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7月22日(金) アコーダンス

 お前は本当に馬鹿だ、エメ。その衝動性を何とかしろと、俺はこれまで口を酸っぱくして繰り返してきたぞ。


 お前があのクソサボテン酒を飲んで豹になっちまって以来、もう24時間になる。一向にデトランスする気配がない。コモドールにも確認したが、「プーキーは惚れ薬みたいなものだって言ってたけど、まさかそんなことになるなんて」と青ざめてた。あいつは心底反省しきって、自分ができることならなんでもやると泣いていたが、まさか死んでくれとは言えんからな。宥めて断ってある。なんで巻き込まれた俺がこんなに気を遣わなくちゃならないんだ。


 そもそも、獲物を噛み殺して興奮を鎮めれば、どうにかなる問題なのか? こんな時に限ってミス・プーケット・スリングはミズーリ州のコンベンション・センターで開催されるサバトへ出かけちまった。帰るのは明後日だ。それまでこのままにしておいても大丈夫なのか……


 ジプシー・ローズ・リーについてはこれまで何度も話したように思うが、お前の頭がボケてんのかトランスの影響か、どちらか分からん。

 繰り返して欲しいなら答える。俺も最初の公演については、ジプシーの脚しか見てない。基地の慰問は、まあ普通に(と言うのもおかしな話だ、あの歳であのセクシーさは尋常じゃない)色っぽいばあちゃんだと思ったよ。だがアリかナシかで言えば個人的にはアリ寄りのナシだ。

 サイゴンで飲んだ時に俺がそう言ったら、お前はあれはアリだと熱弁していた。一晩中激論を戦わせたが、最終的に、この話はこれきりにしようってことで決着がついたはずだ。それなのに、お前は事あるごとに蒸し返す。猫の執念深さには全く恐れ入るよ。


 あの時のお前は、目が完全に野生化していた。真っ昼間なのに瞳孔が開ききって、サングラス越しでも分かるほど闇みたいに真っ暗な瞳は、ちょっと気味悪い程だった。それなのに態度は妙に浮かれて、テンションも高く捲し立てたりするんだからな。

 俺は率直な性格だから言うが、あんなに衆人環視の中でブチギレてるお前を見るのは初めてだった。


 お前はよほど親しい存在を相手にしているか、よほど自分の身に影響が及ばない事柄を前にしない限り怒らない。確かに、その場その場の反応として煩わしがったり不快感を示すことはあるし、言葉より先に手を出すことは多いだろう。でもそれだって、結局は計算尽くだ。ここまでなら許してもらえるって甘えだ。お前は猫らしく、そう言う卑怯な立ち回りも平気でする。


 そんなお前がご機嫌に感情へ身を任せてるのを見て、正直ヤバいと思った。それなのにお前は平気な顔で、「人間に戻れなくなったら、一緒にクチ・トンネルへ住み着いて、暗闇でパニクってるグークとヤンキーを襲いながら暮らしたら、きっと楽しいよ」なんて馬鹿げたことを抜かしてやがったな。あのまま大自然へ還る気なら、殴って縄で縛り上げてでも捕まえて帰国するつもりだった。お前のお袋さんに申し訳が立たんからな。


 それにしても、野生か……今回はガチの奴なんだろう。普段はお互いトランスした状態で会話したら、人間の時ほどじゃないとは言え、それなりに意思疎通が出来るのに。お前はさっきからニャーニャーと「腹が減った」か「暑い」か「眠い」ばっかり口にしやがる。まだ俺を認識はできているらしいのが不幸中の幸いだが……出来ているはずだ。耳に触れても怒らず大人しくしている。自分の耳を切ることがない相手だと信頼していなけりゃ、お前は容赦なく噛み付いたり引っ掻いたり大騒ぎする。


 ピザは猫なんかに食わすのはもったいない。俺が1匹で食うから、お前は駄目だ。さっきのでお前の作り置きのネズミ・シチューが無くなったから、後はもう、俺の家にある冷凍肉を解凍するしかない。背に腹は変えられん。後で怒るなよ。


 あと、トランスしちまったらスパイン・バスターもクソもあるか。やれるもんならやってみろ。

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