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どうぶつのきもち  作者: 吉遊
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20/22

第十九話「連休中の過ごし方(5)」

 登場人物が多いので、あとがきに簡単な紹介文を載せています。

 やって来ました真上山(まかみやま)“わんわんパーク”。

 天然芝と土の広いドッグランが魅力で、同敷地内にトリミングサロンやトレーニング&しつけ教室などがある人気の複合施設だ。市街地から車で三十分という立地も人気の一つで、最寄り駅からシャトルバスも出ている。


有本(ありもと)松岡(まつおか)はまだ来てないのか?」

「あと十分くらいみたいですよ」


 車を停めに行ってくれていた笹塚(ささづか)先輩の問いに、陽子(ようこ)がスマホの画面を見ながら答えた。彼女の言う通り、グループLINEには松岡さんから少し遅れるとの連絡が入っている。

 今日の参加者は元“動物愛好会”のサークル仲間で、その飼い犬と合わせて全部で十人という大所帯だ。

 パークから出ているシャトルバスは残念ながら小型犬専用なので、私と陽子は乗せてくれるという笹塚先輩の言葉に甘えさせてもらった。


「ヴォルフくんも車は全然平気だったな」

『ああ。車はわりと好きだ』

「ヴォルフは車に乗るの好きみたいですよ。ハナちゃんは相変わらず大興奮でしたね」

『車! 車! もっと乗りたい!』


 彼女はいまも落ち着くなく飼い主の周りをぐるぐると回っている。


「可愛いな〜。ハナったらマジ天使。でもリードが俺に巻きつくからやめて」


 ハナは一歳になったばかりのゴールデン・レトリバーの女の子だ。

 その飼い主の笹塚基治(もとはる)先輩はチャラそうな見た目に反して大の動物好きで、いつも“うちの子が世界一だ”と叫んでいる。念願の犬を飼うことができて本人は大喜びだが、周りからはもう結婚できないと思われている。そして勝手に私をサークルに入れた犯人の一人でもある。


「ハナ、大きくなりましたよね。笹塚先輩のことだから、どうせ甘やかしまくってるんでしょ」

『ハルくん優しいよ! おもちゃもいっぱい買ってくれるの』

「笹塚先輩……しつけはハナ本人のためですよ」

「ここ、しつけ教室もしてるし、行ってきたらどうですか?」

「いやいや、ちゃんとしつけもしてるから! 二人してそんな目で見るなよ。ハナはまだ若いんだ。ヴォルフくんやハヤテと比べないでやって」


 確かにヴォルフは三歳、ハヤテは五歳とどちらも立派な成犬だ。

 必死に弁解している笹塚先輩には悪いが、甘えん坊で楽しいことが大好きなハナがあと数年でこの二人みたいになるかは疑問だと思う。ゴールデン・レトリバーは精神的に幼い子が多いし、きちんとしつけしてあげてください。


「ハヤテは小さい頃から大人しいよね」

『……え? 俺?』

「うちは暴君が二匹いるからね。自然にこの子が割を食う感じになっちゃうの」

『兄さんたち、優しいけどなぁ。自分より強そうなヤツにも立ち向かえるなんて格好いいし』


 実家暮らしの陽子はラフコリーのハヤテの他に、ノーフォークテリアのシップウとトップウを飼っている。二人とも自分の倍はある体高の大型犬にも吠えかかる猛犬で、気に入らなければ陽子(かいぬし)の指示にも従わない頑固者だ。


 あの二人はなぁ、ハヤテとは仲良くできるんだけど。


 家族には優しいが、基本的に自分より大きな犬には勝負を仕掛けるため、今回のドッグランには飼い主からのストップがかかり不参加となっていた。

 ハナよりもシップウとトップウの方がしつけが必要に思うが、もう七歳になる彼らの性格が変わることはないだろうし、飼い主側が気をつけてトラブルを避けてあげるしかない。


「おーい! 遅れてごめんね!」

『うちのリサが遅刻してごめんなさいね。道路が思ってたより混んでたみたい』


 リサ先輩がミリアを抱っこしながらこちらに手を振る。

 その後ろを同じようにサクラを抱っこしながら荷物を運ぶ松岡さんの姿が見えた。ちなみにこの二人は恋人同士だ。今日も松岡さんの車でここまで来たらしい。


「やっぱりゴールデンウィークで道が混んでて」

「だからもう少し早く出ようって言ったんだ」

「十分くらい大したことじゃないですよ」

「その子がヴォルフ? アラスカン・マラミュートって初めて見たけど、ハスキーより結構大きいのね」

「ホントだ。かなりがっしりしてるんだな」


 挨拶もそこそこに二人はしゃがみ込んでヴォルフを見つめる。

 陽子も笹塚先輩もヴォルフと顔を合わせたときまったく同じ行動をしていた。犬好きは犬を見たら近寄らずにはいられないという習性でも持っているんだろうか。


『はじめまして。私はミリア。飼い主のこの子はリサって言うの。仲良くしてあげてね』

『俺はヴォルフだ。休みの間、莉佳のところで厄介になっている』

『あら、莉佳ちゃんの飼い犬じゃないのね』


 ミリアは初めて顔を合わせる大型犬(ヴォルフ)にも平気そうに挨拶しているが、サクラは松岡さんの腕のなかで少し緊張したように身を硬くしている。

 愛犬の変化に気づいた松岡さんはサクラを宥めるようにすぐにヴォルフから距離をとった。


「ありゃ、サクラ怖がっちゃった?」

「普段あまり大型犬とは関わらないからな。しばらくすれば慣れると思うんだけど」

『何もしないぞ?』

『あ、……えっと、その』

『ごめんなさい。この子、ちょっと人見知りさんなのよ』


 ミリアはもう十歳になるフレンチ・ブルドッグだ。そろそろ老年期へと差しかかっていることもあってか、飼い主であるリサ先輩や年下のサクラに対してどこか“お母さん”味のある言動が目立つ。

