長い夏期休暇が終わり、2週間が過ぎた。
長い夏期休暇が終わり、2週間が過ぎた。9月も半ばだというのに、残暑を引きずってるかのような物憂いが、ぬぐえない。
でも、そう感じてるのは僕だけだろう。7月まで同級だった連中はみな11学年に進級していて、クラスメイトは馴染みのない顔ばかりという僕だけだ。
そんな僕に対し同級生たちは、新学期初日から《関わらず》という暗黙の協定を結んだらしい。まぁ、元上級生にあたるわけだから、当然といえば当然の態度かもしれないけれど。
実は、このクラスにはもう一匹、毛色の違う羊が迷いこんでいた。
いや「迷いこんでいた」というよりは「たいそう丁重に贈りこまれていた」というのが正しい。
ヤン=インクヴァー・アルベルツという名のその少年は東洋人を思わせる艶やかな黒髪と、北欧人に通じるきめ細かな白肌をしていて、そのコントラストが、ともすれば目立たないはずの小柄で細身な少年を、クラスいち際立つ存在に変えていた。
目立つ理由は外見だけじゃない。彼は、飛び級制度で編入してきた特待生だったんだ。つまり、僕とは同級生でありながら4つも歳が離れてることになる。
さらには、特待生という肩書きをまるで感じさせない、謙虚さと柔軟さまで兼ねそなえていて、煙たがられるどころかクラスにすんなり溶けこんでしまっていたのだから、毛色違いというよりは血統違い、僕とは正反対の羊だったってわけ。
でも、それは――正反対であるということは僕にとっては――鬱屈を晴らすための恰好の的になるということでもあったんだ。
午後の授業は、もっぱらまどろみとの戦いになる。
どうあがいても子守唄にしか聞こえてこないラテン語が、昼休み直後の時間帯に組まれると知ったときは、天を仰いだ。
まいったな……もうエーベルにチューターを頼むことは、できないのに。
エーベルことエーベルハルト・クラウヴェルは、前学期までおなじ学年だった僕の友人だ。クラスは違ったけれど、あるアクシデントをきっかけに知り合い、僕のラテン語の個人指導官をしてくれていた。
でも、あれほど熱心に教えてもらったラテン語を、僕は最終試験で落としてしまったんだ。10学年に留年することが決まってからは、エーベルに合わせる顔がないまま新学期を迎え、今に至ってる。
そんな沈んだ気分をかかえての最初の授業は、追い打ちをかける最悪さだった。
現れた教授は教卓に体重をあずけるようにして立つと、値踏みするかのごとく新しい顔ぶれの生徒たちを眺めまわし、威厳さの誇示なのか大きな咳ばらいをひとつした。
10学年を受け持つビッケンバーグ教授は50代半ばの男性で、幼少時からビールとソーセージしか摂ってきてないような、ずんぐりむっくりの体格のうえ、一年中、額と鼻先に脂汗を浮かせていた。
これだけでも見るに堪えない容貌なのに、頭部はまだらハゲときたもんだ。
いっそぜんぶ剃ってくれ、といつも思う。




