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アネモネが華やかに舞いましょう  作者: komado(六種銘菓BOOKS)
アネモネが軽やかに舞いましょう
57/60

◯子供か、大人か。それは世界。

 今度は、アネモネとマスターがバトンタッチ。アネモネがお留守番をする代わりに、マスターがカフェアリーヌのいる喫茶店を訪れています。紅茶のカップを傾けながら、カフェアリーヌは今回の感想をこぼしました。

「歯医者を嫌がる子供みたいだなって思ったのよ」

「ああ、なんとなく似ていたかもしれない」

「抗いようがなくて、歯を食いしばるわけにもいかない。けど終わってしまえばケロッとしている。そんな時間だったのね。規模は、ちょっと大きかったみたいだけど」

 子供にとっての歯が痛いときと違って、アネモネにとってはどこも痛くないのにただ突然頼まれただけの出来事ではありましたが、嫌なことに立ち向かうときの子供の表情としては、歯医者に行く子供と一緒でした。それは二人の大人にとって微笑ましい以上に、少し滑稽でつい笑みをこぼしてしまうようなものだったのです。二人でクスクスと苦笑いをしていました。

 少年姿のマスターは言います。

「ただね、あの子が真っ先に心配していたのが、世界各地の天災についてだったから、少し悪いことしたなって思ったんだ。そういう規模の話なんだというのが、僕自身、自覚が薄かった」

「でも、そんなあの子に気に入られたのが貴方でしょう」

「気に入られた、ねえ。本当にそうなのか、最近は怪しくなってきたから」

「仲が良い悪いですべてが決まるわけじゃないもの。大丈夫よ」

 カフェアリーヌは楽しそうに微笑んでいました。少々からかいの意味も含みつつ、アネモネとマスターのことを暖かく見守っているのです。

「大人であるあなたがちゃんと側にいたからこそ、規模の大きな話も小さく収まったんだわ」

 子供の姿をとっているマスターにかける言葉としてふさわしいかはわかりませんでしたが、彼を一人の大人として扱い、カフェアリーヌは満足そうにしています。

 紅茶をすするかすかな音や息を吹きかける音が聞こえる中、会話は交わされていました。

「ところで、マーメイド・ロアは? アネモネちゃんと同じような存在なら、今回のことも関わったんでしょう。どうしたの?」

「ああ、説明したらあちらも納得してくれたよ。ちょっと眠りについていればいいだけの話だと言って、承諾してくれた。だがアネモネとロアは違って、アネモネは人形じゃなかった期間が長いから……ただ眠っているわけにはいかないと言っていた。眠れるかさえわからないとも。だからロアよりも現実が見えて、不安要素が大きかったんだろうね」

「私はロアさんが何者なのか、まだ『エール』ってお名前と、アネモネちゃんのお仲間だってことくらいしかわかっていないのだけど」

 マスターは「そうだっけ」「説明していなかったか」とぼやきながら、カフェアリーヌのその言葉を受け止めていました。

「まあ、そのうちアネモネが説明できるようになるよ。それを、彼女からのお代だと思って受け取ってほしい」

「成程ね? いいわよ、それなら楽しみができるわね。アネモネちゃんから特別なギフトがあるのは、稀なことだから」

 空になったカップに紅茶を注ごうとしますが、ポットの中も空になっていました。残念、とカフェアリーヌは立ち上がり、新しいものを準備する支度をキッチンの中で始めました。カウンターから彼に声を掛けます。

「今後も、何か大きな力を使うときは同じようにするつもり?」

「同じようにせざるを得ない。できるだけ、取りたくない手段ですけどね」

「そうね。毎回アネモネちゃんが不安定になるのも困る……けど、今回のことで『もう平気よ』くらい元気に言ってくれるようになっていれば嬉しいのだけどね?」

「それは今の僕にはわかりませんよ。貴女みたいに、聞き上手な人から聞いて頂ければ助かるのだけど」

 聞き上手、と言われたカフェアリーヌは「聞き上手というか、聞く仕事をしているだけよ」と真顔で返事をします。マスターはハハ、と乾いた笑いをすることしかできません。それでも彼女にこう言います。

「『もう平気よ』なんて、僕の前では強がりで幾らでも言えてしまう。貴女のような善き友人の前で、素直な気持ちで言えて初めて、本当に『平気』になるんでしょう。僕はその時を待っていますよ」

「そうかもしれない。強がってたんじゃ、いつまでも歯を食いしばってる子供の状態。そうじゃなくて、もっとケロッとしてないと。人形の身体を離れてしまえば、世界なんていう規模の、単位の大きい存在ですものね。もっと堂々としていていいのよね」

 そこはかとなく嬉しそうな会話でした。

 新しい紅茶を蒸らしている間、ほんの数分でしたが無言の時間が生まれました。それは二人にとっていつもの時間であり、心穏やかに過ごせる貴重な時間でもあるのです。

 そんな日常が『アネモネ』に無事戻ってきたことに、二人は感謝していました。

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