02話 後輩と姉と弟
「先輩。次の任務、司令は何と言っていましたか?」
茶髪の少年が俺に問う。
彼は俺の後輩のコードネーム『デルタ』である。もちろん彼も孤児院出身。
俺がこの世界で数少ない心を許せる友人である。
「デルタ、司令に聞けばいいでしょ?」
と茶髪の少女が言う。
彼女も俺の後輩であるコードネーム『ベータ』である。彼女はデルタの実の姉である。
彼女は拳銃を手入れしながらいう。
「まあ、そう言うな。俺から任務内容について報告するよ」
「今回も先輩がリーダーすか?」
「ああ、そうだよ」
「デルタ、上司には敬語と言ったはずだ」
「大丈夫だ。ベータ、お前も敬語じゃなくていいよ」
「いえ、私は敬語で」
「一応俺の年上なんだし」
彼女が16。俺が15だ。
まあムサシ機関に配属されたのが俺の方が早いと言うことだけだけど。
「じゃあ任務内容をいう」
俺らはムサシ機関の小アジトの一つで自分の武具、暗具の手入れをしながら次の任務内容について話している。
俺は司令から聞いた内容を二人に話す。
「シルフィ王女の護衛ですか.......」
とベータが呟く。
「シルフィ王女って俺らの中じゃ有名な退学王女!?」
デルタは目を見開き嫌な顔をする。
「その通り。王国はこれまでにも彼女に護衛をつけていた。いやつけようとしていたと言うのが正しいかな。ちなみに今まではムサシ機関の隊員ではなく金で雇った腕利だけはいい護衛だったらしい。だけど彼女の諜報員を見破る目はとても良く護衛だとバレた生徒は彼女が生徒会長である権限を使い皆1日以内に退学させられているそうだ」
と俺は他人事のように言う。
「それで俺らに白羽の矢が立ったってことっすね」
デルタがいう。俺はそれに頷く。
「わかりました。それでは別々の期間に別々に学園への編入手続きを済ませましょう。編入日が同じってだけで疑われそうですからね」
「そうだベータ。だから、」
「はい。私が今から編入手続きをしてきます」
「偽造身分証は?」
俺は確認のために聞く。だがその確認は要らなかったようだ。
「もうすでに完成しています」
「さすが姉ちゃん」
「デルタ、その呼び方はやめなさい」
「あ、はい」
彼女はそう言いアジトから出て行った。
「姉ちゃんってツンデレなんすかね?」
「さあ」
俺はいう。そして俺らもアジトを別々に出た。
ちなみにこのアジトはエスピオン王国の辺境の街、スオンにあるパン屋の倉庫に設置されている。
俺らはこれから王都に行き、任務を開始する。
俺は学生服を着て街を歩く。誰も俺を不思議に思わない。
諜報員しか感じられない不思議な感覚がここにある。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「そう言えば昨日姉ちゃんが学園への任務に成功したっす」
とデルタがいう。
「そうか」
俺はそう言いコーヒーと啜る。
あの任務発表から1週間がたった。
俺らは今カフェで新聞を読みながら任務の進捗を話し合っている。
「俺は明日から潜入します」
とデルタはいいカフェに店員さんが持ってきたサンドイッチを美味しそうに頬張る。
俺もそれをみてサンドイッチが食べたくなり注文する。
「それで今日で一回『小さな任務』は終了だよな」
「あ、多分そうですね」
デルタは口をモゴモゴさせながら答える。
「それで今日の任務は?」
「今日の任務は俺は参加できません」
「は?」
「だから明日潜入するんですって、学園に。その時に大怪我とかしてたら俺、退学王女に疑われちゃいますよ?」
「ああ、そうだったね」
と言いながら俺は今きたサンドイッチを頬張る。うん美味しい。
生きてるって感じられる。
「それで今日の任務は何なんですか?」
「さあ?俺もよく知らされてないんだよな」
「先輩が知らされてないって結構の重要機密と言うことですか?」
「さあ」
とここでも俺は曖昧な答えで詳しくは返答しない。それに正直司令部からは詳しいことを聞かされていない。
デルタもそれに気づいたのかこれ以上は質問をしてこなかった。
「じゃあ、先輩。俺、明日の準備があるのでもう行きます」
「うん」
と俺は簡潔に返事を返す。
「それじゃ」
彼はそう言い店内から出た。
代金は全部俺が払うことになった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「なあ、報酬はいくらなんだ?」
エスピオン王国のとある村の外れにある小屋の中でその会話は行われていた。
片方は屈強な肉体をした男でもう一人は華奢な体をしメガネをかけている策士風の男だった。
「もちろんそれは弾みますよ。王女暗殺と言う大手柄をたててくれましたらね」
メガネをかけている男が汚い笑顔で言う。
「なあ、本当に殺っちまっていいの?それと逃走ルートは確保してくれんだよな?」
「もちろんさ。成功したらな」
「フッ、わかった」
「怖気付かないんですね」
「俺を誰だと思っている。無法都市で殺戮という二つ名を戴冠した俺様によ?」
「そうでしたね」
メガネをかけた男はやれやれと言わんばかり首を振り屈強な男の話には頷く。
「では報酬でしたね」
彼はそろばんをカチカチとさせ男に言う。
「ざっと一億エンは硬いと思われます」
「ふ、ははははははははははは!」
と彼は笑い出す。その笑いに最初はメガネをかけた男も多少心地が良かった。
しかし少し経っても男の笑い声は止まらない。
「はははははははははははははははは」
そして沸点に達した。
「あの、うるさいですよ?」
彼は冷たい目で屈強な男をみる。しかし男の笑いは止まらない。
メガネの男がウンザリしかけたその時。屈強な男は倒れた。
最初彼には何が起きたのか分からなかった。彼は辺りを見渡す。
そして気づいたら彼の首には短い刀が。
そのひんやりとした感触が彼の不安を掻き立てる。
「お前、ルカータの人間か?」
その声は少しの幼さを感じる声だった。
「な、なぜそれを?あ、あなたは?」
「ムサシとでも言えばわかるかな?」
「む、ムサシ!?お前もしやムサシ機関なのか?」
「そうだと言ったら?」
「あ、ありえない。ムサシ機関なんて架空の組織のはずだ。それにお前、声からして子供だろ?」
「さすがルカータの一員。素晴らしい洞察力だ」
「お前らは俺らのことをどこまで知っている?」
彼は震える声で黒い影に尋ねる。
「さあ、どこまでだろうな?」
それは諜報員らしい曖昧な回答。しかしそれが全てを物語っていた。
「私の命を引き換えにお前を殺せるなら.......」
「何する気だ?」
「お前を巻き添えにできるなら.........」
メガネの男はブツブツと言う。
その瞬間黒い影は男の喉笛を掻き切る。血が流れ男は息たえる。
「自爆させるか」
黒い影が死体にそう呟く。彼は黒い影から同じように黒い服を身に纏っていた。
そしてそれを着こなしている。まるでそれが彼の正装のように。
彼は資料を漁る。
「やはりルカータの狙いはシルヒィ王女か」
彼は誰もいない空間でそう呟く。地面には死体が転がっている。
「これは報告だな」
そして少年はため息を吐く。
「それにしても任務の詳細ぐらいは教えてくれよ」
翌日屈強な男の死体とメガネをかけた男の死体が川を流されているのが見つかった。
死因は川の水による溺死として処理された。




