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僕は茶道部部長に弄ばれる  作者: 夜狩仁志
第二章 夏、雨と潮と花火の香り

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第95話 残暑見舞い

前回のあらすじ


春山くん、部長のお姉さんに遊ばれる。

 秋芳(あきよし)部長に支えられて、ようやく2階の部長の部屋までたどり着くことができた。


「お待たせしました」

「さっきから下で、なに騒いでるのよ」


 部屋に入ると、深谷先輩の冷めた目が、僕のほてった体を冷ましてくれる。


「すいません、色々ありまして」


 まさか部長のお姉さんが、あんな人だったとは。捕まって、あんなことになるとは思わなかった。

 黙って座っていれば、綺麗なお姉さんなんだけど。


 どこか部長に似ているところもあれば、違うところもある。でも、やっぱり根本的なところは同じで、血は繋がっているのは確かなようにも思える。


「さて、みんなそろったから、宿題やろうね」


 部長がテーブルの前に座ると、そう言って仕切り直す。

 水色のシャツに、灰色の膝上までのハーフパンツ姿の部長と、さっきのお姉さんの姿を、つい比較してしまう。

 部長も成長すると、お姉さんみたいに大人の女性ぽくなるのかな……胸とか……


「ねえ、春山くん?」

「あっ、はい?」


 変な妄想をしてしまっている時に、不意に部長に声をかけられ、慌てて返事をする。


「楽しかったね、合宿」

「そうですね」


 テーブルの上の教科書などを放ったらかしにして、部長はニッコリ笑いかけてくれる。

 勉強開始10分も経たずに、もう関係ない話が始まった。


 予想はしてましたけどね。


「みんなで海に行けて、花火もして」

「ええ、楽しかったです」


 合宿というよりも、ただ海に行って遊んだだけのような気もするのだが。

 合宿の目的は、確か文化祭にむけての稽古だったような?


「春山くん、日焼けしたよね」

「焼けちゃいましたね」


 視線がテーブルの上に置かれた僕の両腕にむかれる。

 もやしみたいに細くて白いヒョロヒョロの僕が、あの日以来いい感じのキツネ色になっている。


 今まで外でそんなに遊んだり、出歩いたりしたことがなかった。だから、あんまり日に焼けるような経験はしてこなかったのだが、今回見事に日焼けした。


「ヒリヒリしますね」

「日焼け止め塗ってあげれば、よかったねー」


 二人は日焼け止めのクリームでも、塗っていたのだろうか? 肌が綺麗な白いままだ。


「今から塗ってあげようか?」

「は?」

「化粧水と、ローション」


 部長が両手をニギニギしながら、迫ってくる。


「……あの、大丈夫です」


 この家の姉妹ときたら……みんなこんな性格になるのか?


「そうだ、春山くん。残暑見舞い、書かないとね」

「残暑? 見舞い? 今ですか? まだ8月で、全然、夏真っ盛りですけど……」


 急にそんなことを言い出す部長に、思わず頭に浮かんだ疑問を言葉にして返してしまった。


「春山君。暦では、もう立秋を過ぎたから残暑見舞いなの」

「そ、そうなんですか?」


 いつもいつも、ためになる話をありがとうございます。深谷先輩。


「合宿行く前に書いた暑中見舞い、持ってきた?」

「え? ああ、合宿のしおりのことですか?」


 僕はカバンから1枚の紙を取り出す。

 表には日程が書かれている。1日目、バーベキューとトランプ大会。2日目、海水浴と花火。3日目、稽古と掃除……そしてここには書かれていないが、予定より1日多く滞在した4日目。

 裏をひっくり返すと白紙のまま。


「そうそう。それで、いい写真撮れたかな?」

「写真?」

「今回の合宿中に撮った、お気に入りの写真」


 確か、ここに合宿の思い出の写真を印刷して、記念にとっておくということだった。


 日程の3日目の下の方に、合宿の出発前に僕がつづった数日後の自分への暑中見舞いが書かれている。


『暑い日が続きますが、どうですか? 合宿は楽しんでますか?』


 自分に当てた懐かしいメッセージ……


 そうだね、出かける前は不安とか緊張とか、いろいろ考えてたけど……

 今となっては、全部、いい思い出となった。


 今までに経験したことないくらい、とっても楽しかったよ。


「写真は……スマホで、結構撮りましたよ」


 スマホをいじり、写真を掘り出す。


 あー こんなこともあったなー


 画像を見れば、その時の景色や感覚が、脳内に浮かび上がる。


 駅降りて風景を撮ったやつ。この後、置いてかれて、部長と買い物するんだよね。


 これは……流しそうめん。初めてだよ、こんな食べ方したのは。


 この写真は……僕がトランプで負けてジョーカーのメイクをさせられた時の。


 これはバーベキュー。お肉、美味しかったなー


 やっぱり海での写真が多いな。海が奇麗だし。

 みんなの水着姿も……まぁ、きれいだし……

 夜の海での深谷先輩とのツーショット。その後の部長も入っての3人での写真。


 そして、庭での花火。

 綺麗だったし、楽しかったなー


 3日目はみんなで稽古してる写真だね。


 予定外の4日目は……部長と2人で海行った時の写真。

 これは……深谷先輩には見せないでおこう。


 こうやって写真を眺めるだけで、その時の楽しかった思い出が甦ってくる。


「ねぇ、春山くんは、なにが一番、思い出に残ってる?」

「一番……ですか?」


 どれも思い出に残っていて、甲乙つけがたい。


「どの写真がいい?」

「ん~ そうですね……」


 あえて1枚選ぶとしたら……


 やっぱり、みんな揃っているところが……


 ……


 …………


 これ……よく見たら……


 みんなと、僕もそろって写っている写真、一つもない?


