9月10日(土) エメラーダ
あのガンボ、本当にうまかった。スモークソーセージがたっぷりで。また食いたいよ。
絶対に言うと思った! だめだ、マティに粉をかけるな。彼女はお前みたいに不誠実な旦那から辛い目に遭わされたんだぞ、そっとしておいてやれ。大体、彼女を悲しませたら、ギブソンのオヤジがコーヒーにクレンザーを入れて出してくるかもしれない。
女へかまけてる暇があるなら、仕事しろよ。
来週末の仕事だけど、トーピードがジャケットの下に防弾ベストを着てこいって。そんなの持ってないよ、月曜の仕事終わりに38番街の質屋へ買いに行こう。それにしたって、いくらミラノから来たお嬢様吸血鬼の護衛と言え、大仰だな。
マンハッタンもおっかないこと言うね。流石のトーピードも幽霊相手なら、勝負は五分五分だろうか。
チェリーがせっかくベランダで育てていたトマトの実を毟っては空に向かって投げていたから、どうしたのかって聞いたら、カラスがフンをしていくらしい。でも本当の原因は、ミスター・スプリッツァーがバーで知らない女性と大っぴらにイチャついていたせいだと思うけど。あれなら探偵を雇うまでもないね。彼女自身、もうあのミスター・ギャツビーと出来てるし。
とにかく、カラスは機会を見てやっつけるって宥めてある。
12階の看護士達は相変わらず姦しい。今日、氷を貰いにきた解放使い魔と話をしていたんだけど、彼は10年くらい前にハバナへ行ったことがあるって。その当時でも既に、地元の人間の生活圏は電気も通っていない、雑貨屋の棚は空っぽって有様だったそうだ。この前ウェブ記事を読んだけれど、カストロが死んで以来大幅な配置転換があって、その時に空いたリゾートマンションがまだ一杯余ってるんだってさ。俺達もホテルへ泊まらずに、海辺のコンドミニアムを借りるのもいいかもしれないね。きっとそっちの方が、自由気ままに過ごせるよ。
それに、俺達もなまじホテルなんかで働いたから、同業にしか分からないような穴が見えたり、気になることがあるかもしれないし。
アルクディアは暇さえあればインターネットで婚約指輪について検索している。遊びに来た803号室のおませ達も一緒になってキャアキャア、楽しそうで何よりだね。
あの様子だと、お前がミス・オーロラと寝たことにはまだ気付いてないみたいだ。絶対に言うなよ。アルクディアはともかく、一夜の過ちでミス・オーロラの名誉を傷つけちゃいけない。
7階は廊下の冷凍魔法が解けて、ひどい匂いだ。元々絨毯や壁紙は汚れていたけど、濡れた状態だとまるで雑巾を敷き詰めたみたい。とにかく、胸が悪くなりそうだから窓を全開にしてる。そしたら俺も咳が出て仕方ない。もう肺の傷なんかとっくに治ったのに、本格的な花粉症かもしれない。
吸血鬼評議会はガチで対応が早い。あのエクソシストもどき、このホテルでの一部始終について動画を配信していたらしくて、ロベルタが昨日見せてくれたんだ。で、今日アップされた最新のクリップは、吸血鬼どもへ寄ってたかって血を吸われて眷属にされた挙句、太陽の下へ放り出されてじわじわ灼け死ぬまでを中継したものだった。ヴァチカンとの間で一悶着なければいいけど……いや、これは黙認されるかな。何せあの間抜けは、夜歩く者たちの掟を破ったんだ。人間だからって、一歩こちら側へ足を踏み入れたのなら、許されることじゃない。
315号室の客はペストだった。事務所へも張り紙がしてあるけど、この一週間以内に診療所へ行って、抗生物質の処方を受けて服用すること、処方箋の領収書を提出すれば診察料金と薬代は返してくれるって。シルキー達も愚痴りながら清掃してくれてるよ。この前のボヤ騒ぎ以来、彼女達はちょっと大人しいな……
俺の酔い方なんて可愛いもんさ。俺はトランスしても、お前みたく尻尾をちぎれるほど振りながら、トーピードの顔を舐め回さないからな。
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