金髪イケメンの呑んだくれ、肉屋の嫁は魔女だった!?(1)
手術や転居、同人誌即売会などで時間が空いてしましました。
しばらく更新頻度が下がっていますが、待っていただければ嬉しいです。
マルコのおっさんが、小声でささやく。
「……なあヴォルフ、さっき魔女の話、したよな?」
「せやな?」
「魔女が空飛んでるところは見たことがない、だが嫁が魔女だった男なら、知ってるぜ」
「ほんまか?」
「ああ、 ……今あの予約席に座った、あの男がそうだ」
青白い顔の、痩せ型の男。
この世の終わりを迎えたような表情。
表情の世紀末っぷりを差し引けば、十分男前で、彫りの深い顔立ちも美しい。
ふわふわで淡い色の金髪も魅力的に見える。
……結構モテるのではないだろうか。
イケメンは、はじめに俺が座ろうとしてマルコのおっさんたちに止められた席に座る。
そしてイケメンが席に座るやいなや、カイゼル髭の店員はワインとつまみを持っていった。
黒猫のラベルの白ワインと、ブルーチーズと塩味のクラッカー。
まだ何も注文していない…… というか一言もしゃべってもいないのに、だ。
なるほど。
飲み屋の席の幾つかは、常連客のために常に確保されている。
この時代、この世界の ……広い世界のすべての飲み屋のことはわからないが、少なくともこの地域の飲み屋はそういう仕組みなのだとやっと理解した。
さて。
あの男の嫁は、『魔女だった』という。
話かけるべきだろうか、話しかけて情報収集したいのはやまやまだ。
ミレイユを救うためにこれほど役に立つ情報源はあるまい。
しかし、
『なんや自分? 嫁が魔女やったんやて? ほんま〜?』
などと気軽に声をかけてよいわけがない。
『嫁が魔女だった』とは、『嫁は魔女として処刑された』ということに他ならない。
俺は金髪のイケメンには聞こえないように、まずはおっさん三人組から注意深く情報を収集することにした。
「なあおっちゃん、あの男の嫁が魔女やったってほんま? ほな、あいつ自身はなんなん?」
「ん? ああ、ダニエルか? 肉屋の三男坊、郵便の担当さ」
「ほぉ〜、あのイケメンはダニエルいうん? で、肉屋が郵便? なんのこっちゃ?」
「ヴォルフの国じゃあ違うのか? ここらじゃあ肉屋が郵便も請け負っているのさ」
「肉屋は肉売るんが商売ちゃうんか? 郵便は逓信省やろ?」
「てーしん? 異国のことはよくわからんが、牛でも豚でも羊でも、肉は燻製か塩漬けにしないと長持ちしねえだろう? 肉は鮮度が命なんだ、そこまではわかるか?」
「ん? ああ……せやな」
肉は冷凍、あるいは冷蔵することが常識だった現代日本の出身の俺は、燻製にも塩漬けにもしない肉が常温でどれほど品質を保てるものなのか、正直よくわからない。
よくはわからないが、根本的に肉類は日持ちしないこと、持ってもせいぜい三日とかその程度だろうなということは理解できた。
「つまりなヴォルフ? いつどこの牛と豚を、なん頭屠殺するかは、肉屋にとっての一大事なんだ、だからそこらじゅうの酪農家と頻繁にやりとりし、流通量を把握しているのさ。 いついつ、どの牛と豚を何頭買うかを決めるためにあちこちの農家に出入りするから、そのついでに郵便物の配達は肉屋がやることになっているのさ」
「ほー? そういうもんなんや?」
「ダニエルはこの街一番の肉屋の三男で、この近所との酪農家とのやりとりをしていたのさ」
「ほぉぉ〜? なるほどなあ、ようわかったで。 それと、魔女やったっていうその、ダニエルの嫁ってどんなやつやったんかな?」
「アメリーはなあ、若くて可愛い娘だったんだが……」
「ダニエルと同じような綺麗な金髪でな」
「そうそう、ダニエルも何度か、異端審問官のところに嘆願にいってたよな?」
「夫婦仲も悪くなさそうだったのに、ありゃあ、なんで魔女になんかなっちまったんだろうなあ……」
「いや、なんでもなにも……」
俺は『アメリーはそもそも魔女ちゃうんやろ、冤罪やろ』という言葉を、甘口の白ワインと一緒にぐっと飲み込んだ。
俺が黙ってからも、ダニエルの妻、魔女として処刑されたであろう妻のアメリーの話になると、一層話は盛り上がる。
男同士の酒の席であるから、好色な視点からの感想が多いのは致し方ないとして、概ね評判は悪くない。
アメリーは家事も家業も無難にこなしていたこと。
明るく社交的な性格で、近所の評判も悪くなかったこと。
アメリーとダニエルは子供の頃から知り合いだったこと。
休日はダニエルとアメリーが生活用品をいっしょに買いながら仲良くデートをしていたこと。
夫婦とも子供を三人欲しいと言っていたこと。
ダニエルはアメリーが魔女ではないはずだとなんども教会に嘆願したが、客観的な裏付けの取れるものが一切ないと言われ却下されたこと。
……重要なことが聞き取れた。
そして、いつのまにかダニエルは勘定を済まし、予約席から消えていた。
閉店時間が近づき、マルコたちおっさん三人組も退店した。
カウンターでひとりノンアルコールの葡萄ジュースをちびちびと舐めながら退屈に耐えていた自称俺の嫁の死神の少女に声をかける。
散歩に出かける前の子犬のようにやってきて、俺の左腕にまとわりつく。
ボリュームのない残念な薄い胸が腕に当たる。
ローゼの頭髪から、若い女児特有の甘い匂い。
今夜もこの匂いを嗅ぎながら作戦会議になりそうだ。
空いた右手で白ワインとつまみの入ったバスケットを抱えて二人で部屋へ戻る。
今夜は自分で開栓したいと主張したローゼに、ワインの瓶を渡す。
待ちきれないのか、うきうきとコルクを抜こうとする死神に、俺はある提案をした。
「なあローゼ、自分、死神やろ? 処刑された魔女の魂を呼び出したりとか、でけへん?」




