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融合した世界  作者: 安藤ふじやす
4.それぞれの三年間
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4-EX02.【グラスウェル魔法学園―氷姫のち香澄―】

 前話あらすじ

 彰弘がミレイヌとバラサとパーティーを組むようになったころ、四人の少女はグラスウェル魔法学園の入学式に出ていた。

 時間にして三十分、入学式は何事もなく終わった。少女達はそれから今後の一年間を学ぶ教室へ移動し談笑をする。

 しかし、その最中に香澄は自分達を睨む侯爵令嬢に気付いた。彼女はそのことに多少の不安を感じたが、最終的には学園生活を楽しむためにできることをする、そう心に決めたのであった。

 火照った身体に程よい冷たさの水が心地好い。日課の早朝ランニングを終えたわたしたちは、寮にあるシャワー室で汗を洗い流していた。

 グラスウェル魔法学園に通うようになって早二か月。今のところ、一つのことを除いて特に問題はない。

 寮の同室となった子や、瑞穂ちゃんたちの同室の子とも仲良くなれて、ご飯を一緒に食べたりお喋りしたりと充実している。

 学園での授業も問題はない。国語や算数は、わたしや瑞穂ちゃんにとっては復習のようなもの。六花ちゃんや紫苑ちゃんも現役小学生だったから、こちらも問題ないようだった。ただ、歴史は完全に一からだし覚えるのは大変。魔法の基礎も、いろいろ飛ばして魔法を使えるようになったので、すり合わせが難しかった。

 ちなみに歴史だけど、今後は元の地球側の歴史も授業に組み込まれることになるらしい。

 後は学園がお休みとなる週末だけど、いたって順調。以前、アルケミースライムの契約を行ったときに言われた、水処理場からの依頼のお蔭で、楽にとは言わないけれど十分すぎるほどに稼げている。最近ではアルケミースライムの扱いが上達したためか、早々に魔導具の洗浄を終わらせられ、依頼に付随しているその他のお掃除もできて良い感じ。

 で、こんな感じで基本的には順調な学園生活なんだけど、一つだけ問題があった。

 それは……。

「香澄ー。まだー?」

「今出るー」

 ちょっとのんびりしすぎちゃった。

 髪の毛を乾かすのに時間かかるし早くでないと。

 ごめんなさい。問題については、また後で説明します。









 寮から学園校舎までの道を歩く。

 一緒に歩いているのは、瑞穂ちゃんに六花ちゃんと紫苑ちゃん、それとそれぞれの寮での同室であるクリスちゃん、パールちゃん、セーラちゃん、セリーナちゃんだ。

 みんなと歩いていると、みんながいるから楽しいし充実してるんだと心底実感できる。

 そんなことを考えながらゆっくりと歩いていると、今の学園生活で唯一の問題といえる、その原因が現れた。

「ごきげんよう、氷姫(こおりひめ)と皆様方。今日も良い天気ね。それはそうと氷姫。午後の模擬戦で勝負ですわ。今はまだ魔法では敵いませんけれども、まずは剣で勝ってみせます。覚悟なさい!」

 堂々たる態度で、そう声をかけてきた金髪縦ロールの彼女はルクレーシャ・ルートという、皇都にあるルート侯爵家の第三女。理由は知らないけど、将来の夢は誰にも負けない魔法戦士になることらしい。

 氷を使う魔法が得意だったらしく、入学当初からわたしのことを敵視……じゃなくてライバル視している。あのときはてっきりガイエル伯爵の令嬢であるクリスちゃんのことか、そのクリスちゃんと一緒にいるわたしたちを睨んでるのかと思ってたんだけど。

 なお、氷姫っていうちょっとあれなわたしの呼び方は、わたしが知らない内に冒険者ギルドで広まっているって話。前にギルドに行ったときは何の噂もなかったんだけど。入学試験のときからギルドの訓練場で氷とか水系統の魔法を多く使っていたせいなのかな?

 ともかく、わたしにそんな気はないのに、いつの間にかルクレーシャさんとわたしはライバル関係だということになってしまっていた。

 ちなみに、ルクレーシャさんの近くには申し訳なさそうな顔をした、ミナ、ナミ、カナ、という貴族のご息女が立っている。彼女たち三人も大変だろうなーと、ちょっと同情する。

 なんて、わたしがそんなことを考えていたら、瑞穂ちゃんが呆れたような顔で口を開いた。

「模擬戦って……今日やるのは、今までの授業で学んだことを確認するための簡単な手合わせじゃん。何言ってんの?」

 そう、今日の午後にやるのはあくまで学んだ内容の確認をするだけのこと。学園に入って初めて剣を握った人もいる中で、まだ二か月しか経っていない今、模擬戦なんてやるわけがない。そのため、使う剣も同質の魔導具以外――大気除く――に当たるとふにゃりと曲がる安全安心仕様という話。間違っても世間一般でいうような模擬戦が行われるわけではない。

