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32 いざ、決闘

 そして翌日、広場に向かうと既に昨日の花束男が待ち構えていた。

 それだけじゃない。何故か、町の人たちが見物に訪れていたのだ。


「……なんだこれ」

「レヴァン、負けんなよ!!」

「が、がんばってください……!」


 雑貨屋の息子で不本意ながら俺の弟子になったバシルと、彼の小さな妹が俺の方に駆け寄ってくる。

 そして、二人は目を輝かせて激励してきた。

 あぁ、もう町中に知れ渡ってる感じなのか……。

 まぁ小さな田舎じゃよくあることだな。


「セリスを巡っての決闘なんでしょ? 私のために争わないで~って感じ?」


 にやにやしながら食料品店のクロエが近づいてくる。

 俺と一緒に来ていたセリスは死んだ魚のような目で適当に返事を返していた。


「大丈夫だよレヴァン。万が一レヴァンが負けても私がボコボコにしてやるから。あっ、でもそうしたらセリスは私のものになるのかな?」

「セリスはセリス、誰のものにもならねぇよ。ていうか負けねーし」


 クロエと一緒にいたサフィラは何故かやる気満々で武装している。

 他にも、ちらほら見覚えのある町の住人がわくわくした様子で集まってきているようだ。

 まったく、こいつらは決闘を祭りかなんかと勘違いしてるんじゃないだろうな……。


 嘆息しつつあたりを見回していると、昨日見た花束男のパーティーのリーダーらしき男が慌てた様子でこちらに駆けてきた。


「その、本当に済まない。今からでも決闘の中止を……」

「いや、いい。ただ……俺が勝ったらあいつをセリスに近づけないよう徹底してくれ」


 こいつもしっかりしてそうだけど、あの花束男の暴走を制止しきれなかったのは確かだ。

 今度こそちゃんとしてもらいたい。


「それはもちろんだ。ここまで迷惑をかけた以上、俺たちもすぐにこの町を出ていくよ」

「……そうだといいんだけどな」


 あの花束男の態度を見る限り、こいつらが町を出て行っても、あの花束男だけはまたセリスを目当てに引き返してきそうな勢いだった。

 だからこそ、この決闘でボコボコにして、あいつのプライドをへし折って思い知らせてやらなければならない。

 花束男は広場の中央で待ち構えている。

 行くか、と足を踏み出すと、急に背後から腕を引かれた。

 振り返ると、セリスがどこか心配そうな表情で俺の腕を掴んでいるではないか。


「……無理しないでよ」

「心配すんなって、負けねぇから」


 ぐしゃぐしゃと小さな頭を撫でると、セリスは何故か泣きそうな顔をしていた。

 ……その表情から、目が離せなくなる。


「ひゅーひゅー! 熱いねー!!」

「クロエうるせぇよ!!」


 クロエの囃し立てる声でやっと我に返る。

 やべっ、なんか恥ずかしい……。

 慌ててセリスに背を向け、花束男に対峙するように広場の中央に進み出ると、奴はむすっとした表情で俺を睨みつけてきた。


「待ってろよ。すぐにお前を叩きのめして彼女の目を覚まさせてやる」

「目を覚ますのはお前だろ」


 あーあ、勘違いストーカーはやだね!

 俺は間違ってもこんな風にはなりたくないな。


 この国では何か物事に白黒はっきりつけたい時には、よく決闘が用いられる。

 ルールは簡単。相手を降参させるか……もしくは殺せば勝ちだ。

 まぁ、昔はどうだったのかは知らないが、相手を殺すまでいくことは今となってはほとんどない。

 俺ももちろん奴を殺す気はない。

 あの花束男はしつこそうだが、そいつをボコボコにして降参させ、もう二度とセリスに近づかないと誓わせなくてはならない。


「じゃあ、始めるか……」


 俺も花束男も剣を抜く。

 そして、審判を買って出たサフィラの合図と同時に俺たちは動いた。


「おらあぁぁぁ!!」


 花束男が打ち込んでくる。

 俺も剣で受け止めたが……なかなかに威力がある。

 これは舐めてかかったらやばいな……!


