7月18日(月) エメラーダ
仕方ないじゃないか。シャーリーは誰かさんと同じで末っ子だから、甘えん坊なんだ。
それに彼女は情報通だしね、客室のあちこちに忍び込んじゃ、色々覗き見してるみたいだ。妖精って生き物は、世間が思うほど純粋な存在じゃないんだろう。ただ、とてつもなく無邪気なだけで。
エッグタルトはありがとう。でもお前のその言い草、最近世間がよく使う言い回しで、そう、「私はゾンビと歩いた!」理論だ。
お前が中華好きなのは知ってるよ。昨日も店じゃ春巻きを1匹で食っちゃっただろう。
あそこのばあさんはキョンシーだから(それにしても、奥さんを死霊化させてまで一緒にいたいって、それはすごい愛情だと思うよ)少なくとも俺達が生きている間は代替わりしないからいいな。
ギブソンのオヤジなんか、レッドスナッパーは自分の代で終わるかもしれないなんて弱音を吐いている。3人子供さんがいて、跡を継いでくれるかどうか分からないらしい。
お前は特殊だけど、人狼って親の職業を子供が、みたいなの、多いじゃんか。リトル・ロムルスの同級生も、工員の息子は工員だし、母親の店を娘がやってるパターン、俺達の代でも多かったもんな。
自律神経がイカれたなら、文字通りちゃんと自らを律するしかないと思うんだけどね。それこそ昼寝でもすればいいんだ。
俺はただの種族的な習性だよ。あと、お前の匂いを嗅いでも慣れ過ぎて警戒しないから、あんまり目がしゃっきりしないんだ。今度から起こすなら、オーキッドを来させてくれ。あいつの魚臭さは一発でドーパミンがバシャバシャ湧いてくるから。
魚臭さって言えば、1009号室のギルレス・マーメイド、恐らく陸に上がってきて日が浅いんだろう。結構に匂いがきついね。お前も時々そうだけど。あのピムスモーニのいとこの子とやってきた時?
チェリーはある意味、ミスター・スプリッツァーと暮らしてること自体がギャンブルみたいなものじゃないの。彼女、さっき出勤してきたアルクディアと一緒に堂々とホテルに戻ってきた。ミスター・スプリッツァーが外出した様子はないし、また荒れるかもな。ミスター・オーレの騒ぎがあって以来、2人の仲はまた一つ、枷が外れてしまったように見える。
アルクディアの方はホイストに叱られてたけど、完全に無視してる、いや、むしろ積極的に歯を剥き出して威嚇してたな。彼女さん、まだ戻ってこないみたいだ、だからチェリーといちゃついているんだろう。
どうでもいいけど、あいつの頬に出来てるデカい吹き出物、不潔だ。医者行けばいいのに。
サイレント・サードの爺さんが8階まで上がってウロウロしてたから連れ戻した。一体どうしたのかって尋ねたら、「ホワイト・スワンはどこじゃね、50ドルを返してもらいたいんじゃが」だって。
爺さん、709号室のダーク・エルフがまだ生きてると思ってるんだろうか。まさかね、死体を運び出すのを見てたし。それに、いくら爺さんでもそこまでボケても、気が狂ってもいないはずだ。
ミス・ウィング・ハートに聞いてみようかと思ったのに、彼女はすっかりラリってたし。
母ちゃんがピザのレシピを教えてくれた。父ちゃんは今でもこれを、一皿丸々ペロリと平らげる。材料を買って、さっき生地もこねた。オーブンを借りられるようギブソンのオヤジにも頼んでる。明後日のボトル開封式が楽しみだ。
お前は感傷的だって笑うだろうな。でも、やっぱり故郷の食い物が恋しくなる時はあるよ。ピザも、本場のコニーアイランド・ホットドッグも、もう何年も食ってない。
母ちゃんは子供達全員に、ビーフ・チリの作り方を教えた。多分、みんながいつかは家を出て、散り散りになることを分かってたからだと思う。
俺の知ってる限りじゃ、まだ市内にはトパーズも、それに妹のルビー・スターもいる。特にルビーなんかあの通りおてんばだったから、さっさと街を出ていくものかと思ってたのに。
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