逆さの暗黒城【2】
幼馴染たちが叫ぶ理由がよく分からなかったが、とりあえず言葉が足りなかったようだ。
普段いかにオディプスとミクルが会話していないかが窺える。
これが日常化していたのだ。
無駄を省いた結果、やる事は大体定まる。
残るはタイミングだ。
頭で考え、想像し、適切だと思えるタイミングに声をかける。
ミクルで気付く事などオディプスはとうの昔に気付いているのだから、声をかければそれが合図。
ただそれだけの事だと思っていたが、幼馴染たちはそうはいかない。
仕方なく、彼女らに向き直って上を指差した。
「王の間……謁見の間……よく分からないけど、三階にある……」
「え? う、うん?」
「なんでそんな事分かるのー?」
「『探索』の魔法で……調べられるし……」
それで構造を把握出来る。
オディプス曰く、魔法が発達するとそういう魔法で城の内部を暴かれないよう、偽装内装魔法などをかけて城を守ったりするらしい。
それはオディプスの世界が魔法を用いて戦争を行なった過去があるから。
一応そういう魔法も教わりはしたが、今のミクルと対等に魔法合戦が出来るのはクリシドールかオディプスくらい。
無論、この二人に比べるとミクルの方が弱いだろう。
この二人と肩を並べる、などとそこまで傲慢にはなれない。
「…………魔力の塊もたくさん感じる。多分、あそこ」
「そ、そうなんだ。三階って事は、階段を探さないとね」
「ううん、階段は、ない」
「「「「ない!?」」」」
四人の声が面白いほど綺麗に重なる。
そんな様子がなんとなく可愛らしい。
「昨日説明した通り、この城はクリシドールが自らの肉体を物質化させて建築したものだ。普通の城のような機能はないのだろうをあちこち空間の歪みが出来ている。まあ、これは『吹き溜り』や『吹き溜り』から発生した毒素の影響も大きいと思うが」
「え、く、空間の歪み……?」
「すごく危ない。でも、そこ以外は安定している……普通の建物。だから、そこに近付くまでに、転移して登る」
「転移ってぇ……さっきみたいな?」
姉妹の質問は的確。
それに頷いて、天井を見上げた。
「ここ、真上……安定してるから、ここ、真上に転移する」
「えっと……つまり私たちも?」
「うん。連れて行くから、とりあえず近くに来て」
「…………」
顔を見合わせ、そして一歩、二歩と近付く。
魔法陣を展開して真上に着地点を設置。
「飛ぶね」
その一言の後、幼馴染たちは一瞬だけ光に目を瞑る。
そして開くと、そこは別世界のような空間。
「なにこれ……!」
「なかなか独創的な城だね」
「はい」
「いや、そんなレベルじゃないでしょ!」
ユエンズの見事なツッコミが響き渡る。
そこは、森林だった。
空間が下の階と完全に切り離されていて、こちらも瘴気が溢れている。
モンスターが木々の隙間から顔を出し始めたのを見て、ミクルが一瞬で魔法陣を敷く。
「エーテル・ディ・エル・フィールド・オング・ギガアラ」
一瞬で、この階層の瘴気とモンスターを先程と同じ大きさの魔石に変換生成する。
オディプスがにっこり微笑むので、ここぞとばかりに撫でられに近付く。
(三階……だから、後一回くらい……撫でてもらえるかな……)
ミクルの願い通り、オディプスが優しく髪を撫でてくれる。
目を閉じてそのご褒美を堪能した。
その間オディプスは平然と魔石を体内へと取り込む。
もう少し、後少しだけ。
そう思うミクルの頭から手が離れて行く。
「……ここにきて随分と甘えん坊になったね、君」
「…………そんな事、ないです」
頰を膨らませる。
そんなミクルを、幼馴染たちはどう思ったのだろう。
少なくとも彼女らの知るミクルは人に甘える事はない子どもだった。
両親を早くに亡くして、村の大人たちに育ててもらう事になってから笑顔もあまり見なくなったと思う。
それを一番身近に感じていたのは同じ親なしのエリンだ。
どこか遠慮がちになり、人と一線を引く。
閉じこもるわけではないが、完全に他者に心を開いているわけでもない。