「すぐに! 彼女を! 解放しろ!!」

「知るかよそんなん!!」


 花束男が次々に攻撃を繰り出し、金属と金属のぶつかり合う音が幾度も鳴り響く。

 その勢いに、俺の方は防戦一方だ。

 ……しかし思った以上に厄介そうだ。

 表情もイッちゃってる感あるし、セリスへの愛情、というか妄執が奴を凶暴化バーサーカー状態へと駆り立てているのかもしれない。


「だいたい! お前は彼女のなんなんだ!!」

「俺はあいつの親友だ! 何勘違いしてるかしらねぇけど、お前が拒絶されるのに俺はまったく関係ないからな!!」

「ふざけるなあぁぁ!!」

「ぐっ……!」


 やべっ、ちょっと掠った……。

 わき腹に熱い痛みが走る。そこに触れると、ぬるりと血の感触がした。

 でも、まだやれる、斬られたのが腕じゃなくてよかった。


「……降参しなければ殺す。降参すればここで勘弁してやるぞ」

「…………調子乗ってんじゃねぇよ」


 そう吐き捨てると、花束男は瞳に憎悪を滾らせた。

 ……これは油断すれば本当に殺られる。


「待って、もういいよ!!」


 場外からセリスの悲鳴が聞こえた。

 ちらりとそちらに視線をやると、セリスは泣きそうな顔でサフィラや周りの者に抑えられながらも、必死に身を乗り出して叫んでいる。


「レヴァン、やめて!」

「彼女の言うとおりだ。もうやめておけ」


 花束男は勝利を確信したようににやついている。

 ……確かに、こいつは思った以上に強い。しかも、俺を殺す気満々だ。

 安全を取るなら、ここで降参するべきかもしれない。


 …………いや、そんなことできるわけがない。

 俺が負けたらこいつは調子に乗ってますますセリスに執着するだろう。

 そんなの、考えただけで吐き気がする。


「……ふざけんなよ」


 俺はセリスを守ると決めた。

 もう二度と、マノスの時のような目には遭わせないとも。

 だから……こんなところで尻尾巻いて逃げ出せるわけがない。

 セリスを傷つけようとする奴は、敵だ。


 意識を集中させ、目の前の「敵」を見据える。

 その途端、花束男は怖気づいたように足を引いた。


「なんだ、お前……」


 不思議と斬られた箇所の痛みは感じなかった。

 体中に怒りが渦巻いているのに、どこか頭は冴えわたっている。

 目の前の敵を倒す。ただそれだけを考えればいい。

 意識すると同時に、勝手に体が動いていた。


「くっ…………なっ!?」


 俺の繰り出した斬撃を花束男は受け止めた。

 もっと、もっと強く……!

 そう念じた瞬間――


「うぐぁっ……!」


 鍔迫り合いになっていたその部分が……突如爆発した。

 爆発音と熱風を感じたかと思うと、花束男は衝撃で背後に吹っ飛んでいく。

 俺の方は……なんともない。


「えっ、なになに? あれ、気絶してる……ってことは!」


 サフィラが小走りで走り寄ってくる。

 そして、俺の手を掴んだかと思うと大きく頭上に引き上げた。


「勝者、レヴァン!!」


 その声を聴いて、やっと事態を悟った。

 あの花束男は背後に吹っ飛んで伸びているようだ。戦闘続行は……無理だな。

 ということは、俺は……勝ったのか。


「すっげー! やるなレヴァン!!」

「騎士さまかっこいー!!」


 周囲から歓声やどよめきが聞こえる。

 だが、俺の視線はただ一点に固定されていた。


「レヴァンっ!!」


 泣きそうな……というかもう泣いてるな。

 見慣れた幼馴染が、ものすごい勢いで俺の方へと突っ込んでくる。


「セリ――うごぉ!」

「このっ……馬鹿じゃないの!?」


 かっこよく受け止めようとしたが受け止めきれずに背後に倒れてしまう。

 セリスはそんな俺にしがみつくようにして、泣きながらバカバカと喚いていた。

 ……相変わらずの泣き虫だな、こいつは。

 無意識に手が伸び、俺の胸に顔をうずめるセリスの頭を撫でていた。


「そこだー! キスしろー!!」

「クロエ黙れよ!!」


 なんかすごい疲れたし、浅く斬られた箇所がまた痛み始めてきた。

 だが、このわんわん泣いている幼馴染を守ることができた。

 ……それだけで、なんか満足するんだよな。


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