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死神美少女と童貞魔法遣いの俺  作者: ぢょほほん
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生殖行為が大好きな聖職者?! ヴォルフ、異端審問官に会う(4)

中世ヨーロッパの聖職者の堕落ぶりは本当にひどかったそうで、そうであるがゆえに宗教改革も激しかったのだそうです。

しかし、改革側が正しいとばかりも言えなくて、理不尽な魔女狩りはカソリックもプロテスタントもどちらも同様に行われたのだそうです。


私は(文中では明記していませんが、作品の中でモデルになった旧勢力と革新派であるところの)カソリック、プロテスタントのどちらの肩も持つつもりはありません。

ただ理不尽に殺された、罪のない人々の無念さに思いを馳せ、せめて創作の中でくらいは救いを与えたいと考えるだけです。


夜の(とばり)が下りる。


俺とローゼは今夜も宿屋の階下の飲み屋、『葡萄の房(Traube)』にやってきた。

入り口には灯火が掲げられている。

店の中からワイワイ声がする、今夜も客がすでに入っているようだ。


昨日座れなかった席は、今日も空いている。

俺が座るそぶりを見せると、



「だからそこは予約席だって言っただろう? こっちに来いよヴォルフ」



文房具屋のロビン、画材屋のヨーナス、金物屋のマルコ、昨日仲良くなった地元のおっさん三人組に呼ばれた。



「おいヴォルフ、どうしたその頰は?!…… ははぁ? さてはローゼちゃんに殴られたな?」


「ヴォルフ、浮気でも暴露(バレ)たのか?」



おっさんたちがどっと笑う。

俺を力一杯殴ったローゼは、一人でカウンターに座り、ぶどうジュースをちびちびと舐める。

あれから口をきいてもらえていない。


異端審問官が女を教会の中に連れ込んでイタしていたことは俺のせいではない。

とはいえそれをローゼに見せつけてしまったのは、俺のせいなのである。

殴られても仕方がない。



既存の聖職者たちが堕落しているということは聞いていたが、予想以上だ。

異端審問官とあの教会だけがおかしいのか、はたまた教会はどこもあんな感じなのか。


世間話&エロ話が好きそうなおっさんたちからも情報収集することにした。


とはいえ、どこまで言っていいのかは一考する…… 全部をあけすけに語ってしまうと、異端審問官に刺客を送られたりするかもしれない。


弱みを握っておき、いざという時は『あのことをばらすぞ』と脅せるほうがいい。




「まいどー! おっちゃーん! また会えたな、とりあえず乾杯(Prosit)!!」


「「「乾杯(Prosit)!!」」」



おっさんたちとワインで乾杯。

グラスを重ねて乾杯し、そして乾杯の字面通りに、杯を空けて乾かした。



「おー、今夜もいい飲みっぷりじゃあねえかヴォルフ!」


「やろ? 飲むで飲むで、おっちゃんたちっ!」


「で? なんでローゼちゃんに殴られたんだ? それとも他の女に殴られたのか?」


「なんで女限定やねん、普通に男とケンカしたかもしれへんやろ?」


「それならもっとひどい(あざ)になるだろう? あとは歯が折れたりな」


「かーっ! おっちゃんたちには(かな)わんなあ! 全部ばればれやんけ、ほんまっ!」


「わははは! 言えよヴォルフ! 何やったんだよ、お前!」


「ん〜、実はなあ、二人で教会に行ってん」


「ほう?」


「結婚式の下見か?」


「ちゃうがな! で、懺悔(ざんげ)室で尼さんが男のナニを咥えとったん、見てもうたんや、ばっちり」



おっさん三人大爆笑。


俺はここで、尼僧が『誰の』ナニを咥えていたのかを伏せた。

異端審問官の名前は出さず、教会そのものが一般人にどう思われているのかを調べるためだ。

もっとも、最初の反応でだいたい理解したが。



「ちゅうか、あれ、ほんまもんの尼さんやったんかなあ? 俺が見たん、商売女が尼僧の格好をしてやっとっただけやったんちゃうかな〜?」


「ヴォルフ、そりゃおまえ、本物かどうかなんて関係ないだろう?」


「どういうことやそれ?」


「女子修道院が売春宿なのは常識じゃあないか?」


「マジで言うてる?! どこの世界の常識? 尼さんの住んどる女子修道院って、男子禁制ちゃうん?? 尼さんが男と寝るとかありえへんやろ?!」


「男子禁制だからこそ、売春宿にうってつけだろう?」


「ほんまかいな……堕落しすぎやろ聖職者、尼さんが簡単に股開いてええんか?」


「いや、簡単には開かないぞ? 尼僧は高い(・ ・)ぜ? なにしろブランドだからな、わははは」


「そうそう、そう簡単には抱けないのさ」


「だから価値が出るし、高い金払ってもいいって気持ちになるんだよなあ」


「ふーん? そういうもんか…… おっちゃんも?」


「い、いや! 俺はかかあがいるからよ! 買わねえよ女なんか! なあ!」


「だいたい、お前はどうなんだヴォルフ?」


「俺はええよ、あんな厚化粧……」


「わかったぞヴォルフ、お前、尼僧にムラムラして、ローゼちゃんに尼服着せようとしたんだろう? それで殴られたんだろう? どうだ? ええぇ?」



尼僧の服を(まと)ったローゼを想像する。


死神が尼僧のコスプレなど、冗談にもほどがある。

そもそも全然、ぐっとこない。


ストイックな服装なら、豊かな胸の薬師のミレイユのほうが断然イイ、さぞかし見応えがあるだろう。

