の間を行くときは別だが、それ以外は数百メートル、いやそれ以上を見通せる場所を通るんだ。ヘタに気合を入れると視野が狭まって、余計に危険だぞ。ほら、四人とも深呼吸だ」

 スー、ハー、と身体全体で六花たち四人が深呼吸を行う。

 ゆっくりと吸って、ゆっくりと吐き出す。それを数度繰り返し六花たちは彰弘へと向き直る。

「よし。とりあえず戦いになりそうになったら声をかけるから、それまで四人はみんなと話しながら歩けばいい」

 六花にとって美弥は親友であるし、紫苑にとっても彼女は良い友達となっていた。

 瑞穂と香澄の場合は年齢のこともあり、美弥の存在は六花と紫苑ほどではなかったが、それでも友達であることに変わりはない。もっとも、この二人が話すべき相手はグラスウェル魔法学園に通っている間、話す機会がほとんどなかった家族だ。

 基本的には六花たちの言い分を受け入れるようにしている彰弘であったが、その必要性が薄いのであれば、まだ若い四人には、できるときにできることをしてもらいたいと考えたからの言葉であった。

「やっぱ、ここに俺らがいる必要はないよな」

「ジン君。依頼は依頼、しっかりやらないと」

「まあ、そうだな。適度に緊張感を持ってやるか」

「うん」

 笑顔で頷くレミを見て、ジンも笑みを浮かべた。

 彰弘が言っていたように、どんな環境だろうと護衛を疎かにして良いわけではないことは確かだ。何よりこの依頼は自分たちにとって冒険者生活最後の依頼である。

 そのこともあり、ジンは気持ちを切り替えるため、大きく息を吸い込み、そして吐き出したのであった。









 ファムクリツへの道のりは比較的安全と言える。だが、魔物や野盗と遭遇する確率はゼロではない。移住者の幾許かの危機感と護衛をする者の適度な緊張感の中、出発の合図であるラッパの音とともに、七百名の集団は歩き出したのであった。

お読みいただき、ありがとうございます。



遅い短い文章が浮かんでこない。

あーうー。

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