「風の子は黙りなさい。私はあなたに興味はありません。私が話しかけているのは氷姫です」

「風の子言うな! あたしの名前は瑞穂! こっちは氷姫じゃなくて香澄! あんたは三歩あるいたら忘れるあれなの!?」

「何を言っているのかしら。ともかく氷姫、午後に勝負よ! では皆様方、ごきげんよう」

 颯爽とその場を後にするルクレーシャさん。日本の諺は知らないみたい。

 なお、当然一緒にいた三人のも一緒に立ち去る。もっとも彼女たちは、こちらに頭を下げながらだったけど。

「いやー、相変わらず大変そうだね。呼び名もたったの一週間で学園中に広まるし」

「あの方も悪い人ではないのですけど」

 ルクレーシャさんたちの後姿を見ながら苦笑するセーラちゃんに本当に困ったような顔のクリスちゃん。

「でもなんでカスミさんとミズホさんだけなんでしょうか? リッカちゃんやシオンさんも同じだと思うんですけど」

「暗黒の恐怖と漆黒の光刃(こうじん)だっけ? そういえば、この二つは広まってないよね」

「私たちはあの人の標的ではないからでしょうね。瑞穂さんもそう言った意味では違いますが、瑞穂さんは私たちよりも香澄さんの近くにいますから、自然と彼女の口から呼び名が漏れるのでしょう。恐らく、そのせいだと思います」

 多分、そうなんだろうなとわたしも思う。後は、わたしと瑞穂ちゃんは双子ということになっているから、それでセットと見られているのも理由かもしれない。

 ちなみに、暗黒の恐怖が六花ちゃんで、漆黒の光刃が紫苑ちゃんだ。分かるような分からないような、ほんと誰が言い出したんだろ?

「むー。模擬戦……約束……勝つ……解決? うん、解決!」

「六花ちゃん?」

 ふいに六花ちゃんの呟きが耳に届いた。

 模擬戦を本当にしちゃうってことかな?

「なるほど。今日の午後、約束を交わした上で本当に模擬戦を行い、呼び方を改めさせるというわけですね」

「良い考えかもしれません。彼女の性格を考えますとライバル視をなくさせることは難しいかもしれませんが、それなら可能かもしれません」

 頷く六花ちゃんを見ると、そういうことのようだ。

 うーん、今までの授業での動きを見る限りなら勝てるとは思うんだけど。

「大丈夫だって、香澄。技ではちょっと負けてるかもしれないけど、そんなのは出させなければなんの問題もないよ。彰弘さんみたいに、最初から全力で行けば間違いなく勝てる!」

 そっか、授業とは別で考えればいいんだ。

 先生には怒られるかもしれないけど、わたしたちの学園生活を守るためだもの、そこは我慢しよう。

 うん、がんばろっ!








 そして午後。運動着に着替え、学園の訓練場に向かう途中でルクレーシャさんと、そのお友達と向き合う。

 お昼ご飯も美味しかったし気力も十分。ついでに、彼女は疑うほどあっさりとこちらの提案を呑んでくれた。驚いたことに向こうが勝ったときの要望はなしときた。

 まあでも、それならそれで好都合。負けたらちょっと面倒かもしれないけど、要は勝てばいいんだし。

「では氷姫。条件の確認ですわ。先生の開始の合図で模擬戦開始。模擬戦は一回のみ。魔法の使用はなし。どちらが勝っても言い訳はしない。先生に怒られるときは二人一緒に。そして、私が勝ったら今まで通り。私が負けた場合は、あなた方を名前で呼ぶ。よろしくて?」

「うん。問題ないよ」

「結構。では行きますわよ」

 先に歩き出したルクレーシャさんの背中を見ながら気合を入れる。彼女には失礼かもしれないけど、わたしがこれから戦うのは彰弘さんに設定。確実に勝つために、確実に最初から全力全開本気の本気で戦うために、そうする。

 よし、本当に準備万端。行こう。









 訓練場に入り、クラスのみんなと先生の話を聞く。

「いいですか、この授業は今まで習ったことを確認するためのものです。お互いに相手の動きを正面から見て、それを指摘し指摘されて自分ができていないことを認識するように。またそれを繰り返し行い今後に繋げることができるようにしてください。最後に決して無理はしないこと。いいですね?」