 あぁ……


 そりゃあ、そうだよね。僕が撮影しているんだから……


 なんか、こぅ、この写真を見ると、僕だけがいない茶道部の先輩たちの記録写真みたいだ。

 もともと僕は存在してなくで、茶道部の4人が仲良く海に来ました、って感じ。


 ……よく考えれば、僕の人生、今までで写真に写るようなことなかったもんなー


 あまり自ら映りたくもなかったし、表彰とかされたことないし、目立たないでずーと影にいたし。

 小学校、中学校でも集合写真くらいしか、僕の記録としては、残ってないんじゃないだろうか?


 そういう人生を自ら選択して生きてきたのだから、そうなるのはしょうがない。

 僕が存在していたという証明がない。

 僕が過ごしてきた思い出もない。

 みんなと繋がっていたという、写真という名の証拠がなに一つ残されていない。


 今、考えると……

 僕は、なんて寂しい生活を送っていたのだろう……


「どうしたの?」

「……いえ、なんでも」


 なんだかすごく悲しい気持ちになってきた。

 今まで自分はいったい何をしてきたのだろうか?


「私が撮った写真も見てみる?」

「……はい」


 そう言って部長がスマホを差し出してくれる。


 ……


 …………


 部長……すごい量の写真を撮っているのだが……


 いつの間に?


 あれ? ちゃんと5人そろっている写真とかある?


 そうめん食べてる時とか!?

 僕がタライの水をかき回しているところ。

 ちゃんと部長も画面に入ってる。

 どこかにスマホ置いて、タイマーで撮影してたの?


 これは海での写真。

 あぁ……これ、いいなぁ……

 砂浜に着いて、最初に準備しているところだ。僕が浮き輪膨らませてるから。

 全員そろってるし。いかにも真夏って感じだし、海に来ましたって分かるし。


 庭でやった花火の時の写真。

 僕が庭に降りて奥まで行かされた時のだ。

 いいアングルで全員写ってるし、花火も綺麗に撮られてる。


 しかし……なぜか? どの写真も僕に焦点が集まっているような……


「部長、凄いです。綺麗に上手く撮れてますね」

「そうかな?」


 僕と一緒になって小さなスマホの画面を覗き込む部長の顔が、笑顔で緩む。


「この海の写真か、花火の写真が欲しいです。みんな一緒ですし。茶道部の合宿に来たんだなって感じがして。やっぱり……海のがいいです」

「うん! そしたら春山くんのしおり、貸してくれる? 印刷するね」


 部長は僕のしおりを預かると、軽やかにパソコンの置いてある机に向かう。


 楽しかったな―――


 これからも、こんな日々が続くといいな―――


 日々(にちにち)是好日これこうにち


 その出会いと、ふれ合いは、


 一期一会(いちごいちえ)


 思い出と、その写真はいつまでも……



「みーちゃんは、どの写真にするか決まった?」

「私はべつに……」


 淡々と宿題を進める深谷先輩は、あんまり興味なさそうだ。


「夜の浜辺の時のは?」

「やめてくれる! その話は! 記憶を抹消して、海の藻屑にしたいんだから!」


 深谷先輩にとっては……良い思い出だけではないようだ。


「春山くん、この写真は?」

「はい?」


 机の前に座った部長が、パソコンの大きな画面で表示した画像を、僕の方に見せてくる。


「……それ、僕が砂浜に埋まってる時のじゃないですか! やめてくださいよ、そんなの見せるの!」


 晒し首みたいに、砂浜から首だけ出して。

 しかも部長が僕の頭の上に乗ってるし!

 いったいどんな状況なんだよ!


「これも、すっごくかわいいよ」

「……それ……僕の寝顔じゃないですか! 恥ずかしいから消してくださいよ!」


「これは?」

「それ、ネズミ花火、投げてきた時のでしょ? 驚いて変顔になってるから、消してくださいって!」




 残暑見舞い申し上げます。

 ちょっと前の僕へ。

 不安や面倒くささを感じているかもしれませんが、意外とそんなことはありません。むしろ今の僕は楽しくやっています。

 あの時は考えもしなかったことの連続ですが、部長たちのお陰で素敵な日々を送らせてもらっています。

 だから、なにも心配しないで、ついてきてください。

 きっとこれからも、それは続くと思います。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初はちょっと寂しいかとも思いましたが、みんなとの写真もちゃんとあってよかったですね。 しかし、周りから見るとリア充すぎて、うらやましがられますね。 そろそろ2学期ですが楽しみにしています…
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