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11月10日(木) アコーダンス

 その癇に障るバンジョーの弾き語りを金輪際やめろ。アパートの誰も遠慮して口にできないなら、俺が言ってやる。

 この短期間で、メロディを判別できる程度の技術を習得した熱心さは認めてやる。だがお前が辿々しく爪弾くテイラー・スウィフト、演奏が突っかかるたびにイライラするし、何よりも発情期の猫じみた音階でウニャウニャ歌う声を、勤務明けに聞かされるこちらの身にもなれ。


 あとは南の島で練習すればいい。どうせ年明けには暖かいところでのんびり過ごせるんだ。


 ドロレスとは昨日、ようやく口を聞いた。「たしかに本番じゃない、しかも地獄から幽霊がでてくる日にウエディングドレスをきるなんて、不吉だったかもしれないわ」と、思い直してくれたようだ。ハロウィン以来、俺が仮眠へ入るたびに見計らったようにやってきちゃ、無言でベッドの枕元で身を丸めて眠るもんだから、いつ潰すか気が気じゃなかった。


 409号室のフリッパーが泣きながらフロントへ電話してきて俺を呼んだら、こっちへ連絡を回してくれれば構わない。俺のスマートフォンへ連絡してこないのは、要するに構って欲しいからだ。放っておけばいいんだろうが、ODでもされたらコトだ。彼女は高名な竜人一族の娘だからな、いざとなったらそっちに何とかして貰えばいいだろう。


 トーピードは相変わらずどこをほっつき歩いているのか……ただ、三度の飯には必ず帰ってきて、ミスター・モナコに食事を与えている。もちろん、自分が狩ってきた獲物をだ。

 ゾンビてさえなければ、ミスター・モナコは非常に、皮肉な話だが、清廉潔白という奴なんだろう。人間だとボーイスカウト的と呼ぶのか。まだ腐敗は、少なくとも見かけへ影響を及ぼすほどには進んでいないから、匂いも殆どない。人間だった時は、さぞ女性から秋波を浴びていたはずだ。ヴァチカンの神父として働いていたなんて勿体ない。

 しかしエクソシストも、ウイルスに感染してしまえばおしまいだと、奴を見ていたらつくづく思う。まだ教義を信じているから自殺はしないだろうが、暴れ出したらトーピードに連絡しろとのことだ。


 チェリーとマルキが喧嘩をした。俺もよく分かっちゃいないんだが、ここのところのチェリーの堕落した生活を腹に据えかねたマルキが、オーダーされたキャンティを持って行ったときに説教をかましたらしい。マルキは悪い奴じゃないが、何かにつけすぐに正論を振り翳したがるからな……最終的に空のワインボトルを投げつけられたそうだ。俺は気付かなかったが、後でチェリーの部屋へ行った時に顛末を聞いた。

 ミスター・スプリッツァーは骨が治って以来、小さな賭場へ出入りするか、ゲンソーラー通りのスターバックスで日がなぼんやりしているかだという。あいつが瀬戸際で親族の元から金を引き出せて、宿泊代を支払えたのは喜ばしいことだ。


 あとは特筆すべきこともない。913号室で壁寄せ、401号室の吸血鬼は塩素系洗剤その他をオーダー、血まみれの服を自分で何とかする気のようだ。クリーニングに出すよう勧めたが、こんなホテルの職人は信用ならないと。

 確かにピクシー達もストの間のブランクがあるからな。連中は相変わらず317号室から出勤してきている。この前ネズミに遭遇したというのでお前がネズミ捕りを仕掛けていただろう。酔ったアイロン係があの中へ入り込んで閉じ込められていたから出してやった。交渉で勝利を収めたからと連中も少し腑抜けてるんじゃないか。


 助けついでの話で言えば、ミス・ウィング・ハートが廊下で倒れていたのをサイレント・サードの爺さんが部屋へ連れて行こうしたものの、起き上がらせることができずへたり込んでいたので、手を貸している。いつものODだが……お前、爺さんに新しいバスローブを買ってやったんだって? 優しいじゃないか。どういう風の吹き回しだ。


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