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チョコレートに愛を込めて(後編)

後編です!

 そして山を越え谷を越えなんとかチョコの材料を仕入れて戻ってきた時には……もうバレンタイン当日の明け方だったのだ。


「お、おい……大丈夫か……?」


 ふらふらになって戻ってきた僕とエセリナをレヴァンが出迎えてくれる。

 うぅ、今はとにかく眠りたいけど……何とか今日中にチョコを作って渡さないと。


「すみません、一部屋お借りしますね……」


 ふらふらと客室に向かったエセリナは、ベッドにたどり着く前に倒れてしまった。

 なんとかそんな彼女を僕とレヴァンでベッドに運び、ふぅ、と一息つく。


「ほんとに大丈夫か? クロエからすごく珍しい材料の採取に行ったって聞いたんだが……一体なにと戦ってきたんだ……?」

「自分自身、かな……」


 駄目だ、頭がぐるぐるしてうまく回らない。

 でも、なんとかチョコを作らないと……


「それじゃあ俺は行ってくるけど……お前もちゃんと休めよ?」

「わかってるよ。レヴァンじゃないんだからそんなの当然だし」

「お前なぁ……」


 レヴァンは今日もお仕事だ。

 あの元エリックのパーティーの子たちが気になるけど……たぶんサフィラもいるし大丈夫だろう。

 それより僕は、レヴァンのいない間になんとかチョコを作らないとね。


「……セリス」


 レヴァンを見送りに玄関まで出ていくと、レヴァンは一歩足を踏み出そうとして……何故かもう一度僕の方を振り返った。


「なに?」

「いや、そのさ……お前の自由と言えば自由なんだが……」


 珍しく何か言い辛そうに、レヴァンは勿体つけて口を開いた。


「今回みたいに何日か家を空けるときは……直接俺にも言って欲しい」

「……うん?」

「その……俺だって、心配するからな」


 わしゃわしゃと照れ隠しのように僕の髪の毛をかき混ぜると、レヴァンは今度こそ僕に背を向けた。


「じゃあな! ゆっくり休めよ!!」


 そして、レヴァンはどこか小走りで町へと続く木立の道へ消えていった。

 僕は、彼の姿が見えなくなってもしばらくそこに突っ立っていた。


 ――心配、してくれたんだ…………


 そっと触れた頬は、確かに熱を持っていた。

 やばい、嬉しい。

 レヴァンの言葉一つで、今までの疲れなんて吹っ飛んでしまうから不思議だ。

 ついでに前に作った栄養ドリンクも飲んで、これでいける!


「よーし、頑張って作らないとね!!」



 ◇◇◇



 しかしどんな風に作ろうか……とフィロメラさんのレシピをめくると、なんとチョコの作り方まで載っているではないか。

 ほんとにあの人は何でも知ってるんだなぁ……


「よし、このページと……あっ!」


 その時窓から風が吹いてきて、ノートのページがぱらぱらとめくれてしまう。

 慌てて元のページに戻そうとして、僕の目はとある記述を捕らえた。


 ――意中の相手を、振り向かせる効果


 あ、これやばい奴だ。

 そう思った。確かに思った。

 でも、気がついたら僕はそのページを開いて食い入るように中身を読んでしまった。

 そして、頭の中で勝手に組み立て始めてしまう。

 いかに、この効果を持つ薬をチョコに混ぜるかを……!