 クラスメイトが元気よく返事をする中で戦々恐々。

 模擬戦とか怒られる要素満載だった。だけど、とりあえず今は考えないことにする。

「それでは、ペアを作って間隔を空けて向かい合ってください」

 その先生の言葉で、クラスのみんなが寮で同室の子同士でペアを組み訓練場に広がっていく。

 当然、わたしはルクレーシャさんと向き合う。場所は訓練場の端の方。怒られるのは仕方ないにしても、それでもやっぱり怒られたくはない。

「ここでよろしくて?」

 ルクレーシャさんの言葉にわたしは頷く。

 数メートル離れた隣には瑞穂ちゃんとセーラちゃんの姿が見える。反対側にはルクレーシャさんと一緒にいたミナさんとカナさんだ。

 そして、わたしの後ろには六花ちゃんとパールちゃん。正面、つまりルクレーシャさんの後ろには紫苑ちゃんとクリスちゃんがいる。

 わたしと同室のセリーナちゃんは、ルクレーシャさんと一緒にいた最後の一人、ナミさんと向かい合い、先生の視線を遮るような位置にいた。

「ではいいですか? 先生の合図で確認を始めてください。決して無理をしてはいけませんよ。先生は順にみんなのことを見て回りますので、何か聞きたいことがあればそのときに言ってください」

 先生が訓練場を見回す。

 そして、一拍。

「それでは、始め!」

 先生が合図の声を発した。









「来ませんの?」

 先生の合図から少し、ルクレーシャさんが焦れた様子を見せた。

 負けないための作戦だからこちらから攻撃を仕掛けるわけにはいかない。

 わたしは無言の視線を返す。

「では、こちらから参りますわ!」

 腰を少し落としただけのわたしに、ルクレーシャさんはそう言うや否や、授業で習っていない刺突の構えで向かってきた。

 その動きは思っていたよりも速い。けど、彰弘さんより全然遅い。

 だからわたしは昔見たことのある抜刀術のような体勢へと余裕を持って移行し力を溜める。

 それから数瞬、わたしの間近にある地面にルクレーシャさんの足が力強く踏み込まれた。

「はっ!」

 正面から鋭い声が放たれ、同時に剣先がわたしへと突き出される。

 大丈夫、焦る必要はない。

 わたしは溜めた力を解放する。目的はルクレーシャさんが突き出した剣型の魔導具の刀身部分だ。

 突きと振り、単純に考えれば突きの方が速い。でも、身体能力はこちらが上。尚且つ今のわたしは相手を彰弘さんと想定している。まだ未熟といえる突きに負けるわけがない。

 最短距離で最速で全力で振るったわたしの剣型の魔導具は、キンッという音とともにルクレーシャさんの手から剣型の魔導具を弾き飛ばすことに成功した。

「さっすが、香澄! ナイス、オッケー!」

 空へ舞った剣型の魔導具がくるくる回転して落ちてきて地面に突き刺さる。

 そして、それと同時に瑞穂ちゃんが声を上げた。

 わたしはその声を聞きながら、ルクレーシャさんの首筋に刀身を当てる。

 思わず安堵の息が出た。負けてもちょっと面倒なだけかもしれないけど、やっぱり勝つに越したことはないもん。

 実のところ、移動しながらの攻撃や移動してからの攻撃が、わたしはまだ苦手。だから待つことにした。今までのルクレーシャさんを見て、先に攻撃をしてくるだろうと思ったから。案の定、彼女は先に動いてくれた。場合によっては卑怯なのかもしれないけど、勝つために万全を期しただけ。後悔はない。

 ……やっぱり嘘。後悔はある。ううん、ルクレーシャさんとの模擬戦に万全を期したことに後悔はないけど、模擬戦は授業中にやるべきじゃなかった。だって、一息ついた後に目に入った先生の顔が正に憤怒の表情だったんだもん。

 いろいろと目立つようになってたことに加えて、寮の同室である人と組まなかったことで注視されてて、バレないようにとか考えて訓練場の端に移動したのも全くの無駄だったみたい。

 結果、放課後にみんな揃って一時間の説教と反省文まで書かされた。

 みんな、ごめんなさい。









 そんな感じではあったけど、ルクレーシャさんはあの後ちゃんと名前で呼んでくれるようになった。ただ、魔法だけでなく剣でまでライバル視されるようになっちゃったのは頭が痛いところ。

 もう、どうしたらいいんだろ?

お読みいただき、ありがとうございます。



ご感想への返信について

活動報告にも書きましたが、返信はいろいろと私のバランスが崩れるようなのでなしとさせていただきます。

なお、今後もいただいたご感想には当然全て目を通しますし、ご指摘等真摯に受け止めます。

勝手ではありますが、以上ご了承願います。

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