中高生の制服もそうだが、誰が来ても同じ、エロさを隠す服だからこそ、体のメリハリがあるほうが見て楽しいのだ。


とはいえマルコのおっさんの勘違いは都合がいい。



「……まっ、そんなとこやな」


「わーっはっはっは!! しょうもないなあ、お前!」


「よぉし、尼さんフェチのヴォルフの性癖に乾杯だ!」


「ややこしいことに乾杯すなっ!」




自営業三人組と飲みながら(適度にエロい話を交えつつ)情報収集した。


まず、旧来の教会運営に対しては批判的な改革勢力が勢いづいていることや、既存の教会側と改革勢力の両者は激しく対立していること。


この街は旧体制側で、教皇から派遣された異端審問官は異端…… そして魔女…… を逮捕しては塔に閉じ込めていること、ここまではローゼが石の手帳で調べたことと大差ない。


俺はずっと疑問に思っていたことを三人に聞いてみた。



「なあ、おっちゃんたち? 魔女なんてほんまにおると思う?」


「え? ヴォルフ何言ってるんだ? 魔女はいるだろう? だから異端審問官が捕まえているんじゃあないか」


「魔女が空飛んだりするん、見たことある?」


「いや? それはないが……」


「……ほな、魔女がなにかあかんことしとるっちゅう証拠は?」


「証拠も何も、捕まって処刑された魔女がいることが何よりの証拠じゃないか?」


「やったことを自白してるって話だぜ?」


「ああ、夜宴(サバト)で、なんだっけ? 悪魔のケツにキスしたとかなんとか、なあ?」


「そうそう、いったこともない夜宴(サバト)の話なんて、自白できるわけないじゃあないか」




背筋が凍り、一発で酔いが覚めた。


愚かなことに、おっさん達は魔女の存在を完全に信じている。

夜宴(サバト)に関する自白のほとんどが、厳しい監禁生活と激しい拷問の末に強要されたものだとは露ほども考えないのだ。


ミレイユのところで会った自警団も言っていた。

魔女は存在し、実際に市民は被害にあっていると。


このおっさん達も自警団も善良な市民である。

ただ知らないのだ、真実を、本当のことを。


自分たちだって無実の罪で投獄され、拷問で自白を強要され、魔女として処刑されるかもしれないということさえも。



どうすればいい?

おっさんたち、自警団、街じゅうの人々を一人ずつ、根気強く説得するべきか?


本来はそれが望ましいのかもしれない。

しかし俺のやるべきことは違う。


連中の意識改革ではなく、無実の女性ミレイユを救うことだ。


魔女が実在するということは『この時代の認識』とでもいうべき考え方。

俺一人…… ローゼも入れても二人だけで、ただちに時代の認識を変えることはできない。


時代の認識は、時代が変わらなければ変わらないのだ。



ほとんどの江戸時代の庶民は、明治以降の四民平等の世界など夢想だにしなかっただろう。

しかし現代の日本人だって江戸時代の庶民を笑えない。

例えば? 圧倒的大多数が『議会制民主主義が世界最高の政治制度』と妄信しているだろう。


だが、本来そんなものは『ただの政治の一形態』に過ぎない。


明治維新が思想的には王政復古…… 天皇が政治を仕切っていた大昔に戻るというものであったように、将来の日本が民主主義をやめて再びサムライの世の中に戻ることだって、十分ありうる。


もちろんそれは、旧来の封建主義でも、議会制民主主義でもない、全く新しい政治制度なのだろうと思われるけれども。


ずっと将来の未来の日本人は、民主主義を妄信する蒙昧な昭和や平成の庶民を鼻で笑うだろう、昭和や平成の庶民が江戸時代の庶民を笑うのと同じように……


いやだから、歴史を振り返って過去の時代を笑ってはいけないのだ。

それこそ愚かなこと。


進んでいるとか遅れているとかではなく、違う時代の人間は、ものの考え方の大枠が丸ごと違うのだと認識しなければ……




「……おいどうしたヴォルフ? もう酔っぱらっちまったのか?」



マルコの声で、我に返った。


俺はもう、死んだ。

死んでこの世界に転生したのだから、現代の日本の政治制度が将来どうなるかは見届ける権利がない、その必要もない。


今この世界のことを真剣に取り組むべきだ。



俺は覚悟を決めた。

間違っているかもしれないが、時代の認識に沿って、ミレイユを救う。

魔女の存在は否定せず、連中の土俵の上で俺の闘争を繰り広げる。


そうだ、別に魔女の存在を否定することはないのだ。

魔女裁判の過程にある理不尽を突き崩し、結果ミレイユを救えれば良いのだ。


カエルのラベルの貼付された白ワインをグイっと飲みこんだ。




気合いを入れ直したところで、ずっと空いていた『予約席』のテーブルに色白の男が座った。

おっさん達は誰も(とが)めない。

なるほど、この男の席だったのか。


髭面の店員がオーダーも取らずに黙ってワインと煮込み料理を持ってきた。

なるほどこの男は常連なのだろう。

飲み屋は、常連がいつ来てもいいように、常連用の席は常に確保しておく、そういうシステムなのだと理解した。


マルコのおっさんが、小声でささやく。



「……なあヴォルフ、さっき魔女の話、したよな?」


「せやな?」


「魔女が空飛んでるところは見たことがない、だが嫁が魔女だった男なら、知ってるぜ」


「ほんまか?」


「ああ、 ……今あの予約席に座った、あの男がそうだ」



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