5月6日(金) アコーダンス
いや、経営陣の連中は絶対、俺達2匹の命よりも、あの巨人の方を優先する。例え微々たるものだとしても、あいつはこのホテルへ金を落とす。片や俺達は金食い虫だ。奴の中でどちらの存在が重要かは、火を見るよりも明らかだからな。
同じ理屈で、8人のエスコート・サービスよりもゴーレムの方が重要だ。全くふざけてる。金さえ払えば何でもありか、俺は神なんか信じちゃいないが、聖書に載ってるという噂のソドムの街とはまさしくこんな有様だったんだろう。
ピムスモーニは退場して、新たな人魚が登場って訳だ。
俺は古風な男だし、他者にお世辞を言ったり、忖度して自分の意見を引っ込めるような真似はしない。だから、あんまり若い子はどうにも気圧されるんだろう。仕方ない。世界の人口の半分は女だから、次のチャンスはいくらでもあるし、事実こうして降って湧いてきた。俺は選ぶ立場にいるんだ、選ばれる側じゃないのさ。
816号室のプッシャーには、クロックがホテル内で商売するなと厳命している。奴らはどちらも雑種吸血鬼だが、どうやら格はクロックの方が上らしい。あいつもたまには役に立つ。
それでも売り捌いているのを見かけたら、容赦なく叩き出して構わないとお墨付きが出ている。遠慮は不要だ。
1004号室はベッドの壁寄せとベビーサークルの設置を終えている。あと赤ん坊の粉ミルク用のミネラルウォーターを手配。今回は取り替え子じゃない、CPの家族連れだ。
703号室のミセス・ラ・プレイスが病院から帰ってきて、しばらくは四点歩行機を使うことになったとのこと。股関節の具合は良くないらしい、人工関節を勧められているが、金がないから無理だろうな。
今朝も20分ほどマッサージしてやったら、チップを50ドル。お前も行ってやって巻き上げてこい。老い先短い老婆にささやかな目の保養をさせてやれ。
ホイストはまだ本調子じゃない、と言い張ってる。もうとっくにウイルスなんか身体から抜けただろうに、どれだけ甘ったれてるんだ。その癖マルキにはちくちくと嫌がらせを重ねている。
あの雑種の小鬼は自分に自信がないから、すぐに誰かが己の地位を脅かすものだと警戒して、攻撃的になるんだろう。弱い奴の典型的な行動だな。
あいつがパラノイアに陥るのは勝手だが、問題はそれで潰れる奴が出るということだ。オーキッドにもう少し目を光らせるよう言い聞かせるか。
あの山小屋は完璧に最悪だった。お前は寒さでしょっちゅうトランスするし、客は薄汚いヒッピー半分、そいつらを面白がって飼ってるパトロンの金持ち半分。あれだけ景気が良かった時代なのに、連中は好んで貧しいふりをして、それを誇っていた。自然主義だ何とか言って、ヤギに乳をやっている女を見た時は、てっきり彼女もトランス・アニマルなのかと勘違いしたくらいだ。
だからこそ、お前があのくそジジイの喉を噛み破った時は、全く痛快だった、ああ、正直なところな。奴らの言う自然だの野生だのの、真の姿を見せつけられて、連中、すっかり凍りついて指一本動かせなくなってた。
若い頃の無謀なんざと懐古趣味に浸る気はないが、今はもう、そんな迂闊なことも出来やしない。あの時だって、直後に3年間の兵役があったから逃げられたようなものだしな(徴兵逃れの為に山へ行ったのに、逆に入隊しないとヤバくなるなんて、とんだ皮肉だ)
いいかエメ、お前の内心の自由は保証されてる。内心だ。それを口にするとなれば話は違う。
巨人をとっとと厄介払いしたい、それはこのホテルに勤めている誰もが同じ意見だ。しかし、いくら総意だからと言って、公然と意見を表明するのはよくない時もある。同僚だからと言って、所詮は他人なんだからな。
まさかとは思うが、誰かに話してないだろうな? クロックがやたらと警戒していたように思うのは俺の気のせいか?
CP族の秘密主義を、俺は信用してるぞ。分かったな?
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