☆衝撃! 知らぬ間に妻帯者になっていた俺、しかも嫁は死神?!(3)
みてみんから、挿絵…… 今回はイメージ写真を挿入してみました。 絵師さんと交渉していて、イラストもアップできる日が近いかも? です。
ふわふわの子犬の腹毛のようなローゼの頭をなでる。
正直、もう俺自身はお腹いっぱい酒いっぱい、すぐにでも寝たい気分だ。
でもこいつとの約束分は、これからだ。
「ほな、俺が今夜飲むワイン、なにがええか選んでくれへんか、ローゼ」
俺はローゼの瞳をじっとみつめ、『お前が』飲みたいワインを選んでええんやで、と、心の中で語りかけてみた。
ローゼはすぐに察して、メニュー表の真ん中を指差した。
賢いというのか鋭いというのかはわからないが、どちらにしてもできた嫁である。
「これがヴォルフさんにぴったりだと思いますわ」
「『旬の手汲み微発泡ロゼワイン』? おー!! 俺、ロゼ、めっちゃ好っきやねん!」
「もうっ☆ 人前でわたしのことが大好きだなんて、恥ずかしいですわ」
「なわけあらへん、ワインの話やで?」
「あら、わたしのことは?」
「なんのこっちゃ? ……おっちゃん! 手汲みのロゼワインとアテのセットも勘定に足したってや」
「ちょっとヴォルフさん? わたしのことはどうなんですの!」
仲良くケンカしながら会計を済まし…… ローゼに支払わせ、ほんのり赤いロゼワインの詰まったボトルと綺麗なグラス二つを抱え、ローゼにはちょっとしたおつまみを盛った皿を持たせて立ちあがった。
だいぶ酔いが回ってきたが、部屋まで歩いて帰る分には問題ない。
飲み屋と宿屋がいっしょになっているのは実に都合がいい、合理的だ。
部屋に戻りソファーに座り、目の前の小さなテーブルにグラスとボトルを置く。
眠い、欠伸が止まららない
歯を磨いて着替えて寝てしまいたい。
そんな俺の気分を知ってか知らずか、ローゼは手際よく蝋燭に火を灯し、せかせかと俺の横にちょこんと座り、目を輝かせてそっとグラスを差し出した。
ローゼが座った分、ソファが少しだけ沈む。
ソファが沈んだ分だけ、俺とローゼの距離が縮む。
飲みたかったのを、ずっとがまんしていたのだ。
二人きりの時は飲ませてやると約束したのだから、付き合ってやらねばなるまい。
悪い気はしない。
しまった、店員にコルクを抜いてもらっておけばよかった。
栓を抜かずにワインを持ってきてしまった。
仕方がないので巾着袋からヴィクトリノックスのツールナイフを取り出し、コルクを抜く。
ソムリエナイフのように、テコの原理で抜くことはできない分、力とコツがいるが、慣れればどうということはない。
「お上手ですね」
「抜くのは得意やねん」
瓶の底に沈む澱が入らないよう、静かにボトルを傾ける。
淡い桜色がグラスに満ち、繊細な泡が湧いては弾ける。
「えらい待たせたな、ほな乾杯」
「えらい待ちました、では、乾杯っ☆」
二人で同時に桜色のワインを口に含む。
正直、酒の味はよくわからなくなりつつあったが、至福のローゼの表情が『これは美酒ですっ』と語っていた。
「ん〜〜〜☆ おいしいですっ♪♪」
「ほんまやね」
口の中で微炭酸が踊って弾け、鼻の奥に抜ける。
ややキリッとした、辛めで料理にも合うワインだ。
地味な田舎娘が、地元の祭りの日に急におめかしして現れ、あれ? こいつこんなに大人っぽかったっけ? と見直してしまうような、そんな印象。
きっと俺は田舎娘に恋をする。
…………俺は酔っている、誰だよ田舎娘って。
「しかし、自分が俺の嫁、なあ……」
「嫌ですか?」
「イヤやないけど、実感ないなあ」
「……実感したいんですか?」
「いらんことせんでええねん!!」
濃厚なチーズとクラッカーを、ワインで流し込む。
これはカマンベールか、とろりとして美味い。
真ん中に胡椒が入っていて、大人の味だ。
ローゼにこの味、わかるだろうか。
「ローゼ、自分はここからずっと東の地方領主の娘、おやじはろくでなしで山ほど愛人抱えて贅沢三昧、カネ目当てにいけすかん金持ちと結婚させられそうになって、家出したええとこのお嬢、っちゅう設定や」
「あ、マルコさんたちに、そういう風に説明したんですね?」
「せや」
「ヴォルフさんは?」
「お嬢と駆け落ちした魔法遣いや」
「素敵ですね」
「そうか?」
「ところで、どうして魔法遣いなんですか?」
「どうしてって、そら……」
俺の国では三十歳まで童貞を守ってしまった男は魔法遣いになるという言い伝えがあるからだ、とは言えない、言いたくもない。
グラスの中の田舎娘に小馬鹿にされた気分だった。
もう一口チーズをかじると、なんとブルーチーズだった。
チーズの内側に青いカビが見える、先ほどのカマンベールに入っていた胡椒と見た目は良く似ているが、味が違う。
芸が細かい、感心する。
俺は気になったオンナに告白するどころか、ろくに声をかけることもできない、フーゾクに行く勇気もないヘタレ。
ヘタレだから俺は童貞のまま三十歳を迎えてしまったのだ。
結果的にはそうなのだが……
「俺は魔法遣いになりたかったんや。 多分、ずっと前から」




