戦記 二十
さっきのは一万五千の軍勢にしては数が少なかった。ということはこれらは先頭で、本軍が後から来るであろう。それは籠城して足止めするのだ。
「やはりな」
金子城に駆け戻り、城下を見下ろせば。元長率いる本体が迫っている。
実情は違う。元長は抜け駆けをした者たちを追ったのだが、「もうこうなったら……」と腹を決めて総攻撃に出ることにした。
おそらくこのために自分は後世まで残る汚名を残してしまうだろうが、もうそんなことを言っているどころではなかった。
「天よ我を許さずともよい。閻魔の裁き、甘んじて受けよう!」
元長は天に向かって叫んだ。
その叫びに呼応するように元長の軍勢は金子城に怒涛の如く迫った。
領民たちも抵抗をこころみるも、泥をかぶる覚悟を決めた元長らは強く、まったくもって歯が立たず。今度は自分たちがあっけなく追い払われてゆく一方であった。
一万を超える軍勢に攻められては、金子城のような郡部の小城などひとたまりもなかった。
これでもかと火矢も撃ち込まれ、城には火の手があがった。
「どけどけどけ!」
槍を振るい邪魔する者を薙ぎ倒しながら元長は城へと駆けた。城は火の手があがっている、にもかかわらず元長はその無謀を止めようとする家来たちを突き飛ばしながら駆けた。
「撃ち方やめ!」
元長が城へ突っ込むことが軍勢に伝わり、火矢を放つのが止められた。
駆けた、遮二無二に駆けた。
城兵らが鬼の形相で立ち向かってくるのを薙ぎ倒し駆けて。ついには城内に入り、龍の舌のような炎ゆらめくのもかまわずにそのまま奥へとどんどんと突っ込んでゆけば。
「……!」
目に飛び込んできたものに絶句してしまった。そこには甲冑を脱ぎ捨て腹を切って果てたなきがらがあった。
それを抱きかかえて燃え盛る金子城から抜け出す。
己の手勢のもとに戻った時には戦いは終わって、抵抗する者はいなくなっていた。
切腹し果てたなきがらを元長がかついで戻ってどよめきがおこった。
「この者が金子元宅かどうか。顔を知る者を連れて来い!」
命じながら丁寧に下ろして横たえて。胸の上で手を合わせてやると、近くに落ちていた布きれを手に取って腹の傷の上にかぶせてやった。
周囲の者たちは言葉もなかった。
元長は無言でなきがらに手を合わせていた。
しばらくして、家来がひとりの僧を連れてきて。顔を見せれば、
「このお方は、弟の元春様でございます」
と、いたましそうにつぶやき、手を合わせて念仏を唱える。
「そうか……」
元長は力なくそう言うしかなかった。




