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22.新たな旅立ち

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 とある大陸の四分の一をおおう,果てしない草原。

 その緑一面の地面を,ベリーは軽やかな足取りで駆けていた。

 キャラメルのような黄金の髪が,日光を浴びてきらめく。

 常に途絶えることの無い明るい笑みの中で,琥珀の瞳が光っていた。

 その中に写っているのは,四人。


「ベリー,走って転んだら自己責任ですからね?」

 呆れたように,それでも優しげな表情を浮かべる治癒者ヒーラーのリリーナは,高位の神官であることを示す純白のローブをひるがえす。

 ベリーの古馴染みであり,知識・魔法共に優れた魔王討伐の心強い味方だ。


「ゆめも! ゆめも走るー!」

「ちょっ……危ないけど,走りたいなら走っておいで……!」

 楽しそうな笑みを浮かべて草原を駆けるゆめは,いつの間にか人化と普段の状態を流れるように使い分けている。

 思い切り草原を走るのは,普段の状態の方が良いらしい。

 それを止める気は全く無いキャサリンは,微笑ましそうにその様子を眺めている。

 黒一色の見た目は,威圧的な雰囲気をまとう夜空の覇者はしゃという感じなのだが,それを微塵みじんも感じない。

 二人は神狼国ヴェステリエの犬獣人であり,それぞれ補助・雷にてっした魔法使いだった。


「……ベリーは走るのが好きなの? 体力なさそうなのに」

 普段通りの無垢な表情で,リオンがそう呟く。

 何かが刺さったようなポーズを取るベリーに,少しだけ黒蝶真珠ブラックパールの瞳を緩めた。

 愛用の鎌は草原を伐採しないように背に担がれているが,自分の身長程あるそれを軽々と担いでいるのは相当な違和感がある。

 武力や筋力,持久力が見た目通りではない,このパーティー唯一の戦闘特化メンバーだった。


「……別に走りたくて走ってるんじゃなくて,魔王討伐まおーとうばつは急いだ方が良いから……」

 へこんだ表情でベリーがそう言い連ねると,リリーナが苦笑する。

「魔王領までは,走っていけるほど近くありません。このままのんびり草原を歩いていれば,多分半年くらいかかりますよ」

「結構遠いんだ……?」

 リリーナの解説に,キャサリンが周囲を見回して溜息をついた。

 終わりの見えない草原を延々(えんえん)と歩くのは,流石につまらないのだろう。

 それはベリーとゆめも同じなのか,キャサリンの真似をして溜息をつく。

 三人の様子に,リリーナは困ったように眉を下げた。


「……一応この世に,転移魔法を使う魔法使いはいるんです。でもかなり技術と魔力が必要ですし,制限も多いらしく……私は使えないんですよね」

 それを聞いて更に絶望的な表情になった三人を見つつ,リオンが小さく呟く。

「……じゃあ,転移魔法を使える人を探せば?」

 いないわけじゃないだよね? と続けると,ベリー達がハッとしたように立ち直った。

「確かにー! 最悪,私が覚えれば良いもんね!」

「いや,転移魔法はそう簡単に覚えられるものじゃないんですけど」

 すかさずツッコミを入れつつ,リリーナは少し考えてから頷く。

「……まぁ,この草原にいるかはわかりませんが,魔王領に向かいつつ探すのはアリですね」

 その言葉を聞いて期待に満ちた笑みを浮かべ,ベリーが腕を空に向かって突き上げた。


「じゃあ決定! このまま魔王領まおーりょうに行って,転移魔法を使う人を探すぞー!」

「おー!」

 ゆめとリオンが同じように腕を上げて続けるのを,キャサリンとリリーナは微笑ましそうに見つめる。


「……そろそろ夜だね」

 決意を固めてから数時間歩いた所で,キャサリンがそう零した。

 茜色の空が徐々に明かりを失い,後を追う静寂せいじゃくが草原を呑み込む。

「夜ご飯〜!」

「夜ご飯〜」

 声を弾ませてその場で一回転してから,ベリーがテントを取り出した。

 明るい笑みを浮かべて真似しつつ,ゆめはその様子を見つめる。

「……テント,大きいね」

 リリーナが魔法を使って立てたテントを見て,リオンが目を丸くした。

 そのテントは,大人が六人寝転がっても余裕がありそうな広さがあり,高さもベリー二人分くらいある。

「このテントは魔法で大きさを変えられるんです。最大がこれ」

 リリーナが微笑んで答えつつ,少しテントの大きさを調整した。


「今度こそ,夜ご飯〜!」

「やった〜!」

 テントが立つ様子をそわそわしながら見ていたベリーが,草原に広げたシートに座り込んで高らかに告げる。

 追従するゆめは,キャサリンから皿に盛られた料理に視線を向けていた。

「こんな旅なのに,料理の質は半端なく良いよね」

 キャサリンがサラダを食べながらそう呟く。

「私お姫様だもん。料理にはこだわらないとね」

 柔らかい肉をつまみながら,ベリーが胸を張った。

 リリーナは苦笑しつつ,その皿に野菜を盛る。


「でもびっくりした。火のつけ方が斬新」

 一口サイズのパンを呑み込んでから,リオンが感心したように目の前の焚き火を見つめた。

 この焚き火は,キャサリンが稲妻を落として火をつけている。

「あれが一番やりやすいから……」

 言い訳がましくそう答えるが,実際はゆめが喜ぶからだ。

 犬は雷が苦手なことが多いが,ゆめは慣れているので,そこらの犬よりも大きな音や光に強い。


「……まぁ一個だけ困るのは,すごく目立つってことですね」

 ふとリリーナがそう呟く。

 開けた草原に雷が落ちれば,遠目でもよく見えるだろう。

「でも別に,そんなに魔王領も近くないから大丈夫でしょ」

 食後のデザートに移ったベリーがそう答える。


「……それ,フラグってやつ?」

 リオンがぽつりと呟いた言葉は,夜の冷たい風に流れていった。


最後までご覧頂きありがとうございます。

一言:第二章開幕です!

   最初は平和回がベリーのお決まりですよ。

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