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死神美少女と童貞魔法遣いの俺  作者: ぢょほほん
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100メガショック! えっ嘘やろ、俺は死んじまっただ!?(8)


「お、おいおいローゼ! だからもう、泣くなって! 頼むから!」



これ以上泣かせないと決めたばかりなのに、早速泣かせてしまった。


三十年間で一度も感じたことのないほどの罪悪感を背負いながら、恋心とも親心とも言えない気持ちを目の前の少女に抱いていることを、残り少ないこの世の最後の最期の時間をローゼと過ごせることそのものを(たの)しんでいることを、俺はやっと自覚した。



「あれ? そういえばわたし、なぜ起きたのかしら?」


「こいつやこの石! ガタガタうるさいねん! 静かにせんかい、この石め! 黙らしたるわコラ!」


「わわわ、壊さないでください! 大事な道具なんですっ!」



石板が俺たちにとってのスマホあるいは携帯電話のようなものなのだとしたら、壊されたら困るに決まっている。


しかし今の俺にとっては、ローゼとの時間に終りを告げる憎いあんちくしょう以外の何物でもなかった。


石の手帳を俺から奪い取ったローゼは、表面を撫でて、撫でて、撫でて、撫でた。

スワイプしているのかもしれない。

そして深いため息をついた。



「………………………………………はあ。」


「どないした?」


「次のお仕事がきました」


「死神の仕事っちゅうたら、あれか、次の死人を迎えに行くゆうこと?」


「まあ、はい、 ……そうです」


「ほんなら、俺とのおしゃべりもおしまいやな」


「えっ、そんなあっ?!」



さっさと次の仕事に行きたいのではないか、と気を使ったつもりだったが、どうもそうではないらしい。

ずいぶんと慌てたローゼは、言葉を選びながら訥々(とつとつ)と続ける。



「時間は調整できます、なので ……もっと(いわお)さんと、お話していたいです……」


「そ、そうなん……? まあ、そう言われたら悪い気はせえへんけどな」


「あっ、じゃあ! わたしにもなにかマンガをお勧めしてください!」


「マンガぁ?」


「あ〜? なんですか? ゆかりさんにはマンガお勧めしたのに、わたしにはお勧めしてくれないんですの? ひどいですっ!」


「なんで自分がゆかりに対抗意識燃やしてんねん?! なんなん、そのムチャ振り!」



どうしようもなくくだらなくて下品なヤツにしてやろうか。

洋書の『BEAVIS AND BUTT-HEAD』でも勧めるべきか、たしか輸入物が蔵書にあったはずだ。


メイドインジャパンでお下品路線なら、

武東(むとう)宗哉(そうや)(余談だが、トムソーヤに引っ掛けたペンネームらしい)、『スパイMTK』。

一般にはほとんど知られていないが、俺の大好きなお下劣マンガだ。


しかし一読したローゼに、

『登場人物のムケティンコさんって名前になにか意味があるのですか? カブリニコフさんにも?』

とか聞かれたら、普通に返答に困ること必至。


俺とローゼが過ごせる時間はもうほとんどない。

お下品系はやめ、短編で綺麗でわかりやすいモノにする。



「ほな、これなんかどうや。 武田日向『狐とアトリ』」


「わ、キツネのイラストがリアルでかわいいですっ! ふわふわの毛並みが本物みたい☆」


「獣医のマンガでデビューした作者やからな。 ストーリーも心温まる、ええ話やで」



ちびっこ巫女のアトリは、姉と二人で山奥の神社に暮らしている。

いたずらばかりする近所のキツネをアトリは怒るのだが、姉はキツネを許せと笑う。

それはどうしてかというと……

というお話。



ローゼも熱心に読みふけっている。

そういえば、ローゼって日本語読めるのか。


……ただ、読書するときはミニスカートで体育座りはやめたほうがいいな。

丸見えだから、かわいいバラ色の下着が。



そういえば、武田日向は『異国迷路のクロワーゼ』がテレビアニメ化までしたのに、雑誌の掲載は休載したままであった。

続きが読めるのをずっと楽しみにしていたのに、もう一度ユネちゃんの愛らしい姿を拝めずに死ぬなんて。



悲しい。

こうなったら最後の一杯を飲むべし。

グラスに手を伸ばす俺を見たローゼが、



「あれ? それって、わたしのグラスじゃないですか?」


「ん? せやで?」


「えええええええええっ?!」


「なんや? そないに驚くことか?」


「なっ、なんで! そんなことするんですかっっ?!」


「なんでって、」



君の涙を受け止めるためとか言わない、言えるか。

死んでも言わない、死んでるけど。



「ええやん? カラやったんやし」


「いいわけないです! だって、それって、か、かん、」


「かん?」


「間接キスじゃないですかっ!」


「あ〜……」



指摘されるまで全く気がつかなかった。

そうか、涙だけじゃなくて、ローゼの唾液も口にしていたのか俺は。

うんうん。



「ほな、このグラス返そか?」


「ひどいですっ! わたしのグラスをぺろぺろするだけじゃ物足りなくて、わたしにもぺろぺろしろっていうんですね!?」


「言ってへんわ!! ぺろぺろもしてへんし!」


「ひどいですセクハラですサイテーですっ!」


「なんでやねんっっ!」




散々どうでもいいことを言い合った後、『狐とアトリ』を読み終わったローゼは二冊目のマンガを所望してきた。



「えっと、次のおすすめのマンガを読みたいです」


「俺はええけど、自分、マンガなんか読んどってええんか?」


「……いいんです」



いやその顔、絶対にこのままじゃダメって顔なんですが。


そんなに俺と離れたくないのかい? フフフ、とか言ってみるというのも一興だが、俺が言うと只管(ひたすら)キモい。

冗談に受け取ってもらえなかったら立ち直れない。


男女交際経験ゼロの、さすがの俺も感じていた。

俺と一緒にいたいというのは口実だろう。



「次の仕事、行きたくないん?」


「えっ?」


「死人の霊を迎えにいかんでええ口実がほしいんちゃうか?」


「そんなんじゃ……」


「そんなに嫌な次の仕事って、なんや?」


「……えっと、」


「まーええやん? どーせ俺は死ぬ身や、喋ってもうても守秘義務が漏れることもないんちゃう? 話してみいひんか?」


「…………」


「誰かに話したら、気が楽になるかもしれへんよ?」



最後の一口を飲みきった。

俺の人生の最期の酒が尽きた。



「人生の最期に、自分の役にたたたせてくれや。 お礼がしたいねん」


次話は1月12日に公開予定です。

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