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39 遺跡のスライム

 セリスとの二人暮らしは、それなりにうまくいっていた。

 朝起きて、一緒に朝食を取って、ギルドへ行って細かい依頼をこなしたり、突然やってくるバシルに稽古をつけてやったり、セリスの採取に付き合ったり……まあ今までとほとんど変わらないな。

 セリスもたまに訪ねてくる町の人たちに薬を作っているが、今のところうまくいっているみたいだ。

 俺の知らない間に、随分と薬作りも上達したんだな。

 ……俺も負けてられない。


 魔法と剣技を組み合わせる魔法剣。

 やっぱりイメージしているだけじゃうまくいかないので……ここは実戦だ!

 というわけで再びダンジョンに突入することにしたわけだ。



 ◇◇◇



「あっ、ヒュージスライムだ! レヴァンお願い!!」


 石の遺跡、第七層。

 なんとか順調にここまでやってくることができた。

 サフィラはいつものようにやる気満々で出てくる敵をなぎ倒していたが……そこで一つ問題が発生した。

 このあたりの層によく出てくる、この「ヒュージスライム」の存在だ。

 ヒュージスライムは、まぁでかいスライムだ。

 こいつが厄介なのが、普通の武器で斬っても潰してもほとんどダメージを与えられないことだ。

 最初の方はサフィラも躍起になってヒュージスライムを叩いていたが、怒ったスライムに纏わりつかれてべとべとになってからはスライムに近づくことを避けるようになっていた。

 こいつにも学習能力ってあるんだな……。


「うひゃあ! 来たぁ!!」


 通路の向こうからヒュージスライムがぼよんぼよんと跳ねてくる。

 その途端、セリスとサフィラはさっと俺の背後に退避した。

 少し前まではセリスも何とかスライムを倒そうと必死になっていたのだが、奴の酸まじりの粘液を喰らって服を溶かされかけてからは一目散に退避するようになった。

 なるほど、スライムは女子の天敵だな。


「レヴァン、早く!」

「こっちに来させないでよ!!」


 ここでヒュージスライムを取り逃したりしたら俺は大バッシングを受けること間違いなし。

 これは確実に仕留めないとな!


「……はあぁぁぁ!!」


 意識を集中させ、ヒュージスライムに斬りかかる。

 スライムのぶにゅっとした体に剣がめり込み、そして……


 剣先が触れたところから順に、ヒュージスライムの体がぴしぴしと凍り付いていく。

 完全に凍り付いたところで力を入れて剣を引き抜き、一丁上がりだ。


「わー、アイスみたい!」

「凍ると意外と小さくなるんだね」


 サフィラとセリスはわらわらと俺の背後から出てきて、凍り付いて小さくなったスライムをつついている。

 そう、スライムの弱点。それは……魔法攻撃だ。

 魔法を使った攻撃ならスライムにダメージが通る。

 最初は火魔法を帯びた剣――火炎剣で爆発させたりしてたけど、その拍子にスライムの体が四方八方に飛び散って、二人から盛大に文句を言われたのでその方法はやめた。

 色々試行錯誤して、今のところ一番被害が少ないのがこの倒し方だ。


「でも、すごいね。魔法剣なんて。なんか置いていかれちゃった感じ」


 セリスが少し寂しそうに笑う。

 さっきスライムの酸で溶かされかけた服から素肌がちらりと覗いていて、不覚にも興奮しそうになるのをなんとか抑えつける。


「お前だってマッピングに罠探知に大活躍だろ」

「そうかなぁ……」

「そうだよ! セリスがいなかったら今頃私もレヴァンも落とし穴に落ちてひどいことになってそうだし!」


 階層が深くなるにつれ、しかけられている罠の数が増えてきた。

 とてもじゃないが、俺とサフィラだけだったらすべての罠をかわし切ることはできなかっただろう。

 セリスがいるからこそ、俺たちはこうして敵との戦いに集中できるんだ。


「ほら、先に進もうぜ! 今から引き返すのも面倒だし、早く十層まで行って転移クリスタルで帰ろう」

「そうだね。早く水浴びしたいよ……」


 セリスが憂鬱な表情で自身の服を引っ張る。

 あちこちが解けた服からは素肌や下着がわずかに覗いていて……目の毒なんだな。

 慌ててその姿から視線を逸らすと、サフィラが気の毒そうな目で俺を見ていた。


「まぁ……頑張りなよ」

「おぅ……」


 セリスだけは、よくわかってなさそうに首をかしげていた。



 ◇◇◇



 そしてぼよんぼよんとやってくるスライムをしばき倒しつつ進み、たどり着いた十層で待ち受けていたのは……


「うわっ、またスライムだ!!」

「これジャイアントスライムか!?」


 巨大な円形の空間に、これはまた巨大なスライムがぷるぷると鎮座していた。

 ヒュージスライムよりも何倍もでかい。

 以前話に聞いたことがある。部屋を覆いつくすほど巨大な、「ジャイアントスライム」の存在だ。

 そこまで強いわけではなさそうだが、この大きさは厄介だな……!


