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「……シャル! 来てくれたんだね、ありがとう。元気だった? 変わりはないかい?」
そんな状態のきみに言われてもな……そう言ってやりたかったが、こらえた。
エーベルが夢にまで望んだシャルとの再会だ。水を差すなんてできやしない。
シャルは戸口に突っ立ったまま、ぴくりともしなかった。
おれは背中を押して中に入れると、後ろ手に扉をしめた。
「すまない、シャル……自分で決めたことなのに、いよいよ時間がないと思ったら、やっぱり会いたくなった。隠すつもりはなかったんだよ。早くに言ってしまったら、きみと離れてここへ移るという覚悟が鈍りそうで怖かった。ぼくの弱さだ。決して、きみに告げる価値がなかったというんじゃない」
フリードハイムで過ごすことが一番の治療だと言ったエーベル。
彼はシャルに出会ったことで新たな生の糧をフリードハイムに見いだしたんだ。
去年、新学期が始まってから一度だけ、エーベルをけしかけたことがある。
『いつまでも抱えてないで、言っちまえよ。シャルにさ』
『どっちを?』
エーベルは気づかれてないと踏んで意味ありげな問いを返したんだろうけど、『どっちもさ』と答えるおれの、からかうような瞳を見るなり呆気にとられて嘆息した。
『……きみに悟られるようじゃ、終わりだな』
『恋の夜は真昼も同じ、ってね』
『シェイクスピアだね』
そう言ってエーベルは花のように笑った。自信と慈愛に満ちた見事な一輪だった。あんな表情の彼を見たのは、あとにもさきにもあの一度きりだ。
そのエーベルは今や、蒼褪めた水のような虚ろな笑みしか浮かべられない。
「だって、シャル――きみは病のことを知ったら、それが不治のものであっても、ぼくを救おうとするだろう?」
これでエーベルは『どっちも』のうち、ひとつを打ち明けたことになる。
が、それきり口をつぐんでしまった。すぐさま彼の容態を危ぶんだおれだったが、エーベルの視線からシャルが何か言おうとしてるのだとわかった。
脇におろされた両手がかすかに震えていた。おれの位置から顔は見えなかったがきっとエーベルと比べても遜色のないほど生気を失くしている。
「病って……いつから」
それが今のシャルに発せられる精一杯の問いだったんだろう。
エーベルは少しもためらうことなく、きっぱりと告げた。
「きみと出会う、ずっと前から」
血の気が引くという状態を、おれはシャルの背後にいながら彼の全身にそれを見た。今までエーベルと共にしてきた無茶な行動の数々――でもそれは決して破天荒なものではなく、健康な少年であれば苦にはならない、ごく自然のふるまいであり戯れだった――を思い出し、病身におよぼした事の重大さを突きつけられているのに違いない。
シャルはもう限界だ、精神的にも体力的にも。だけど、どうすれば――。
そのとき、タイミングを計ったかのようにして部屋の扉が静かにあいた。




