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11月15日(火) エメラーダ

 ごめんよアコード、わざとじゃなかったんだ。何だか気がそぞろになって、上手く集中出来なかった。そうじゃなきゃ、やり合って第一手からいきなり鼻を折ったりするもんか。

 お前はすぐ軟骨を元に戻してケロッとしてるって分かってても、やっぱり俺、お前の言う通り腑抜けてるみたいだ。もっとツナを食べるように意識する。日光浴だってするよ。


 注意力が散漫だったのは、シャーリーのことを考えていたのもある。ドロレスが、この2日ほどあの子を見かけないから、お姉さん達が怒ってるって心配していた。他にも何匹か、無断欠勤の子がいるんだって。基本的に薄情な性格の妖精が、わざわざそんなことを口にするなんて、尋常じゃないくらい動揺している証だと思う。

 いくらおませだって言っても、シャーリーはまだ俺達の感覚だと幼稚園に通っているような年頃の子供だ。このホテルは広いし、どこかで迷子になったり、ネズミ捕りに引っかかっているのかも。それとも、もしかしたら密猟者に攫われたか。


 さっき711号室のスコッティと、それに1015号室のグレイハウンドにもこっそりと、心当たりがあったら教えてくれと頼んでおいた(犬の方は言葉があまり通じなかったけど)


 天気と言えば、ミセス・ラ・プレイスも曇り空が続いて関節が痛むと言うから、今日も脚を揉んでやった。彼女には孫がいて、ミネラルポイントの採掘場で働いているらしい。その孫は俺みたいにいつでも真っ黒なんだって。やれやれだ。


 905号室の人狼は、相当激しいプレイに従事させられてるみたいだ。夜中の2時過ぎにロベルタが氷を持って行った。その30分後に、グリーンドア・エスコート・サービスから男が1人派遣されてきた。4時半には俺が包帯とオキシフルを持って行ってる。部屋には入ってない、ドアの前に置いておけって指示でね。防音結界を掛けてるのか、音はちっとも聞こえてこなくて、廊下すら端から端までしんと静まり返ってるのが却って不気味だ。まあ、チップは沢山くれるからね。好きにしてくれって感じ。


 あと今夜は、302号室にフォンダンショコラとグリルドチキンを持って行って、218号室にはブランケットとスリッパのオーダー。お前が通販で頼んでおいてくれた文房具類は全部棚に片付けてある。

 

 1310号室のミスター・イムホテップが、マルキに卑猥な言葉を掛けたらしい。俺に張り倒させちゃ駄目かって彼女がクロックに聞いてたけど、許可が出なかった。ホイストは帰り際に「ホテル勤めでその程度のこと、通過儀礼にもならないさ」だなんて失礼を抜かすから、こっちは頭をはたいておいた。ふらふらしてたし、耳からちょっと血が出てたから、鼓膜を破いちゃったかもしれない。まあ、治療代を出せとは言ってこないと思うよ。悪いのはあいつだし。それにこの前、お前がフロントデスクに顔を叩きつけた時だって、奴はすっかりビビって何も言わなかったじゃないか。額がぱっくり割れてたのにね。


 今日、アルクディアがシフト終わりにミス・オーロラとバーで一杯傾けてたんだけど、そこをチェリーが通りかかったんだ。もうアルクディアも、あんなに面の皮が厚いのは、いっそ驚嘆に値するよ。彼女を横目にヒソヒソ話、そしたらミス・オーロラも鼻を鳴らして、ちょっと笑うんだ。あの2匹はお似合いだと思う。貶してるんじゃない。あれだけのコンクリート・ハートを持っていたら、これから先どんな困難でも絶対に乗り越えられるよ。特にミス・オーロラは、強い。例え何があってもアルクディアを愛し抜くつもりなんだろうし、アルクディアが愛することに挫けるのを絶対に許さないんだろう。


 チェリーはじっと前を見据えたまま、歩調を緩めるでも速めるでもなく、黙って通り過ぎたけど。なあアコード、彼女を慰めてきてやったら? 荒れたら彼女、また厄介事を起こす。


 それと、俺は人を食べないよ。この前は本当にイカれてたんだ。


$1,429.06

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