「駄目だよ、こんなの……!」


 駄目だ。薬の効果で人の心を捻じ曲げるなんて間違ってる。

 でも……


 脳裏に、レヴァンにまとわりつく女の子たちの姿が浮かび上がってくる。

 ……負けたく、ない。


 よくよく読めば、その薬の効果も一週間程で消えるらしい。

 だったら、ほんの少しの間だけでも……レヴァンを独占してみたい。

 材料は、今この庵に保管してある分で十分に足りる。

 ……いける。


「……ごめんね、レヴァン」


 一週間だけ、僕のレヴァンになってね。



 ◇◇◇



「ただいまー、って甘っ! なんだこれ!!」


 夕方になって、レヴァンは帰ってきた。

 そして、色々苦労はしたけど僕のチョコも確かに完成したんだ。


「その、チョコ……作ってたんだ」

「あぁ、そういえば今日はチョコの日だとかなんとか、クロエが騒いでたな」


 チョコの日……とはちょっと違うんだけどな。

 うーん、でもレヴァンに正確な意味を話すのも恥ずかしいし……まぁいいや。このまま渡してしまおう。


「あの、これ……」


 もっとなんか言いたかったのに、うまく言葉が出てこない。

 何とか形になったチョコを、ラッピングする暇もなかったので皿に乗せてレヴァンに差し出す。

 すると、レヴァンは驚いたように僕のチョコを凝視していた。


「え、俺に……?」

「……他に誰がいるの」

「いや、バシルとかエリアとか……町の子供に渡すもんだと」


 その言葉を聞いて、僕は猛烈に恥ずかしくなった。

 なんか、僕だけ突っ走って空回りして……情けないな。

 レヴァンの顔を見られなくて、視線を下に向け俯く。

 すると、頭に感じる、優しい感触。


「……そっか、ありがとな」


 そっと顔を上げると、レヴァンは優しい瞳で僕の方を見ていた。

 その途端、心の中のドロドロしたものが一瞬で消えていく。

 昔からそうだった。村の子供にいじめられても、レヴァンにちょっと優しくされただけで僕はすぐに嬉しくなって、幸せな気持ちになれたんだ。

 ……やっぱり、好きだなぁ。


「今食べてもいいか?」

「う、うん……!」


 お茶を淹れつつちらりと横目でレヴァンの方を確認すると、彼はまじまじと僕の作ったチョコを指で摘まんで眺めていた。

 そして……ぱくりと口に入れた。


 …………食べた!


「甘……! チョコなんて食べるの久しぶりだな」

「こういう甘いのは……嫌い?」

「いや、結構好きだ。ありがとな、セリス」


 結局レヴァンは今日僕がチョコを渡した意味を完全には理解してなさそうだけど……喜んでくれたなら、よかったかな。

 それに……確かに、レヴァンはチョコを食べた。

 これで、薬の効果もばっちり効いてくるはずだ……!


「ん? どした?」

「えっ、いや、なんでもない……」


 何か変化は……とレヴァンの方を観察していたけど、レヴァンは特段いつもと変わりはなかった。

 ……遅行性なのかな?

 なんて考えてると、振り返ったレヴァンが訝しげに声をかけてくる。

 慌てて取り繕うと、レヴァンは席を立ち僕の方へと近づいてきた。


「なぁ、今日のお前……」


 壁際に追いつめられるようにして、レヴァンは僕の方に迫ってくる。

 あれ、効いてる?

 もしかして効果抜群!?


 レヴァンの顔が近づいてくる。

 あっ、まだ心の準備が!……なんて歓喜しつつ目をつぶった瞬間――


「あのー……」

「うひゃあああぁぁぁ!!」


 遠慮がちな声に、僕は思わずレヴァンを突き飛ばしてしまった。

 その背後から、どこか気まずそうな様子のエセリナが顔をのぞかせる。


「ちょっとこのまま二人の夜が始まると私が気まずいので、ここらへんでお暇させていただきますね」

「なななな何言って……!」


 ていうかエセリナいたんだ!

 すっかり忘れてたよ!!


「あぁ、送ってくよ」

「いえ、結構です。あなたはセリスさんについててあげてください」


 復活したレヴァンの申し出を、エセリナは丁重に断っていた。


「それではレヴァンさんセリスさん、思い出に残るようないい夜を!」

「……? おぅ、お前もな」


 ウヒヒ、と神官らしからぬ笑い声をあげながら帰路に着くエセリナを見送って、僕は大きくため息をついた。

 まったく、あの子神官の癖に俗っぽすぎるんだよ……!


