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11月18日(金) エメラーダ

 悲鳴なんか上げて悪かったよ。みっともないし、周りに迷惑をかけたと思ってる。でも言っておくけど、お前が送ってくれなくても、ちゃんと俺は1匹で病院に行ってたぜ。ガキじゃないんだからさ。

 まさか親知らずを抜かれるなんて思わなかった! 大体、そんなものが生えてるなんて、これまで掛かったどの歯医者にも言われたことがないよ。

 それに、痛みにも慣れてると思ってたんだ。喧嘩をして、飛び出しナイフで刺された腹からちょっと内臓が出た時も、アドレナリンがカッカと分泌されて、気は昂るのに。本当に怖いと指一本動かせなくなって、ただ叫ぶしか出来なくなるなんて初めて知った。まさかあれ、全身麻酔だった訳じゃないよな? 

 お前が処置室へ飛び込んできてビンタしてくれなきゃ、ぼんやりし過ぎて痛み止めをもらって帰るのを忘れたかもしれない。


 俺の虫歯が治ったのと同じくらい、シャーリーとドロレスが無事で安心した。地道にベランダ中を歩き回ったスコッティと、匂いを辿ってくれたグレイハウンドのお手柄だ。

 8匹攫われて、みんな命は助かった。しかも5匹は全くの無傷だったんだから、善戦した方だと思うよ。彼女達自身も、例によってそこまでショックを受けていないみたいだったしね。それどころか、みんなお前のことを「白馬の王子様」だってキャーキャー、また株を上げたな。

 お前はまた、色々考え込んでるみたいだったけど、仕方ないんじゃないか。お前も言ってただろう、サイレント・サードの爺さんには過去も現在も未来もない。前にミス・ウィング・ハートがあの小さい子達を「綺麗ね」って言ったのを覚えてて、今すぐ彼女を喜ばせようとしただけだ。別にミス・ウィング・ハートは、標本を部屋へ飾っておきたいなんて思ってなかったとしても。

 とにかく、その衝動性と、付随する飽き性が妖精達の命を救った。でも危なかった、あのまま瓶の中だと、彼女達は窒息するか餓死するか。蹴破ったドア代くらい何てことない。


 爺さんの処遇は、クロックが決めるだろう。別にこれまでと何も変わらないと思うけどね。妖精達に、あのフロアには近付くな、爺さんを見かけたら逃げろって伝えておけば。それにミス・ウィング・ハートも「私は何もいらないと、以前伝えたでしょう」と強めに言っていた。彼女の言うことなら爺さんも……どうだろう。何せ1500年も生きてきた吸血鬼だもんな。きっと頭の中なんか畳んで何日も放置した洗濯物、500年前のことが昨日の出来事の真上に積み重ねてあるって具合にグチャグチャだよ。

 

 一日に色々なことがあって、仕事に気が回らなかった。

 誰か垂れ込んだ奴がいるらしくて、304号室の人肉についておまわりが尋ねてきた。念のため、取っておいた肉の欠片を冷蔵庫へ保管しておいて良かった。お前が食おうとした、あのタッパーだ。連中へ引き渡してある。

 

 819号室のミセス・コロンブスがベランダから飛び降りた。自分の命運を悲観したんだろう。真下の719号室に落ちたんだけど、その時点では足を挫いただけで済んだのに、ミス・プルシア・ポムの食人植物にしゃぶられて……さっき息子さんが来て、病院へ連れていった。荷物は後日引き取りに来る。

 ミセス・ラ・プレイスは病院に行ってて留守だったけど、知ったらショックを受けると思う。まあ、いずれはバレちゃうだろうけど……


 トーピードがバーで1人、酒を飲んでいたんだけど、一杯奢ってもらった。なんだか彼女、うんざりしてるみたいだ。疲れてるとか弱ってるとかじゃなくてさ。


 さっきシャーリーがふらふら廊下を彷徨っていた。「じょうずにねむれないの」って言うから、俺がしばらく預かるよ。お姉さん達にもちゃんと許可を取ってある。縫い物の得意なオーキッドが、ハンカチを使って彼女の為に寝具を縫ってくれたから助かった。奴は器用だな。何だか妹がしていたお人形ごっこみたいだ。


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