そんなミクルの様子を心配して、ワイズたち姉妹、村長の娘であるユエンズ、境遇の似たエリンはミクルの世話を焼くようになったのだ。
それでも、それでもだ。
(ミクルが、甘えてる……)
ワイズにはそれがなかなかの衝撃だった。
拗ねて、甘えて、撫でられに行く。
そんな事は、村の誰も経験していない。
(あんな顔も出来たんだ)
リズにとっては一つ年上の男の子。
他の村の男の子とは違う、どこか放って置けない弟のような存在。
歳下の自分には少しだけお兄ちゃんぶる時があった。
だがその程度。
(やっぱり、寂しかったのね……)
ユエンズは村長である父を、ミクルにも親のように思って欲しかった。
家族のように接して、少しでも両親が亡くなった傷を癒してもらえれば、と。
なにが違うのか分からない。
あのオディプスという人物との時間は、ミクルが村で過ごした時間よりも遥かに短いはずなのに。
(……そっか……本当にミクルが欲しかったのは……誰かに認めてもらう事だったんだね)
エリンにもそれはとてもよく分かる。
親に捨てられたエリンは、しかし村長が拾ってくれた事で、そして共に過ごす事で救われていた。
それでも埋められないものはあるけれど、少なくとも村ではミクルのように同情で見られる事はない。
彼は周りから庇護の対象としてしか見られなくなり、ある意味で、一人の男の子として、信用されなくなったのだ。
オディプスはミクルを認めている。
当然だろう、なにしろ彼自身がミクルをここまで強く育てたのだから。
だから、気付いた。
(もうすぐお別れなんだね)
(オディプスさんがワタシたちを連れて来たのは……ミクルを一人ぼっちにさせないためなんだ)
(なによ。ミクルを誘拐したくせに……。ミクルもミクルだわ。誘拐犯にすっかり心を許しちゃって! 仕方ないけど! あれは仕方ないけどっ!)
(……けど、あんなにでかい魔石を二つも取り込んであの人どうするつもりなんだろう?)
それぞれ思うところはあるものの、ミクルとオディプスが進み始めると後について行く。
今のところ戦闘らしい戦闘は行う必要もなく、進めている。
というか、これでは『勇者と名乗る者』が相手になるのかが怪しい。
「ねえ、さすがに勇者もどきもわたしたちが侵入してるのに気付いてるんじゃない?」
「まあ、多分。気付いてなかったらそれはそれでどうかと思う」
「そ、そうだよね……。なんにもしてこないのかな?」
「なんにも出来ないのかも。オディプスさんが、この城、結界で覆っちゃったし」
「え?」
そう、オディプスがここに来てすぐに城を丸々巨大な結界で覆った。
何人も出入り出来ない強力な結界である。
彼自身あまり魔力を使いたがっていなかった。
存在維持に魔力を要するからだ。
あの巨大な魔石二つを飲み込んで、回復はしたようだがかなり特殊な……空間そのものをずらして維持する結界のため彼でも魔力消費が大きかったらしい。
『吹き溜り』はそもそも空間の切れ目から噴き出した魔力と毒素そのもの。
結界で覆っても関係ない。
「しかしこのままやられるつもりもないようだね」
「はい」
「え? なにか動きがあったの?」
ユエンズが不安げに聞いてくる。
そんな顔をしなくてもいい、と微笑んで「『吹き溜り』の数が減ってるよ」と答えた。
オディプスもなんともにこやか。
それで四人は勘違いしたのだろう。
「もしかして、戦わなくても向こうが土下座で謝ってくる感じ?」
「やっぱりミクルとオディプスさんの実力に気付いて尻尾巻いて逃げちゃった感じ〜?」
「なんだ、それなら……」
「モンスターも噴き出したりしなくなるって事?」
「いや? なりふり構わなくなって『吹き溜り』を取り込み始めたんじゃないか?」
「うん」
「「「「………………」」」」
カクヨム先行に追いついたので書き溜め期間休載いたします!
もう少しで完結予定なので、とりあえず新作でも読んでお待ちください。
あっちの書き溜めはすごいですよ……30万文字ですからね、ふふふ!
まあ、その間に終わるでしょう! どれかは!








