58.子守唄と巨大化
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ベリー一行は,轟音に驚いてシャディル達の方に視線を向けた。
そこに居たのは,五人のシャディルだけ。
「……リオンは?」
「……あそこ」
ベリーが視線を巡らせる横で,キャサリンが顔を顰める。
キャサリンが指差したのは,建物の上の方だった。
よく見ると,屋根の辺りに亀裂が入っていて,その中心にリオンが立っている。
「……え? 吹き飛ばされたってこと?」
ベリーが目を瞬いてシャディル達の方を見た。
一人のシャディルが,雷電を纏った槍を構えてリオンの方を見ている。
「恐らく……鎌ごと飛ばされたんでしょうね。本人に特に怪我は無いようですが」
状況を観察していたリリーナが呟いた。
リオンはもう一度シャディル達の方に向かおうとしていたが,ふと何か考え込むように動きを止める。
それから,無言でベリー達が居る防御魔法の中に戻ってきた。
「……一寸休憩させて」
小さくそう言われ,リリーナが笑みを深める。
「勿論です。引き際を見極められるようになれたんですね」
前のリオンは取り敢えず正面突破だったが,今は休むことも覚えたらしい。
仲間が出来たことで,他者に勝敗を託す余裕が出来たのだろうか。
「じゃあ次,誰出る?」
「はいはいはいはいはいはい!! 戦いたい!!」
キャサリンが問うと,ベリーがバッと挙手する。
先程まで戦闘を嫌がっていたのに,見事な変わりようだ。
それに苦笑しつつ,キャサリンは少し考えるように沈黙する。
「じゃあ,ゆっちゃんは歌を歌ってリリーナの魔法を補助。ベリーはリリーナの魔法の中から,攻撃魔法を撃てる?」
「ゆめもお手伝い!」
話を聞いていたゆめがぱっと顔を輝かせた。
それに笑顔を向けて,キャサリンは続ける。
「あと今戦えるのは私とミーシア。だから,二人でこの防御魔法から離れた所から,何人かの注意を引くために攻撃するね」
「了解です」
囮になるということだが,ミーシアは特に不満も言わない。
そもそもこのパーティーは基本的に強いので,心配する必要も無いのだろう。
キャサリンとミーシアが軽く打ち合わせてから防御魔法を出て行く。
それを見届けてから,ゆめは深く息を吸い込んだ。
取り敢えず一番好きな歌を歌って,と言われている。
ゆめが一番好きな曲は,子守唄だ。
幼い頃から,キャサリンがずっと歌ってくれた思い出。
「__あの空に光を……咲き誇る自由を,あなたに__」
軽やかな声音で,優しい歌が紡がれる。
同時に,リリーナの防御魔法が光を増した。
「やっぱ凄い……」
補助魔法については知識でしか知らないリオンが,感嘆を漏らす。
彼女を驚かせるのは,ゆめの魔法の扱い方だ。
歌っているとはいえ,ゆめはどんな魔法を使いたいか全く考えていない。
それなのに,喉から溢れ出た音楽は,魔法に変化している。
「……うーん,私も原理はよく分からないんですよね。まぁ,ベリータイプですよ」
「へー……」
リリーナが困ったように笑った。
魔法を使う人が皆ゆめのように感覚で操れるわけでは無い。
ただこのパーティーはそのタイプが多過ぎる。
リオンはもう,魔法については深く考えないようにしていた。
「__いつまでも……あなたの愛を抱えて__」
同じ頃,屋根の上からキャサリンとミーシアはリリーナ達を見ていた。
キャサリンは,ゆめの歌に合わせてノリノリで歌っている。
「……何で聞こえるんですか?」
ゆめの口の動きからかろうじて読み取れたミーシアが首を傾げた。
「え? ゆっちゃんの声は聞こえるでしょ」
「……?」
「キャサリンのゆっちゃんヲタクについては考えない方が良いよ」
屋根に座って呑気にお菓子を食べていたベリーが,諦観の表情で答える。
ミーシアは無言で瞬いたあと,ベリーの茶菓子を一つ取って隣に座った。
あからさまにショックを受けるベリーを無視して,言葉を続ける。
「では,そろそろ我々も動きますか?」
「そだね。ベリーも準備出来てる?」
キャサリンが敵の方を睨みながら問うた。
シャディル達は既にこちらを認識しているが,攻撃は仕掛けてこない。
恐らく,ゆめの補助魔法が一番厄介だと判断したのだ。
ゆめの方に集中している五人の攻撃を,リリーナが受け止め続けている。
しかし,リリーナにはそろそろ限界が来てもおかしくない。
「準備……ちょっと待って。よし,おっけー」
余っていた茶菓子を口に放り込んで,ビシッと立ち上がる。
「何だっけ? あっちを一体倒せばおっけー?」
シャディル達の方を指差して,ベリーが決め顔をして見せた。
「うん。えいってやってくれれば」
ベリーの表情は華麗にスルーして,キャサリンが腕を振るような仕草をする。
それを聞いて,ベリーはにまっと笑ってから手に魔力を籠めた。
「良い感じにやってみる! えーとね……あ,菜箸あるわ」
鞄をゴソゴソと漁って,何故か竹製の菜箸を取り出す。
もうお菓子は関係無い。
「……じゃあ,ベリー頼んだよー」
それを見て,キャサリンはツッコむのを諦めた。
何度かゆめの方を名残惜しそうに眺めたあと,屋根の上から消える。
それを確認してから,ミーシアも姿を消した。
屋根の上に,ベリーが一人だけ残る。
「よーし! 頑張るぞー!」
シャディル達は,絶えずリリーナ達の方に攻撃を与えていた。
五人居るので,疲れを感じることも無いのだろう。
「あれって,空気をえいってやって,風みたいなのを投げてるんだ……すごー……」
何処かで見たことのある攻撃だと思ったら,リオンの鎌とやっていることは同じだった。
「……何で直接ざくってしに行かないんだろ」
何となく違和感を覚えつつ,まぁ良いかと菜箸を構え直す。
自分の手の二倍くらいの長さの菜箸を見て,ベリーは少し沈黙した。
「……これも,大きくならないかな?」
思い出すのは,魔王領の障壁を破壊した時。
手に持っていた泡立て器が何故か巨大化したことを思い出す。
あの時は「障壁を良い感じにえいって出来ないかなー」と考えただけで,特に特別なことはしていない。
「何で大きくなったんだろ〜……」
菜箸をじーっと見つめても,特に変化は無い。
「うーん,魔法は想像するんだっけ? じゃあ,大きくなるものを想像すれば良いのかな……あ」
“大きくなるもの”が唐突に思い浮かんだ。
「成功するか分からないけど……やってみるか!」
菜箸を構え直して,魔力を集中させる。
「確か……どわって膨らんでた気がする!」
頭に浮かんだのは,パンの制作工程だった。
記憶が正しければ,リリーナが焼いていたパンは良い感じに膨らんで大きくなっていた筈。
ちなみに,ベリーが焼いたパンはお約束のように爆発した。
それは思い出さなかったことにして,ベリーはその時の記憶を探る。
「えっと……そうだ! 【巨大化!!】」
ベリーが叫んだ瞬間,手元の菜箸が強く光った。
瞬きの間に,菜箸がベリー三人分くらいの大きさ変化する。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:帰って来てキリの良さー!
ちなみに菜箸ネタの発案は我等がリオン本人様です。




