9月5日(月) アコーダンス
人狼の名誉に掛けて、この程度で泣き言を漏らしたりなんざするか。お前も一々気にかけなくていい。
それにしてもトーピード、益々技のキレが精鋭化してる。しかもあの重さのパンチでだ。正直に言うが、乱打戦に持ち込まれたら、並の重量級の奴なら歯が立たず、簡単に手数負けするだろう。
その点お前はスピードがあるから、ヒットアンドアウェイで逃げ切れるかもしれん。あとはスタミナだが……お前もここのところ、随分持久力が上がっているが、相手はあのトーピードだからな。
ビビる必要はない。お前なら俺位の戦績を十分残せるさ。あとは、戦意喪失して猫になるのは避けろよ。敵前逃亡はみっともないぞ(風呂場の窓は開けておくが、これはあくまで保険だ)
体は軋むが、やるべき事は多い。出勤してきて一番に、自分の客をお前に取られたとゴネているホイストを一喝すること以外にもだ。
また今日に限って肉体労働が重なる。
514号室のハリウッド壁寄せ、ベビーサークル設置は完了している。
1008号室は吸血鬼のカップル。死体が3体発生、片付けは終えて業者の回収待ちだ。もう大丈夫だろうと思ってゾンビの隣に並べておいたが、結局は感染してSRの壁に穴を開けやがった。弁償金は一緒にいたオーキッドと折半して払うことで話し合いがついている。もちろん、ゾンビどもの首は全員分を切り落とした。
それとルームサービスのオーダーもやたらと多く、レッドスナッパーを5往復。あんまりイラついて、最後の一件を応対している時、思わず電話越しに客を怒鳴りつけそうになった。どうもいかんな。
俺が休んでいる間、1308号室にルームサービスを持って行ってくれて助かった。ブリーズは俺の形相を見て、すっかり震え上がっている。しばらくはお預けだな。まあ、再来週まで宿泊するって話だから、チャンスはいくらでもあるさ。
今夜1116号室にチェックインした客は吸血鬼だが、相当体が弱っているようだ。食事は三食、ルームサービスでオーダーするとの注文が入ってる。これはホイストに任せてもいいだろう。チップは渋い。滞在期間は未定だが、血液ボトルを念の為に発注してある。
マンハッタンのグラジオラスは残念ながら萎れていた。お前、トーピードのことを彼女に話したか? 今日も紙礫をぶつけられて、心配している旨の伝言が記してあった。そんなに気にするなら直接顔を突き合わせて話したらどうだと言ってみたら、声だけ聞こえてきた。南部訛りが強い、確かにこれは女優として致命的だったかもしれないな。
まあ、顔と身体さえ良ければ、あとは些細な問題だ──幽霊だから、もはやそれすら大したことじゃないのか? 血まみれのまま内臓を引きずって歩いてなけりゃ。
とにかく、話したのは二言三言だけだが、これも一歩前進と見做していい。
あのバンドマン達、今朝は静かにしてるかと思ったら、ベーシストがODした。さすがに連中も慣れたもので、ウーバーだけこちらで手配して病院に行っている。おかげで仮眠の時も、あのまずい演奏を聞かずに済むと思ったら清々だ。
819号室に2週間前払いで宿泊の人狼は、人間用の偽身分証で生活保護を不正受給している。今後も宿代は前払いのみ、随分と弱々しげな中年女性だ。取り立てに赴いても抵抗はしないだろう。
トーピードの件を聞いたアンシャンテが、イモリの黒焼きを一袋くれた。お前と折半して食ってくれと。彼女、トーピードと寝たことがあるらしい。荒々しくて執拗で、良い戦いだったとうっとりしていた。そりゃそうだろうな。
ということは、俺達はトーピードと穴姉弟になるわけか。仕方ない。彼女は昔から誰彼構わずモテた。俺が酒場で口説いていた明らかに異性愛者の女を、酒のお代わりを取りに行った一瞬で掻っ攫っていったことも一度や二度じゃない。何せトーピードだからな……
ビーフ・チリはうまかった。タッパーはお前のロッカーに入れてある。
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