2月7日(月) アコーダンス
アレイはただのアホだ。兄貴の奴、あの時に稼いだ1パーセントでも貯金しておけば、今頃スイスで悠々自適の生活を送れていただろうさ。
そしてアホなのはお前も変わりがない。俺は金貸しを叩きのめせなんて頼んじゃいない。結果的に上手く運んだだけの話であって、別にもっとマシな方法なんざ幾らでも思いつけた。
1112号室のおっさんは、美女に言い寄って袖にされた腹いせに訴えてきてるだけさ。負け犬の遠吠えほどみっともないものもない。
チェリーは野菜を育てていることを白状した。霜で駄目になるのは分かるが、あまり部屋に持ち込まないよう忠告はしてある。可哀想に、ミスター・スプリッツァーがヴィーガンだから、育てているらしい。全く健気な話じゃないか。
ミスター・ギャツビーは間違いなくミス・ココラッシーと出来ている。彼が部屋に行くたびに、部屋のドアノブに「起こさないでください」の札がかかってるんだからな。ミス・ココラッシーはファム・ファタールと呼ぶには鼻のイボが目立ち過ぎるが、そこは蓼食う虫も好き好きか。
リザードマンの金を盗むのだけは何があってもやめとけ。竜人はとにかくがめつい。いざトランクの中身が一グラムでも軽くなってることに気付いたら、ワンフロアが丸焼けになるだけじゃ済まなくなる。これは奴が全く虫の好かない客であることとは、全くの別問題だ。
307号室、チェックアウト後に瀕死の人間を発見。いつも通り往来へ放り出してある。旅行サイト経由で予約してやがるから、そっちから違約金を取れるだろう。全く、近頃は吸血鬼って言ってもマナーのなってない奴が増えた。特にゲルマン系のインバウンドが酷い。殺したら殺したで構わないからフロントへ連絡して、廃棄や清掃その他の費用を負担しろと言うのが、そんなに難しいってのか。単にドイツの連中はケチだからって言うのもあるかも知れんが。
近頃は放逐案件が多いし、皆寒い中外へ出るのが億劫だから、ダーピン通りへばかり捨てに行くことについて。朝礼の時に訓戒があった。一々メモしろとは言わんが、ちゃんとルールを守り、他の通りへも行けとのことだ。クソ面倒だが、こうも毎日のように救急車が駆けつける状況は確かによくない。
かと言って、こちらで処理して業者に頼むのも金が掛かる。719号室でミス・プルシア・ポムが育てている食人植物の餌、首と背骨の一部と左脚しか残っていない残骸はともかく、406号室の死体なんか、マンハッタン(編註:6階を徘徊していた幽霊。彼女の他に、ハリー・バリーには確認出来るだけで4体の霊が住み着いていた)にちょっかいを掛けられて、自分で頭蓋骨が陥没するほど洗面台へ頭を叩きつけただけで、身体は綺麗なもんだった。厚意に甘えて(給与から天引きはされないそうだ)持って帰ろうかと思ったが、アルクディアに先回りされた。あんな大柄な人間、1匹で食い切るのは大変だ。半身位シェアしても良いだろうに、強欲な奴め。
業者との提携を見直し、これまで週に最低3人の処理を依頼をするところが、冬場は週に2人で良くなったそうだ。今週はまだあと1人ノルマがある。持ち帰りは、来週に期待だな。
俺は満月の日以外は自由にトランス出来るが、CPのトランスはドーパミンやらノルアドレナリンやらが関係してくるんだから、自分の意思で元に戻れない時もあるだろう。しかし不可抗力の前には自己決定権がある。ちゃんと節制しろ。ジムへ行け、それが無理なら体を動かせ。腹横筋を意識しながら、バイシクル・クランチを10分で1000回もしたら身体だって温まるし、性欲だって収まるだろう。
あと間違っても、オーキッドに噛みついたりするな。昨日のシフトの時、お前の瞳孔が開きっぱなしだったって、あいつずっと怖がってたぞ。
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