「……セリス」


 だが、すぐにまたレヴァンが僕の傍へとやってくる。

 あぁ、それでもまだ心の準備が!……と大歓喜する僕の方へ、レヴァンがどこか性急に顔を近づけてくる。


 そして、そっと触れ合った。



 ――レヴァンの額と、僕の額が。



「やっぱり……お前熱あるぞ!? おとなしく寝てろ!!」

「えっ? いや大丈――」

「まったく無理しやがって……ほら行くぞ!」

「わああぁ!!」


 レヴァンは僕を荷物のように抱えると、そのまま僕の部屋へと運んでくれた。

 ベッドに横になった途端に、今までの疲れが押し寄せるように急にぐったりしてしまうから不思議だ。


「ほら……俺がついててやるから、今度こそゆっくり休めよ」


 優しく頭を撫でてくれるその感触に、瞼が勝手に閉じていく。

 なんか思ってた展開とは違うけど……これはこれで、役得かな。



 そうして、僕は三日ほど熱を出して寝込む羽目になったのでした。

 でもその間はずっとレヴァンがついててくれたし、なんだかんだで僕のバレンタインは成功……だと思ってもいいんだろう。



 ◇◇◇



「三日も寝込むとは……いったいどんな激しいプレイを……」

「だから違うんだって! ただの疲労と風邪!!」


 熱が下がってギルドに復帰すると、すぐさまエセリナが声をかけてきた。

 なんかとんでもなく下世話な勘違いされてるけど……ほんとにこんな子が神官で大丈夫なんだろうか。


「それにしても……」


 僕の視線の先では、相変わらずレヴァンが女の子たちに囲まれている。

 ……薬の効果は、どうなったんだろう。


「ちなみにセリスさん」

「……なに」

「既に自分に好意を持っている相手に惚れ薬を使っても、態度は変わらないというのがお約束展開なんですよ」


 エセリナのその言葉に、僕は思わず固まってしまった。

 おそるおそる振り返ると、彼女はいつになくニヤニヤした表情でこちらを眺めているではないか。


「…………なんのこと?」

「残念ながらあなたは考えていることを口に出す癖があるようです。気を付けた方がいいかと」

「うそおおぉぉぉ!!」


 まさか、僕が『一週間だけ、僕のレヴァンになってね。』とか思ったのが口に出てたのか!?

 やばい、恥ずかしすぎる。

 このまま羞恥心で死ねそうだ。


「うひひ、ごちそうさまでした!」

「忘れろ、忘れろおおぉぉぉ!!」


 羞恥心で爆発する僕を見て、エセリナは相変わらずにやにやと笑っていた。




 ◇◇◇



「どしたの? レヴァン。ぼけっとしちゃって」


 サフィラにそう声を掛けられて、俺はやっと我に返った。

 そんな俺の視線の先では、セリスが楽しそうに逃げ回るエセリナを追いかけている。

 ……なんか、急に仲良くなったよな、あいつら。


「いや……あの二人……」


 セリスは、元々男だった。

 今は俺の恋人で、エルフは生涯一人の相手しか愛さない、らしい。

 だが……男だったときのセリスは普通にどの子がかわいいだのそういう話はしていたはずだ。

 ……つまり、何かのきっかけでエセリナを好きになっても、おかしくはないんだ。


 もしそうだとしたら、俺はどうするべきなんだろうか。

 セリスを縛りたくはない、だが、俺を捨ててエセリナの所に行かれるのは……さすがに堪える。


 さて、どうするべきか……とサフィラに意見を求めると、サフィラは曖昧な表情で笑っていた。



「一生やってろ、バカップル」



ハッピーバレンタイン(笑)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気に読ませていただきました!! セリスとレヴァン、お互いが大事だからこそ中々踏み込めない様子にヤキモキしながらもニヤニヤしておりましたが、だからこそ最後に全ての問題が解決して結ばれた時は…
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