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死神美少女と童貞魔法遣いの俺  作者: ぢょほほん
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こんにちは、異世界! 俺がママ…… 魔法遣いやで!(2)


全身が痛い。

ズキズキと体中が痛む。

またあの世か。



違う。

痛い(・ ・)ほどわかったこと。

痛いということは、生きているということ。



窓から差し込む茜色の西日がまぶしくて目が覚めた。

しばらく寝て ……寝ていたのではなく、気絶していたのかもしれない。




ぐるりと見回す。

木製のベッド、木製の家、真っ白なシーツ、 ……ローゼはいない。


やはり俺の家ではない。



もはや癖のようになりつつあるが、念のため手首の血管をそっと押さえる。

ある。

脈がある。


とくん、とくんと血管を血液が流れている。



ここは異世界で、転生に成功し、俺はまだ死んでいない。

良かった、本当に良かった。


生きている実感が湧いてくる、生きているだけで嬉しい。



首を左右に揺らすと、ごきりごきりと音がした。

まだ体の節々が痛いが、動けないほどではなさそうだ。

空腹だし、何か食べたい。


ローゼが帰ってくるのを待った方がいいのか、探しに行った方がいいのか。




窓辺から外を見る。


遠くまでよく見える、川沿いに木組みの家が何軒も見える。

建物の造りは、中欧のドイツ、あるいはその文化の影響が強い地域によく似ている。

『ご注文はうさぎですか?』のモデルになったといわれる、フランス東部コルマールもそうだ。


窓の下を見る、ここは建屋の二階のようだ。




窓からふわりと風が舞い込む。


風の()が違う。

空気が乾燥している、温暖湿潤な日本とはまったく異なる。


ここはどんな国で、どんな人間が住んでいるのだろう。

どんな文化を持っていて、どんなものを食べ、どんな酒を飲んでいるのだろう。


そして、無実の女性はどのように処刑され、 ……ないように、俺はどう防げばいいのか。

眼下に広がる街並みに想いを馳せる。



背後の扉が開き、窓からはまた別の風が部屋の中に舞い込む。



「あっ」



ピカピカに磨かれた低いヒールの黒い靴、ふわふわで膝上までの丈の短い黒いスカート。

真っ黒な上着は袖が長く、手の甲あたりまで。

頭の左右で結んだ髪が、しなやかな尻尾のようにふわりと揺れた。


(ラタン)のバスケットを両手に抱えた小さな死神だった。



「おかえりローゼ、買い物行ってたん?」


「あら、もう起きていたんですね、変態さん」




変態さん……

汚いものを見るようなジト目。


まだ怒っている様子だ。

命の恩人の股間を露骨に嗅いだり、ましてや本人にそのままいうことなどありえないということはわかってもらいたいところ。


謝り倒して許してもらう手もあるが、とりあえずこの場を収めればいいやと只管(ひたすら)頭を下げるのは格好悪いし、逆に延々と俺は悪くないと開き直るのは途轍(とてつ)もなく格好悪い。


いきなりイケメンにはなれなくても、せめて格好悪くならないように生きていきたい。

せっかく転生できたのだ、格好悪いのは嫌だ。


俺は神社で二礼二拍一礼するように、腰を折って深く頭を下げた。




「ローゼのおかげで転生できた、ほんまにありがとな」


「えっ?」


「それと看病してくれてありがとな」


「……いえ、それは別に」



俺が感謝して頭を下げるとは思っていなかったのだろうか、ローゼは戸惑っていた。


俺がローゼに一番言いたかったのは、言い訳より何より、感謝。

全てのことに感謝したいくらいの勢いだ。



「むちゃくちゃ感謝しとる」


「そ、そうですか?」


「命にかえても応えるで」


「ダメです!」


「何があかんの?」


「死んではいけませんわ!」


「そういうわけではないねん」


「いいですか? わたしのことを一番にしてくださいといいましたが、ご自身がどうでもいいというわけではありませんよ?」


「そら、まあ、そうやな」


「簡単にいなくなられたら、何のためにあなたを転生させたのかわからないじゃありませんか」


「そうやな」


「とにかく、感謝してくださっているのはわかりました」


「そうか」


「だから、命は大事にしてください、それがわたしのためでもあります、いいですね?」


「わかった」


「えっと、それと、あと、 ……これからは、ああいう(・ ・ ・ ・)ことはしないと約束してほしいです」


「あれな、俺はローゼがええ匂いやって言いたかっただけなんや」


「えっ、わたし?」


「せや」


「そう…… だったんですね」



少し赤くなるローゼ。

なんとか勘違いだったことも認めてもらったようだ。

よかった。



「…………痛かったですよね、すいません」


「許してもらえるんか?」


「もちろんです」


「すまん、ありがとな」



きちんと話せばわかってもらえる。

多少誤解があっても、こうやっていければ、この異世界でローゼとうまくやっていけるだろう。

気持ちが通じて嬉しかった。

お互いの目を見て、ちょっと笑った。



「むしろわたしのほうが謝らないといけないですね、勝手に勘違いして」


「それはええねん、俺は誤解されやすいタイプなんや」


「そんな言い方しなくても、」


「まあ、気にすんなって」


「……はい」


「ところであれ、気絶するくらい痛かったんやけど、ローゼはすごい力持ちなんやな、驚いたで」


「ち、違います! あの時は肉体と魂が落ち着いていなかったので、頭蓋骨もまだ(もろ)かったので」


「羽化するときのセミみたいやな……」


「それなのに…… ちょっと(・ ・ ・ ・)やり過ぎてしまいました、すいません」


「ええよ」


「あんな簡単に脳漿(のうしょう)出てしまうなんて……」


ちょっと(・ ・ ・ ・)か、それ?!」


「と、飛び出したのはちょこっとだけです!」


「ちょこっとでも頭蓋骨から脳みそ飛び出したらえらいこっちゃ! っていうか脳みそ出てた? なんで生きてんの俺?!」


「『死神の薬』を使って…… 治しました」


「頭蓋骨割れて脳みそ飛び出しても治るんか?! 凄すぎるで『死神の薬』!」



恐ろしくなって頭頂部を触ってみる。

脳が飛び出したのは、どのあたりだろうか、側頭部か、後頭部か。


一通り触った感じではおかしなところはなさそうだ。

もう大丈夫、なのだろうか。



「ご、 ……ごめんなさい」


「ええよええよ、めっちゃびっくりしたけどな……」



驚きすぎて、どんな顔をしたらいいのかわからない。

まあでも、とりあえず生きている、とんでもない怪我もしたようだが、今生きてるならそれでいい。



「ぷっ、はははは」


「何がおかしいんですか?」


「生きとると、いろんなことがあるもんやなって」



とりあえず生きれいればいい、生きていることに感謝して、細かいことは気にしない。

それでいいやと考えたら、肩の力が抜け、笑いが止まらなかった。


俺につられてローゼも笑う。


その笑顔がとても可愛らしかったので、俺はこれからはこうやって生きていこうと心に決めた。



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