表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鳴素の共鳴  作者: 佐々木勇二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/30

第二十九章 静かな継続

三日後。

セラから連絡が来た。

「ヴァルクが、また声明を出した。治安端末の管理権に関する企業連合の計画を、全面的に見直す。技術的な課題が多く、現段階での実装は困難だ、という内容だ」

「撤退ではない」カイは返信に書いた。

「そうだ。次を探している」

「電波塔の接続遮断と、昨夜の封鎖について、ドレスへの報告は」

「した。ドレスは把握している。政府の記録には、技術的な安全措置として記録される」

「原振の檻の詳細は」

「記載しない。今はまだ、書かない方がいい」

「了解した」

カイは計算機を閉じた。

禁書庫は静かだった。

ミラは本棚の前にいた。三番目の棚。百十二頁。白い花。

今朝の確認回数、一回。

カイは記録書を開いた。

「昨日のことを読み上げる」

ミラが振り向いた。「うん、はじめまして」

「はじめましてではない」

「そうなの?」

「そうだ。毎朝同じことを言っている」

「ごめんね。でも、毎朝同じことを言ってくれるカイが、なんか好きだよ」

カイは記録書の頁を押さえた。

「……読み上げる」

ミラが頷いた。

昨日、電波塔で何が起きたか。接続が遮断されたこと。原振の檻が守られたこと。全員が戻ってきたこと。

読み上げながら、カイは気づいた。

今日の記録の文体が、また少し変わっている。

数値だけではない。現象だけでもない。

「レムが手帳を持ってきた。アイの記録がそこにあった。ゼンが右手の感覚が薄い中で、道を確認した。タウが届くと分かって歌った。ミラが金属片を持った。それぞれが、それぞれのやり方で動いた」

数値ではない。でも、記録だ。

「……以上だ」

「ありがとう、カイ」

「礼を言う場面ではない。情報の共有だ」

「でも、ありがとう」

ミラは本棚に向かった。百十二頁。

カイは計算機を開いた。

今日の作業がある。セラへの技術資料の準備。禁書の更新。ヴァルクの次の動きの分析。

全部、今日もやる。

「ねえ、カイ」

「何だ」

「昨日、ここにいた人たちって、また来る?」

「レムとゼンは定期的に来る。タウも用があれば来る」

「用がなくても、来てもいいのに」

「……そう伝えることができる」

「うん」ミラは図鑑を開いた。「カイが言えば、ちゃんと来てくれると思う」

根拠のない確信だった。

カイはそれを、今日は否定しなかった。

計算機を叩きながら、今日の記録の最初の行を書いた。

「帝都は今朝も騒がしい。光はバラバラだ。原振の檻は静かだ。治安端末の変動は止まった。ヴァルクは次を探している。こちらも次を備える。ミラは今日も、百十二頁を開いた。振動は消えない。形を変えるだけだ。今日も、やることがある。それだけで十分だ」

ペンを置いた。

窓の外で、帝都の光がバラバラに瞬いていた。

整然としていない。非効率だ。

でも。

「カイ」

「何だ」

「今日も、よろしくね」

カイは少し、手が止まった。

「……ああ」

それだけ言って、計算機に向き直った。

ミラが百十二頁をめくる音がした。

二つの腕輪の光が、並んで瞬いていた。

バラバラのテンポで。

それでいい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