12月23日(金) アコーダンス
猫の顔の輪郭なんて知るか。ミスター・ベラーノがケチなのは仕方がない。先月は宿泊料金をギリギリで支払ってたからな、余裕がないんだろう。ミス・プルシア・ポムから受け取った慰謝料も全部タピオカチーズティーで使い果たしたに違いない。
ネビアーニ兄妹のご到着だ。この前も会っただろうが、威勢が良くて程々にアホっぽく程々に狡猾そうな、いかにも名門大学のテニスコートで日がな時間を潰していそうな金持ちのボンクラ息子って感じの男が兄のシンフォニー。高校生位の容姿で、黒髪に紫のメッシュを入れて赤いフレームの眼鏡をかけている、ぶりっこのeガールじみた美少女が妹のファンタジア。
荷物を解く事もなく、2人は早速210号室を観覧に行った。兄貴の方は「思ったよりも大したことねえな。ヴァチカンの犬にしちゃ品もなくて跳ねっ返りっぽいし」妹の方は「でも、こういう金髪マッチョの白人坊や、お兄様の好みでしょ。すぐバラバラにしないでね」
確かに気の強い性格であることは間違いないだろうよ。服を脱がされて散々と品定めされても、ミスター・モナコは抵抗こそしない。ただ、未来の自分の主人を、じっと睨みつけるだけだ。もし首輪が嵌められていなければ(ここ数日、腐敗の影響かよく膝が外れて転ぶし、かと言って始終ベッドへ寝かせておけば床ずれが出来るから、今朝からベッドの柱へ鎖で繋いである)連中へ掴みかかっていたかもしれない。
何にせよ、兄妹は名門一族らしくチップを潤沢に払う。2時に何か軽めの血液を持ってくるようオーダーが入っている。
チェリーがebayで売った不用品を発送するからと台車を借りて行った。ここのところの1105号室は阿片窟一歩手前だったが、だいぶ片付けたようだ。
増え続ける死体は、ミス・プルシア・ポムに渡している。あの食人植物も厄介だ。以前マルキをしゃぶって味をしめたらしく、彼女が近付くと蔦をぶるぶる振るわせる。危ないからホイストへ行かせろ。チップも渋いし、奴なら食われたところでどうってことない。
マルキはミスター・パルファムのところにやればいい。奴もアンシャンテに相当絞られて(これ以上従業員を困らせたら、元妻の弁護士へ日頃の悪さを進言すると脅したらしい)随分お行儀よくしている。
豆乳メーカーだと? そんなもの買った覚えないが、まあ、お前はいつでも俺のところから、勝手に物を持っていくし魚も盗む。お前のツナに対する執着心は全く恐れ入るよ。よくあのクーラーボックスを見つけたな。
俺の分も残しておいたからって言い訳は聞かんぞ。確かにあの袋叩きにされたみたいなタルタルはうまかったし、アズールも自分の送ったメニューを応用して作ったと聞かされたら機嫌が良さそうだったが、そう言う問題じゃない。ちゃんと弁償しろ。今は、金がない。
ボリビアは本当に物騒な土地らしいな。しかしマティの知り合いも、そんな土地へついて行くとは、肝っ玉があって不幸だ。似た者は寄り集まるということか。
マティが良い子であることは俺も認める。だが、彼女を連れて行くとすれば、ピサンの2万ドルなら足が出るどころじゃ到底足りないだろう。それに彼女は真面目だから、男の堕落してハメを外した生活を目にしたら、それこそお前に失望するんじゃないか。彼女は堅気の子だ、それを忘れるな。
ミスター・ギャツビーから連絡があった。物件管理人はカナダ在住で、サーバーもそっちにある。アメリカの法律で罰せられることはないとのことだ。
あの探偵はボンクラだが、奴に手を貸しているハッカーは優秀らしい。管理人の住所は手に入れた。ポーター航空、ウィニペグ行き、明日の最終便でRFK空港を発つチケットを取ってある。ペテン師をぶん殴って金を取り返し、夜シフトまでに戻ることは十分可能だ。
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