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公爵位を捨てた元三ツ星シェフ、辺境村で『ネット通販』無双〜昼はヒロインたちに絶品飯を振る舞い、夜は現代兵器で暗殺稼業〜  作者: 月神世一


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EP 8

(ジジジジッ……バチィィッ!!)

雷霆らいていの弦が極限まで引き絞られ、矢の先端に紅蓮の雷光が収束していく。

周囲の空気が焦げ、オゾンの匂いが森を包み込んだ。

「ひっ……! あ、あああああっ……!」

部隊長は完全に戦意を喪失し、腰を抜かして地面を這いずりながら後ずさった。

獣の直感が、あれは『防御』も『回避』も不可能な、純粋な『死そのもの』だと告げている。

「ま、待て! 俺たちはレオンハート王国の正規軍だぞ! 俺を殺せば、王国が黙って——」

「黙るのはお前らの方だ」

リアンの声が、絶対零度の吹雪のように森へ落ちた。

「あのウサギたちに恐怖を与えた罪……万死に値する」

リアンの指が、弦を弾いた。

——必殺、『雷霆雷竜らいていらいりゅうの一矢』。

(カッ……!!)

一瞬、世界から音が消えた。

直後、森の夜闇を完全に昼間へと変えるほどの、強烈な紅き閃光が弾け飛んだ。

放たれた矢は、咆哮を上げる巨大な『紅蓮の雷竜』へと姿を変え、部隊長を、そしてその後方に広がる廃城の一部ごと、文字通り『呑み込んだ』。

(ドォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッ!!!)

遅れてやってきた轟音が、大地を激しく揺らした。

プラズマ化するほどの超高温と衝撃波が吹き荒れ、木々がへし折れる。

数秒後。

強烈な光が収まったあとに残されていたのは、ガラス化して赤熱するクレーターと、地形が変わるほど抉り取られた地面だけだった。

狼耳の部隊長も、影丸に縫い留められていた後衛の獣人兵たちも。

灰一つ、細胞の一片すら残らず、この世界から『蒸発』して消え去った。

「……やりすぎたか。だが、胸糞の悪いゴミを掃除するにはちょうどいい火力だ」

リアンは『雷霆』の姿をポポロ亭の包丁へと戻し、馬丸の首を撫でた。

「ボス」

背後から、優太と鮫島たちが合流してくる。

優太の背中には、重傷を負っていた月兎族の子供がおぶさっていた。

「子供たちは全員保護しました。応急処置(TCCC)も完了しています。命に別状はありません」

「よくやった、優太。……喰丸」

リアンが呼ぶと、空間から巨大なワーム『喰丸』が現れた。

そして、廃城の内部で倒れていた獣人兵の残骸や、落ちていた武器、鎖などを、文字通り掃除機のように片っ端から丸呑みしていく。

「よし。これでレオンハート王国の過激派は、『森の奥で謎の爆発事故に巻き込まれて消滅した』ことになる。……帰ろう。俺たちの平和な村へ」

リアンの言葉に、怯えていた月兎族の子供たちの顔に、少しだけ安堵の光が差した。

     * * *

翌日の昼下がり。

ポポロ亭は『本日貸し切り』の札を出し、盛大なパーティーの準備が進められていた。

「はわわっ! ミミちゃん、本当に怪我治ってる! 魔法も使ってないのに!」

キャルルが、保護された月兎族の子供たちを抱きしめながら、驚きの声を上げている。

子供たちの傷には、優太が施した完璧な縫合と、現代の医療用テープが貼られており、すでに痛む様子もない。

「私が魔法を使ったら、またキャルルお姉ちゃんが倒れちゃうって、メガネのお兄ちゃん(優太)が……」

「優太さん……ありがとうございますぅぅ!」

キャルルが涙ぐみながら優太に頭を下げる。

パーカー姿の優太は、少し照れくさそうに頭を掻いた。

「俺はただの止血係ですよ。……それより、お待ちかねの『特効薬メシ』が来るみたいです」

(ジャァァァァァァッ!!)

厨房から、食欲を暴力的に刺激する凄まじい匂いが立ち昇った。

リアンがネット通販で取り寄せた大量の食材を駆使し、フル回転で鍋を振るっている。

「お待たせしたな。ポポロ亭特製、『夢の特大お子様ランチ』だ!」

リアンとリーザ、ルナが、次々とテーブルに大皿を運んでくる。

「「「わぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」

子供たちの瞳が、宝石のようにキラキラと輝いた。

ケチャップライスで形作られた山の頂上には、手作りの小さな旗が立っている。

その周りを囲むのは、肉汁たっぷりのミニハンバーグ、外はサクサク・中はプリプリのエビフライ、タコさんの形をした赤いウインナー。

さらに、ネット通販で買った『濃厚プリン』と『フルーツゼリー』まで添えられている。

「はむっ……! おいひぃ! お肉がふわふわだよぉ!」

「エビフライ、サクサク音がする! しっぽまで食べられる!」

恐怖と絶望に染まっていた子供たちの顔が、一口ごとに極上の笑顔へと変わっていく。

「ふふっ……よかった。本当によかった……」

その光景を見つめていたキャルルの目から、またポロポロと涙がこぼれ落ちた。

だが、昨日の絶望の涙とは違う。温かく、喜びに満ちた涙だ。

「おい、村長。泣いてるとプリンが溶けるぞ」

リアンが、キャルルの前にそっと、少し大きめのプリンを置いた。

「リアンさん……。私、一生リアンさんについていきます。ポポロ村の村長として、リアンさんの作るこのご飯を、ずっと守り続けます!」

キャルルが、真っ直ぐな瞳で宣言する。

「お前が守らなくても、俺が守るさ」

リアンは優しくキャルルの頭を撫でると、自分用のアイスコーヒーを手にした。

力武の裏工作。リベラの法律。優太の戦術医療。そしてLAPDの火力。

これだけ揃って、さらに俺の『雷霆』と『ネット通販』がある。

帝国が何万の軍勢を向けようが。

死蟲王がどんなバケモノを放とうが。

このポポロ亭の美味い飯と、彼女たちの笑顔が奪われることは、絶対にない。

「(……さて、明日はどんな新しいメニューにするか)」

子供たちの笑い声と、油の弾ける心地よい音に包まれながら。

世界最強の暗殺者にして天才シェフの、最高に美味しくてイカれたスローライフは、今日も続いていくのだった。

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