 そんな彼女から“人見知りさん”と評されたサクラはもうすぐ三歳になるスタンダード・ダックスフンドで、飼い主に似たのか少し引っ込み思案な女の子だ。特に異性は苦手らしい。


「さて、みんな揃ったことだし行きますか」

「今日って小グラウンドの予約取れたんでした?」


 パーク内にあるドッグランは全部で三か所。

 大型犬用と20㎏以下の小型犬用、予約必須の小グラウンドだ。“小”とは言っても広さは充分で、飼い主たちの責任において大型犬も小型犬も一緒に遊ぶことができる。

 基本の利用時間は二時間までだが、土日祝日などはなかなか予約の取れない人気エリアである。


「俺に感謝しろよ。ハナがみんなで遊びたいだろうと思い、三か月前から予約しといた」

「わぁ。ハナ、ありがとう」

『ハナ、いい子?』

「いい子だね。みんなでいっぱい遊ぼう」

『えへへ』


 みんなから口々に褒められハナはご満悦だ。

 自分の発言を見事にスルーされた笹塚先輩も愛犬を褒められ、ハナと同じ顔で喜んでいる。……着実に犬バカへの道を歩んでいる笹塚先輩の未来が少しだけ心配になってしまった。



   ◇◇◇



 私の投げたボールをヴォルフとハナがすごいスピードで追いかけていく。

 体格や普段の運動量からたいていはヴォルフの圧勝なのだが、ハナが楽しめるようにと三回に一回くらいのペースで彼女に勝ちを譲ってくれている。


「いやー、しんどっ」


 先程までボールを投げていてくれた笹塚先輩が芝生へと倒れ込むように寝転がった。大型犬たちのために頑張ってくれた彼は、“明日腕が上がんないかも”と疲弊した右腕を揉んでいる。

 間違いなく数分後の私の姿である。


「莉佳、二・三回したら代わるよ」

「ありがと。てか、ハヤテはボール遊びはいいの?」


 一生懸命葉っぱについたてんとう虫を見ているが。

 虫が好きなの?


「なんでかな。この子、あんまり外遊び好きじゃないんだよね」

「ミリアとサクラのとこ行く?」

『うん。この虫が飛んでったらね。ちゃんと飛べるか見守ってやらなきゃ』


 謎の使命感を持って観察していたらしい。

 ハヤテが見守っていなくてもそのてんとう虫はそのうち勝手に飛んでいくと思うけど、邪魔するのも悪いし別にいいか。


『莉佳!』


 今回は勝ちを譲らなかったようで、戦利品を持ったヴォルフが得意げに戻ってきた。ボールをくわえるその歯は牙と呼ぶに相応しい迫力をしている。

 その勝利を称えるように目一杯撫でて褒めれば、ヴォルフは珍しく声を上げて笑った。


 ……可愛いな、コイツ。


 そんなに喜ばれるとこちらも嬉しくなってしまう。


「残念。負けっちゃたか」

『たくさん走れて楽しかった〜』

「でも一生懸命走れて偉いぞ」


 笹塚先輩が後ろから駆けてきたハナを抱きしめてその頑張りを褒めてあげている。まさに愛犬とその飼い主という感じだ。


「ハヤテ、これもあげる」

『うわ、他のヤツつけないでよ!』


 ハヤテはまだてんとう虫を観察しているし、陽子はそれに付き合うことにしたのか、どこからか見つけてきた別のてんとう虫を葉っぱにつけて嫌がられていた。


『みんな楽しそうね』

「…………」


 最年長のミリアはみんなから少し離れたところで日向ぼっこをしていて、そんな愛犬をリサ先輩が本人にバレないよう写真に撮ろうと奮闘している姿が見える。ミリアは大の写真嫌いなので、リサ先輩のスマホにはいつもブレブレの愛犬の写真が大量に保存されていた。


「サクラ、楽しいか?」

『きゃーっ! あはは!』


 松岡さんとシーソーで遊んでいるサクラの楽しげな声が聞こえてくる。

 それぞれ好きなことをしているが、みんなが楽しんでいるのが伝わってきて、やっぱり参加してよかったなと思った。





【簡易人物紹介】


笹塚基治(ささづかもとはる)(29)

 ややチャラく見えるが動物大好きお兄さん。念願の犬を飼うことができ、周りからはもう結婚できないなと思われてる。ノリとテンションは高め。莉佳を勝手にサークルに入れた犯人その一。

 飼い犬はゴールデン・レトリバー♀のハナ。


本多陽子(ほんだようこ)(26)

 莉佳の同級生。落ち着いた雰囲気だがわりと悪ノリする。実家住まいで、犬大好き一家。

 飼い犬はラフコリー♂のハヤテ。


有本ありもとリサ(29)

 おっとり系に見せかけたしっかり者でノリは良い方。莉佳を勝手にサークルに入れた犯人その二。松岡の彼女。

 飼い犬はフレンチ・ブルドック♀のミリア。


松岡修(まつおかおさむ)(27)

 日本を暑くする(物理)元テニスプレーヤーと一文字違いな名前を気にしている。そこまでネガティブじゃないのに修造と比べられ"ネガ松"という不名誉なあだ名をつけられた過去あり。有本の彼氏。

 飼い犬はスタンダード・ダックスフント♀のサクラ。


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