かわいい死神の名付け親?! 新たなる俺の名前は、ヴォルフ!(1)
俺につられてローゼも笑う。
その笑顔がとても可愛らしかったので、俺はこれからはこうやって生きていこうと心に決めた。
「ところで、その籠の中身はなんや?」
「あっ、夕ご飯です」
記念すべき異世界メシ第一号。
白い籐を編んでつくられた大きな籠の中身はどんなものだろう。
果たしてどんな食事が待っているのか。
……期待半分、不安半分。
見たこともないような美しくて美味い食い物だったらどうしよう。
見た目からして不味そうで、グロくてキモい食い物だったらどうしよう。
「こちらへどうぞ」
ローゼは木製のテーブルの上にフォークとナイフ、真っ白な皿とグラスを二つずつ置き、籠から白いパンと黒っぽいパンを一つずつ取り出し、各々半分に手で裂いて皿に置いた。
裂いたパンを乗せたあとは、ふかした芋とソーセージを数個ずつ皿の上に乗せた。
芋とソーセージは、俺の皿にはたくさん、ローゼの皿には少なく盛られた。
籠には濃緑色の瓶もあり、もしやワインかと思ったが、ただの水だった。
ちょっとがっかりである。
俺の居た時代の日本から考えると質素な食事に見えるが、これがこの世界の標準なのか、倹約したメニューなのか、実はすごく贅沢なメニューなのかはわからない。
仮に倹約メニューだとしてもローゼのおごりなので文句は言えない。
俺がこの世界に持ってきた日本円では何も購入できないだろう。
今はおとなしくおごられておくが、いずれ何かの形で恩返ししなければ。
「いただきます」
「いただきます ……あっ、最初にこうしてください」
ローゼは白いパンを持った右手を頭の後ろで回して、左側から食べ始めた。
「なんやそれ? なんかの呪いか?」
「新しい粉のパンを食べるときは、こうするんだそうです」
「ふーん?」
「黒パンは新しい粉ではないので、白パンだけでいいですよ」
「ふーーん?」
健康を祈る儀式かなにかではなかろうか。
仔細はわからないが、こういうものは従っておくに限る。
ローゼの真似をして、頭の後ろで白いパンを回してから、かじってみる。
白いパンはふわふわで柔らかい食感、黒っぽいパンは硬めで食べ応えがある。
香ばしい麦っぽさがしっかり感じられ、どちらも美味い。
ソーセージは噛むとじゅわっと肉汁がほどばしり、塩気が強いが文句なしに美味い。
黒っぽいパンに切れ目を入れ、ホットドッグにしたら合うかもしれない。
「なあローゼ、なんでパンを割ったん? 一個ずつ食べたらよかったんちゃう?」
「えっと、パンは成長と絆のシンボルなんですよ」
「?」
「『わたしの信頼した親しい友、わたしのパンを食べた親しい友』と、古い書物にも書いてありまして」
「……旧約聖書やないか、それ?」
「まあ、そうなんですけど」
「死神が聖書って、どないやねん?」
「とにかく同じパンを分けて食べるということが大事なんです…… ただのお食事ではないんです」
「そっか、儀式なんやな」
「あなたの居た国にも ……ええと、『同じ釜のメシを食う』という言葉があるでしょう?」
言葉を探すときだけ、石板をいじりながら答えるローゼ。
あまりお行儀がいいとは言えないが、最低限の検索ならばいいだろう。
「つまり、同じパンを俺とローゼで一緒に食べる必要があんねんな」
「そうです」
……ふと思う、では今、俺がくわえているこのソーセージは、一緒に食わなくていいのだろうか。
ポッキーを食べるように、両端からお互いに…… やめておこう、セクハラにしかならない。
また頭蓋骨を割られるのは勘弁である。
真面目な話、パンは神聖なものであり、芋とソーセージにはパンほどの意味はないので一本のソーセージを二人で分ける必要はないのだろう。
「あ、ちゃんとお塩かけてくださいね」
芋に塩を振りかけられた。
古今東西、塩には邪を祓う効果があると考えられている。
その意味はわからなくはない。
そういえば、うろ覚えだが魔女の食事は塩気がないという言い伝えがあったか。
蒸したての芋は、ほくほくして、素朴ながら美味い。
ただ塩を振るだけでこんなに美味くなるなんて、何かの魔法みたいだ。
瓶の中の水は、硬度が高いようで飲みにくい。
残念ながらこれだけはいただけない。
ミネラル豊富といえばそうかもしれないが、別にダイエットしたいわけではないし。
あっという間に完食。
記念すべき初異世界メシは、やや物足りない部分はありつつも素材の美味さが充分に実感できる良いメニューだった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでした」
「あれやな、ワインが飲みたいな」
「ダメです、まだお日様が出ている時間ですよ?」
「夜になったらええんか?」
「いいですよ」
「よっしゃー! いくでいくでぇー!!」
「その前に、大事なお話があります」
「なんや?」
「新しいお名前についてです」
「は?」
「この世界での、あなたのお名前です」




