2月9日(水) エメラーダ
ルームサービス、俺が1105号室へ行っている間に掛かってきたんだ。その時フロントにいたのがホイストで……運良く、持って行こうとしてる途中で戻ってこれたけれど。おかげでお前の彼女が、日付も変わってすぐにシュタイニンガーのハーフボトルとビールを2本、そのつまみにチキンテンダーのBBQソース掛けを食べる豪快な性格だと思われたんじゃないか。
気を遣わせてごめん。いやだな、彼女の匂いにあてられたから、気付けば尻尾が出てしまって、それから1時間位消えてくれなかった。
多分、鼻炎薬のせいもあるだろう。それに、最近溜まってるのは事実なんだ。でも、ベッドを血まみれにすると、また弁償させられたら困るし……3Pの誘い、気持ちはありがたいけれど、お前だけで楽しんでくれ。
ミス・チェリー・コークは、追加のヘアオイルを持ってきて欲しいって依頼だった。明らかにお前へ来て欲しそうな雰囲気だったけれど、適当にごまかしてある。
彼女は炎みたいな子だね。流れるような炎。パッと眩しい位に燃えてると思って、手を伸ばしても、ちっとも掴めやしないんだ。そして、下手したらこちらが火傷するかもしれない。でも、火傷する奴のことを、俺は馬鹿だと責められないな。
話し相手に、と言うか話の聞き役になってくれと言われて、20分位付き合ったら、お礼にラディッシュをもらった。実は色も薄いし、小さくてスカスカしてる。これについて、ミスター・スプリッツァーから散々馬鹿にされたらしい。
でも、ロベルタにバーニャカウダ・ソースを分けてもらってディップしたら、割と食べられた。事務所の冷蔵庫に入れてあるから、お前もつまんでいいよ。
リザードマンは特に問題なし。シルキー達の報告だと、ちょっとシーツを焦がしたくらいで、気持ち悪いくらい大人しくしているそうだ。嵐の前の静けさじゃないかって、不吉なことを言っていた。
不吉といえば、透明人間、ミス・ウィング・ハートが407号室から716へルームチェンジ。これから長い付き合いになるってことだ(編註:7階と8階には比較的長期の滞在者が固められていた)荷物を運ぶ時に見たけれど、バスルームが血で汚れていた。肌を引っ掻いたんだろう。掻き傷から流れる血のせいで、服で見える以外の部分も、ちらちら輪郭の一部が分かるかのようだ。フラフラして、エレベーターへ押し込むのも一苦労だったし、オーバードーズされたら困る。
316号室のドワーフの為に、部屋へ椅子を入れて、在庫がなくなった。もしもオーダーが入ったら、SRから折りたたみのパイプ椅子を持っていってくれ。
SRの死体2つはマンハッタンからかな。数日前に頼んでおいたんだけど……テキストで依頼を受けた通り、若い子の方へお前の名前を書いた紙を貼っておいた。それにアルクディアは明日の夜勤務だから、大丈夫なはず。
オーキッドの電子懐炉、パクったんじゃない。春が来るまで貸してくれって言ったんだ。どうせあいつは雪掻きも免除されてるんだし。
お前の言う通り、あいつはちょっと、何でも大袈裟に話を広げ過ぎる時がある。悪い奴じゃない、ただ弱いんだ、それはもう、仕方がないことだ。
ブランケットは出しても出してもオーダーが入る。ピクシーも小さな身体で頑張っているけど、なかなか難しいみたいだ。この前、客のスーツを取りに行った時、過労のあまり床で寝ていた1人を踏み潰しそうになった。そいつは21時間ぶっ通しでアイロンをかけ続けたらしい。身体が板みたいに強張って、腕が上がらないって嘆いていたから、ストレッチを教えて、柔軟運動を手伝ってやった。
このホテルの勤務体制はおかしい。人員の入れ替わりも激しいし……まあ、そう言う俺達も、近いうちに辞めてしまう訳だけど。
$2,893.83