「今まで通りに凍らせる! 二人は下がっててくれ!!」

「わかった!」


 スライムの特性からして、サフィラとセリスの攻撃はほとんど通じないだろう。

 こうなったら俺がやるしかない!


「はああぁぁぁぁぁ!!」


 巨大なスライムに斬りかかり、ぶにゅっとした体に剣をめり込ませる。

 そのままヒュージスライムと同じように凍らせるが……


「くそっ……!」


 スライムの体がでかすぎて、中々凍り付くのに時間がかかる。

 そうこうしてるうちに、スライムのまだ凍ってない部位が触手を伸ばし俺を排除しようと迫ってきた。


「ちっ!」


 慌てて剣を引き抜き後退する。

 こうなったら、少しずつ凍らせてくしかないか……!


 スライムに斬りかかり、少しずつ凍らせ、攻撃が来たら後退する。

 それを繰り返して、少しずつスライムの全体が凍り付いてきた。

 あと少し……そう思って、油断が生まれていたのかもしれない。


「凍れ!…………うわっ!」


 剣を突き刺し、ぴしぴしとスライムの体を凍り付かせていく。

 だがスライムは怒ったようにいきなり膨張し、俺の方にのしかかってきた。


「ぐっ!!」


 ぶにゅっとした巨体が俺を押しつぶそうと迫ってくる。

 やばい、このままじゃ圧死かスライムに溶かされて悲惨な感じになるんじゃないか!?

 慌てて抜け出そうとしたが、既に四方八方をスライムに塞がれていた。

 まさか、ここまでか……!?


 そう諦めかけた時、効きなれた声が聞こえた。


「レヴァンっ!」


 見れば、スライムの半透明な体越しにセリスが俺の方へと走り寄ってくるのが見えた。


「馬鹿! 来るな!!」

「馬鹿はレヴァンの方だろ! ほら!!」


 俺とセリスの間はスライムのぶにゅっとした体に阻まれている。

 セリスはなんと、そのスライムに腕を突っ込んで俺の方へと手を伸ばしてきた。


「うぐっ……!」

「馬鹿! お前何やってんだよ!!」

「いいから! 早く僕の手掴んで!!」


 スライムに手を突っ込んで、無事で済むはずがない。

 おそらくスライムはセリスの腕を溶かそうとしてるんだろう。

 セリスの端正な顔が、苦痛に歪んでいる。


「セリス!」


 とっさに、俺もスライムに腕を突っ込んでセリスの手を掴もうとしていた。

 そして、俺たちの手が触れ合った瞬間……


「なっ!?」

「えっ!?」


 いきなり俺たちの手が触れ合った箇所が光りだしたかと思うと、その光がジャイアントスライムを包んでいく。

 そして、発光するジャイアントスライムがだんだんと小さくなっていき……


「…………え?」


 最後に残ったのは、俺の手に乗りそうな小さなスライムだった。

 スライムは慌てたようにそのあたりをぼよんぼよんと跳ねまわり、やがて遺跡の奥へと消えていった。

 残されたのは、俺たち三人だけだ。


「勝った……で、いいのか?…………そうだセリス!」


 慌てて掴んだままだったセリスの手を引き寄せる。

 スライムに突っ込んで酷いことになっているだろうと思ったセリスの腕は……白く綺麗なままだった。


「は? なんで……」

「ほんとだ。さっきまで痛かったのに……」


 セリスも不思議そうに自身の腕を眺めている。

 なんともないならそれでいいんだが……何でこうなったんだ?


「まぁいいじゃん! 結果良ければよしってことで!!」


 スキップでもしそうな勢いで嬉しそうなサフィラが近づいてくる。

 俺とセリスも、顔を見合わせて小さく笑った。

 何が起こるのかわからないのがダンジョンだ。

 まぁ……男が女に変わるのに比べたら大したことないかもな。


 進んだ先にあった宝箱の中には、白く美しい剣が納められていた。


「私よりレヴァンの方が扱うのうまそう」

「いいのか? 売って金にしてもいいけど」

「そんなのもったいないよ!」


 二人に説得され、この剣は俺が貰い受けることになった。

 握ると自然と手に馴染み、どこか神聖な気すら感じる不思議な剣だ。

 ……これは、得したな。


 こうして無事に、石の遺跡、第十層攻略が完了した。

 これ以上進む気力は残っていなかったので、俺たちは転移クリスタルに触れてダンジョンの入り口まで戻った。

 三人ともスライムまみれの酷い格好だし、まずは帰って水浴びだな!


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