1月8日(土) アコーダンス
フレームの左半分が捻じ曲がり、カップ部分のガラスが半分に減っている(ちぎれて垂れ下がっていたワイヤーは”俺が”タイムカードを押した後に撤去した。無賃労働だ馬鹿野郎)シャンデリアを眺めていたら気が滅入る。
俺だってげんなりするのだから、統括部長のオールドクロックが文句を言うのも仕方がない。何せフロアに三つあるうち、一番目立つフロント前の奴だ。ホテルがオープンした時にフランスから買い込まれた、アール・ヌーヴォー・エンパイア調のアンティークだと奴が鼻を突き上げて説明していた時は、全く気取ってやがるとうんざりした。だがあれがみすぼらしくなると、そうでなくてもシケた雰囲気のホテルが余計陰気になる。
今修理工が来ていて、クロックの野郎はいつも通り料金の少なくとも半分はお前の給料から天引きすると言っている。今回は駄目だ、何がなんでも駄目だ。お前の財布からちゃんと払え。ピサン(編註:二人が当時コインを貯めていた酒瓶)は使わせない。
お前なら、あんな雑種吸血鬼の5人や6人暴れてても瞬殺だったろう。それがバドの小瓶を投げつけられた挙句、シャンデリアにぶら下がるなんて……身長6フィート強のお前の体重をかけられて、よくあのクソ重い照明が丸ごと落下しなかったよな? 寧ろそっちに驚く。
お前は18時間働いて、定時の24時にさっさと帰りやがったし、テキストでも投げたが、念の為に書いておくと、あいつらは自分の足で病院に駆け込んだ。訴訟も起こすつもりはないらしい、当然の話だが。
詳しい事情は聞かなかったが、あれは間違いなく、ここのところダウンタウンで出回ってるデザイナードラッグをやっていたと思う。競走馬用興奮剤を基にした相当強い奴らしい。ゾンビ・ドラッグなんて言われてるだけあって、かなりぶっ飛べるんだろう。それにしてもおかしな話だ。本物のゾンビは薬なんか効きやしないのに。
ゾンビと言えば、SPKも最近は連中の入店を許してる。落ちたもんだ。俺達がこの街に来てから、あの店が看板を変えてもう3度目くらいか、随分薄汚れた。いや、昔から地下室なんかは汚い店だったが、そうじゃなく、店主催の乱交パーティなんかやらなくなった。ゾンビ相手じゃ幾ら抗生物質を打ってもエグい病気になりそうだ。
あいつらの匂いは耐えられない。いくらウォーキング・デッドだなんだと呼び名を変えても。ホテルのシーツだって奴らが寝たら廃棄処分だし、いくらオゾンを焚いたところで室内の匂いが取れないと掃除担当が嘆いてる(215号室はしばらくアサイン禁止だ)
今日の連絡。本日2時間早く、24時にアーリー・チェックインしたミイラ男、イムホテップ氏(1102号室)は、毎度ながら前回と違う女を連れてきている。今回はアイルランドかどこか出身の妖精で、ガリガリになる前のアリアナ・グランデ似。4時間に一回くらいフロントへ電話してきて、レッドスナッパー(編註:レストランのルームサービスを提供していた近所のダイナー兼雑貨屋)でマーズのチョコレートを買ってこさせる。糖尿病なのかもしれん。前のキャット・ウーマンの酒浸りぶりよりはマシだが。もっとも、今回の方がチップは渋い。いつも通り過去の相手のことを匂わすのは厳禁。
318号室のベッドが壁寄せされておらず、ベビーサークルの設置されてなかったとクレームがあった(何がベビーサークルだ!)神経質らしい、また何か言ってくるかもしれない。
アルクディアが今年初の彼女との喧嘩で、宿直室に泊まってる。ネクタイを持ち出し損ねたらしいから貸した。時間があれば回収してロッカーへ放り込んでおいてくれ。
終わりが見えない残業や休日出勤はうんざりだ。早く南の島に行きたい。ここのところ肌が青白くなってきた気がする、吸血鬼じゃあるまいし。お前もなんだか顔色が悪いぞ、日焼けサロン予約しろよ。
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