27 石の遺跡 第一層
扉の先は、長い回廊のようになっていた。回廊の左右には、いくつもの石の扉が並んでおり、別の部屋につながっているようだ。
「どうする? 一つ一つ確認していこうか」
「そうだな、先を急ぐわけでもないし」
セリスは一番近くにあった扉に近づくと、慎重に探っていた。
「特異な魔力反応もなし……よし!」
セリスが触れると、扉はゆっくりと開いていく。
その先には、剣と鎧を装備したスケルトンが待ち構えていた。
「さっそくお出ましか!」
俺たちの姿を見つけたスケルトンが剣を振り上げ突進してくる。
だが、スケルトンは低級モンスター。前の街にいるときに散々倒した相手だ。
扉から出た瞬間に体を破壊するように斬りつけると、あっさりとばらばらと崩れていく。
「へぇ、あんまりたいしたことないんだ」
「まだ最初の階層だからな。奥へ進めば進むほど出てくるモンスターも強くなる」
「なるほどねぇ……」
どうやら部屋にいたのはスケルトン一体だけのようだ。
セリスは他に潜む者がいないか慎重に入り口から部屋を確認し、中へと足を踏み入れる。
そこにあったのは……
「あっ、宝箱だ!」
サフィラが嬉しそうに叫んだのとは対照的に、セリスはどこか緊張したように宝箱を凝視している。
「……セリス、俺が開ける」
「ううん、これは僕の役目だから。僕にやらせて」
元々セリスが女になったのも宝箱のトラップの解除に失敗したからだ。
セリスにとっては嫌な事を思い出すだろうとそう申し出たのだが、セリスは首を横に振った。
「……わかった、気をつけろよ」
サフィラがどうしたのだろうかと俺たちに視線をやったが、俺は曖昧に笑うことしかできなかった。
……いつか、全部サフィラにも話すことができる日が来るんだろうか。
「……魔針計、振れなし」
セリスは心なし普段よりも慎重に、ロックピックを使って器用に宝箱を開けようとしている。
そして、かちりという音がした。
「……開けるよ」
ごくりと唾をのんだ俺たちの前で、セリスはゆっくりと宝箱の蓋を開けた。
中にあったのは……いくつかの宝石の欠片だ。
「おぉっ!! 宝石じゃん!!」
サフィラが興奮したように宝箱を覗き込んだ。
俺も宝石をいくつか手に取ってみる。
目利きでない俺に真の価値はわからないが、そんなに高価なものでもなさそうだ。それでも、売ればそれなりの金にはなるだろう。
「よかったぁ……」
セリスは無事に宝箱を開けたことに安堵したのか、ずるずるとその場に座り込んでいる。
なんだかその様子を見ていると、冒険者になったばかりのころを思い出して懐かしくなってくる。
「お疲れさん、ありがとな」
「へへ、ちょっと緊張しちゃった」
セリスは安心したように笑うと、持ってきた記録用の紙にダンジョン内の地図と宝の内容を書き込んでいた。
俺も真似してやってみたことがあるのだが、ぐちゃぐちゃになってしまってあまりうまくはいかなかった。
こういうところでも器用なのだ、俺の幼馴染は。
以前同じパーティーにいたマノスなんかは戦闘能力だけを重視して、こういうサポート役を馬鹿にするようなことばっかり言っていたが、ダンジョン攻略で最も重要なのはこうやって細かくパーティーを補助してくれる仲間だろう。
手に入れた宝石を袋に入れ、俺たちはダンジョン攻略を再開した。
長い回廊の左右に位置する扉を、一つ一つ開いて中を確認していく。
何もいない部屋もあれば、最初の部屋と同じようにモンスターが待ち構えている場所もあった。
だが、まだ第一層だけあってたいしたことないモンスターばかりだった。
サフィラも調子が出てきたのかガンガンモンスターを倒している。この様子だと問題なさそうだ。
「これは……ポーションかな」
インプが待ち構えていた部屋で見つけた宝箱を開いたセリスは、幾何学模様が刻まれた不思議な瓶を手に取ってみせた。
「なんかすごい効果とかあったりして!」
「そういえば、俺たちが助かったのもフィロメラさんがダンジョンで見つけたポーション使ったからだったな……」
俺も手に取ってみたが、軽く振ったりしただけではどんな効果があるのかはわからなかった。
これは持ち帰り慎重に扱うべきだろう。
「サフィラ、どんな効果があるかわからないし不用意に飲むなよ」
「もー、わかってるよ! レヴァンと一緒にしないでよね!」
「おい、なんだそれは」
俺だってよくわからないポーションを勝手に飲んだりはしない! まったく、サフィラは俺のことなんだと思ってるんだよ……。誠に遺憾である。
その後もモンスターを倒し、宝箱を開け……俺たちはついに回廊の終点にたどり着いた。
そこには、下の階に続くと思われる階段が伸びている。
「隠し扉もないみたいだし……おかしな空間もない。第一層攻略ってとこかな」
セリスは地図と睨めっこをしながら、うんうんと頷いている。
「どうする? 二層も行ってみる?」
「行く行く! まだ全然よゆーだし!!」
サフィラはかなり余裕がありそうだ。以前より少人数での攻略とはいえ、まだまだ浅い階層で俺も全然余裕がある。
セリスも第一層の地図を仕舞うと、新しい紙を用意し始めた。
「もちろんレヴァンは大丈夫だよね?」
「舐めんなよ、こんなん何でもないって!」
そう宣言すると、セリスは満足そうに笑った。
……そんなに楽しそうな顔を見るのは、久しぶりかもしれない。
「よし、じゃあ行こうか!」
「「おう!!」」
そうして、俺たちはゆっくりと薄暗い階段を下り始めた。




