36.歴史の話
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しんみりした空気になったところで,長老が困ったように微笑む。
「お話を続けても良いですか? 時間もあるわけではないでしょう」
「お願いします!」
ベリーが頷くと,長老は再び穏やかに語り始めた。
内容は勿論,全く穏やかではない。
*……*
運悪く魔族の娘の正体に気付いてしまった幼馴染は,家ごと消し炭にされた。
家族や周囲にいたのであろう村人も巻き込んで。
情報が漏れることを恐れたのか,或いは……。
魔族の考えることはわからない。
ただ,人間らしい思考はしていないのだろう。
私は不運にも,魔族と目が合ってしまった。
死を覚悟した。
だが,私はその場から生きて逃げ延びることが出来た。
別に魔族の温情ではないし,気紛れでもない。
騒ぎを聞きつけた村の衛兵達がやってきたのだ。
魔族の注意がそちらに向かい,私はとにかくその場から離れようと走った。
今思えば,あれが悲劇の始まりだった。
最初に,村長の家が消えた。
村の周囲を,黒い炎が覆っていた。
逃げ場がない状況で,子供も大人も入り混じり,恐怖に叫んでいた。
村長の家があった村の中心から,炎に侵食されていた。
何処までも冷徹で冷たい目が,地上を睥睨していた。
その姿は,魔王のようだった。
同じことを思ったのか,誰かが「魔王だ!」と叫んだ。
すると,魔族の娘は本気で不愉快そうな表情になった。
『私が魔王? 巫山戯るのも大概になさい。私は偉大なる魔王様の駒』
その言葉に,どれだけの村人が絶望したことか。
魔王の如き恐ろしさを持つ娘を,従える者がいるのだ。
だが,恐怖と絶望に溺れた村人達はまだ幸せだった。
発言した者と,その周囲にいた人間が消し炭になった。
気付けば,瓦礫の後ろに隠れていた私だけが生き残っていた。
いつの間にか,辺り一帯は消し炭と瓦礫の土地と化し,生命の気配はなかった。
荒野を照らす朝日が,妙に綺麗だったのを覚えている。
何も無いその大地を,長い間見つめていた。
やがて日が落ちる頃,一人の女が現れた。
自分と同じくらいの年齢の女は,惨状を見て驚いたようだった。
冒険者__というよりは魔法使い風のその女は,周囲を見回しながら私の方に向かってきた。
『この村,魔族に襲われたのかい?』
まるで今日の夕食のメニューを尋ねるような,朗らかな口調だった。
私が頷くと,女は残念そうな表情になった。
『そっか。残念だなぁ。じゃ,私は次の村に行くから』
『ちょっと待って』
のんびりとした口調で去ろうとした女を,私は渾身の力で引き止めた。
女__カランティは,自身のことを“魔女”と名乗った。
自ら魔を名乗る女が正気とは思えなくて,何度も聞き返した。
だが,カランティは笑って頷くばかり。
それ以上の追求を諦めた私は,少し自棄になって言った。
『魔法が使えるなら,この村を戻してよ』
私はもう限界だった。
だが,目の前の女は化物だった。
それこそ魔族と同じくらい__御伽噺に登場してはいけない類の。
一瞬にして,荒野は緑溢れる豊かな土地に戻った。
ついでにカランティは行き場に困っていた人々を転移させて,村の人口を増やすという荒業をやってのけた。
しかし,順調過ぎるほど順調に復興していた村で,ある事実が発覚する。
土地自体が,魔族の闇魔法に呪われているとカランティが言ったのだ。
どういうことかと問い詰めると,彼女は少し困ったようだった。
『この村を襲った魔族は,かなり高位の魔族なんだ。土地そのものに,自身の感情を叩きつけたんだろう』
カランティの言うことは,偶によくわからない。
だが,その次に彼女は驚くべきことを言った。
『この土地で生まれた子に,闇魔法の適性が芽生えるかもしれない。それはその代では現れなくても,脈々と受け継がれて,いつか必ず芽吹く』
*……*
「……だから,ミーシアは闇魔法が使えるのかな?」
「流れ的にまず間違いないよね」
ベリーとキャサリンが納得したように頷く。
当の本人は,長老の話を静かに聞いていた。
何処か虚ろな目が,二人の視線を感じて普段通りの曖昧な色に戻る。
「……そうですね。母はもういないのですが,確かにこの村には少し覚えがあります」
若干言い回しがおかしいが,嘘は感じられない。
本人も困惑しているのだろう。
そう割り切って,ベリー達は視線を長老に戻した。
「ちなみに,ちょーろーさんに質問良いですか?」
「はい。何でしょう」
長老がまるで教師のようにベリーに答える。
「あのー……なんで,年取らないんですか!」
よくぞ聞いた! という視線がベリーの方に向かった。
全員にとって,ある意味一番の疑問。
長老は,小さく微笑んで答える。
「妾はこの呪われた土地で長い時を生きてきました。故に,身体が魔族に近付いてきたのですよ」
衝撃の告白を世間話のように言ってのけた彼女に,ベリー達が絶句したのは言うまでもない。
最後までご覧頂きありがとうございます。
一言:長老さんが良いキャラ過ぎて良い件。
しれっとカランティ様が初めて喋ってらっしゃる……。




