26 いよいよダンジョンへ
「えっと……傷薬、解毒剤、保存食、ランタン、ロープ……」
「おい、昨日から何回目だよ」
「油断大敵! うっかりダンジョンに入ってから忘れ物なんてしゃれにならないよ!!」
昨日から何回も荷物の確認をしているセリスをからかうと、頬を膨らませて睨みつけてきた。
まったく、こいつは心配性だよな。
今日、いよいよ俺たちはこの町の近くにあるというダンジョンに足を踏み入れる。
最初はまだ様子見のつもりだが、セリスの奴は何日ダンジョンに泊まるんだってくらいの荷物を準備していた。
気合を入れるのはいいが、ちょっとそれはどうなんだ……。
「よし、大丈夫!」
セリスは大きく膨れたバックパックを背負って、にっこりと笑った。
「じゃあ行くか!」
「おう!!」
サフィラとは町の冒険者ギルドで待ち合わせだ。
久しぶりのダンジョン攻略、腕が鳴るな!
◇◇◇
「おっはよー! 今日はよろしくね!!」
ギルドの扉を開けると、サフィラがやかましく出迎えてくれた。
いつも以上に張り切っているようだ。サフィラからすれば念願のダンジョン攻略。まぁ気持ちはわからんでもない。
心配そうなリアナに見送られ、俺たちはギルドを後にする。
件のダンジョンはイスティアの町から何時間か歩いたところにある森の中に位置しているらしい。
上機嫌なサフィラを先頭に、俺たちは人とすれ違うこともほとんどない道をひたすら歩いていく。
「なるほどね、これだけ行くのに面倒なら誰も攻略しようとしないわけだ」
以前拠点にしていた迷宮都市はそれこそ街の中にダンジョンがあった。それが当たり前だと思っていたけど、どうやら大間違いだったようだ。
ダンジョンにたどり着くだけで一苦労、さすがは辺境の田舎だ。
「ほらほら、文句言わない!」
今にもスキップしそうなくらいサフィラはテンションが高い。
セリスは今からダンジョンに入った時のイメトレでもしてるのか、何やら高速でぶつぶつと呟いている。これは話しかけない方がいいな……。
小さくため息をついて、俺は足を動かした。
街道を抜け草原を抜け深い森に分け入り……唐突にそのダンジョンは姿を現した。
「おぉ……!」
「イスティアの人は『石の遺跡』って呼んでるんだ」
背の高い木々に覆われるようにして、明らかに人の手が入った石造りの遺跡のような建造物が見える。
高さはそうでもない。おそらくは地下に降りていくタイプのダンジョンだろう。
蔦に覆われた石段を上り、俺たちはダンジョンの入り口に立つ。
入り口の石の扉は、侵入者を拒むかのようにぴったりと閉じられていた。
「これってさ、入れるの?」
「そっか、サフィラはダンジョンに入るのも初めてか。扉に触ってみろよ」
そう促すと、サフィラはおそるおそるといった様子で扉に触れた。
その途端、重い音を立てて石の扉がゆっくりと奥へと開いていく。
「おおおぉぉぉぉ!!!」
「ダンジョンの入り口ってね、攻略しようとする人が触れると不思議とこうやって勝手に開くんだよ」
興奮したように目を輝かせるサフィラに、セリスは懐かしそうに目を細めていた。
……俺たちも、初めてダンジョンに入った時はこんな風に興奮したっけな。
「よし、行くか!」
「「おう!!」」
気合十分。俺たちはダンジョンの中へと足を踏み入れた。
入り口の先は広間のように大きな空間になっていた。
その中央には、巨大な透明なクリスタルが佇んでいる。
「サフィラ、そのクリスタルに触れてくれ」
「わ、わかった……」
サフィラがそっとクリスタルに触れる。すると、クリスタルが淡い輝きを放ち始めた。
「おぉ……!」
「これは転移クリスタル。ダンジョンの中にも同じようなクリスタルがいくつかあって、起動させればそのクリスタル同士を自由に移動できる」
「え、すごくない!?」
「だよな。でもダンジョンの外には持ち出せないらしいぜ」
セリスが未知の力で女に変わったように、ダンジョンの中では俺たちの理解を超えた現象が日々起こりうるのだ。
この転移クリスタルも、多くの魔導士が研究を重ねているが似たようなものはいまだ作り出せていないらしい。
そのダンジョンの英知を探るのも俺たち冒険者の仕事だ。もしかしたら、セリスを男に戻す方法も見つかるかもしれない……!
「サフィラ、先に言っとくが無理だけはするなよ。今日はあくまで様子見だ。ある程度進んだらすぐ引き返すからな」
「わかってるって、任せてよ!」
サフィラはわかったようなことを言いながら俺に向かって片目を瞑ってみせた。
少し心配だが、まぁ……そんなに酷いことにはならないだろう。
「僕が先頭を歩く。二人はついてきて」
「あぁ、わかった」
セリスが次の空間に進む扉の前に立つ。索敵や罠の探知など、ダンジョン内ではシーフの能力が必須だ。
セリスは以前失敗した分慎重になっているんだろう。
ここは、自信を取り戻させてやりたい。
セリスが次の空間に続く扉に触れると、石の扉は自然と奥へ誘うように開いた。
そうして、俺たちはダンジョンの奥へと進んでいく。




