33 とりあえずの一件落着
「……怪我、みせて」
「別にたいしたことは――」
「いいから!」
決闘が無事に(?)終わり、俺たちは庵に戻ってきていた。
クロエに散々冷やかされたので忘れていたが、そういえば俺怪我してたんだったな。
「ほら、脱いで!」
「せかすなよ」
ちょっと気恥ずかしくなりながらも服を脱ぐ。
……いやいや、相手は幼馴染のセリスだぞ!?
二人で素っ裸で水遊びしたことなんて数えきれないほどあるし、今更照れる必要はない!……っていってもやっぱり照れるんだよな。
できるだけ意識しないように、俺は服を脱ぎ捨てた。
あの花束男が掠った箇所が、ざくりと切れ、血に染まっている。
だが不思議とそんなに痛くない。
「結構血出てるけど、たぶん見た目ほど酷くはないはずだ」
「…………ばか」
セリスはまた泣きそうな顔をしていた。
困ったな、本当にそんなに酷くはないんだが。
「……傷、手当てするから」
「頼むぜ、魔女の弟子様」
そうやって茶化すと、セリスは泣きそうな顔で笑った。
……うん、やっぱり笑ってた方が俺も安心する。
俺のせいでセリスが泣くなんて、なんていうか嫌だしな。
セリスが水に濡らした布で丁寧に血を拭き取ってくれる。
あらかた血が拭き取られると、やっぱり傷はそんなに深くなさそうだ。
セリスも少しほっとしたような表情を浮かべ、見覚えのある軟膏を取り出した。
「ちょっと染みるかも」
「それ、前作ったやつか」
「うん、今のところレヴァン専用だね」
セリスのしなやか指が、傷口に軟膏を塗りこんでいく。
……確かに染みる。もしかしたら斬られた時より痛いかもしれない……!
セリスは真面目な顔でぬりぬりと軟膏を塗りたくりながら、ぽつりと口を開いた。
「……あのさ」
「なんだ?」
「あの……剣が爆発したみたいなの、なんだったの」
……忘れてた。
屈辱的なことに、一時俺はあの花束男に対して劣勢に陥っていた。
だが、絶対に負けられないと思った瞬間いきなり爆発が起こり、何故か花束男は吹っ飛んで俺は勝った。
……ほんとになんだったんだ?
あの時は戦闘時の高揚でそんなに気にならなかったけど、よくよく考えると意味が分からない。
「あんなの、知らなかった」
「そうだな。俺も知らなかった」
「はあ?」
「ほんとだって。今でもなんであんな風になったのかさっぱりわかんないんだよな」
セリスは疑わしそうな顔をしていたが、何度もそう説明するとやっと納得してくれたようだった。
だって俺にもわからないんだから仕方ないよな。
「……なんかおかしい所とかない? 大丈夫?」
「今のところ別になんともないんだよな。あれだ、俺の剣の隠された力が覚醒し――」
「それはないんじゃない。あの鍛冶屋そんなに腕よさそうじゃなかったし」
くっ、ちょっとはロマンに浸ってもいいだろ……!
でも、ほんとになんだったんだろう。
まぁ、気にしてもしょうがない。今はあのクソ野郎に勝ったこを祝うべきだな!
「セリス、今日の夕食は奮発してくれよ。勝利祝いで!」
「はいはい、何がいいの」
「肉!」
そう言うと、セリスは呆れたように笑った。
……やっぱり、めそめそ泣かれるよりは今の顔の方がいいな。
◇◇◇
決闘の翌日、またもや庵の戸が叩かれた。
あの花束男まだ懲りてないのか……と扉を開けると、立っていたのは奴のパーティーのリーダーだった。
「その……今回のことで本当に迷惑をかけて済まなかった」
「あいつは?」
「完全に負けを認めたようだ。君に吹っ飛ばされて意識が戻ったら、君たちが抱き合ってたのにショックを受けたみたいだ」
リーダーは半笑いでそう告げる。
抱き合っていた……か。泣いてるセリスを慰めようとしただけで別にそんなつもりはなかったが、奴にはそう見えてしまったのか。
まぁ、今は誤解させておいた方がいいだろう。
「俺たちはもうこの町を出る。あいつも納得した。本当に済まなかった」
「別にいいって。でも、他の奴にも同じようなことしないように気をつけろよ。セリスも引いてたし」
「あぁ、肝に銘じよう」
何度も何度も悪かったと謝りながら、花束男のパーティーのリーダーは帰っていった。
……これで一安心、って感じだといいんだけどな。
「…………どうだった?」
おそるおそる、といった様子でセリスが声をかけてくる。
セリスは玄関に立っているのが俺一人なのに気がついて、ほっとしたように息を吐いている。
「昨日ぼこぼこにしてやったのが効いてるってさ。あのリーダーがもう町を出てくって言ってたし、とりあえずは安心していいんじゃないか?」
「……よかった」
「あ、でもしばらくは念のため一人で出歩くなよ」
一応そう付け加えると、セリスは小さく頷いた。
「やたらとモテるのも考え物だな」
「なんていうか……疲れる。早く元に戻りたいよ」
「まぁ、そんな気にすんなよ。俺もついてるし」
何気なくそう言うと、セリスは目を丸くした。
そして、猛ダッシュで庵の奥へと逃げていくではないか。
「えっ、お前どうし――」
「別に! なんでもないから!!」
向こうから慌てた声が返ってくる。
なんだ? 急にトイレでも行きたくなったんだろうか。
……この反応は、たぶん無理に聞き出そうとすればまたエルフパンチを喰らうだろう。
今はそっとしといてやるか。
やることないし薪割りでもするか、と庵の外へ出る。
すると、向こうから声が聞こえてきた。
「レヴァーン、稽古つけてくれ!」
あれは……雑貨屋のバシルか。
まったく、今日は騒がしい日だな。
「見たぜ、昨日の! レヴァンってほんとに強かったんだな!」
「今までなんだと思ってたんだよ……」
「なぁ、あのボカーンって技教えてくれよ」
バシルはおもちゃのような木剣を持ってきていた。
……昔、俺もセリスと同じようなので遊んだっけか。
「いいぜ、俺は厳しいからな」
「頼むぜ、レヴァン!」
「まずは礼儀を叩きこむところからだな……」
……こんな日常も、悪くはないか。




