第72話 水着を買いに行こう その3
前回のあらすじ
春山くん、深谷先輩にビンタされる。
秋芳部長らの水着選び。
最初に深谷先輩が選び終えて、いつの間にか会計も済ませていた。
当の本人は、新しい水着を購入したというのに、全然嬉しそうでない。
「よかったね、これで今年の夏は乗り切れるね」
「水着がなくても、乗り切れるわよ」
その間、僕は左頬の痛みを抑えるので必死だった。
……強烈なビンタだった。
初めてだよ、女の子から顔を叩かれたのは。
頬をさするが、まだちょっとだけヒリヒリする。
さあ、これからが本番だ。
部長の着る水着選び。
ウキウキの部長が近寄ってくる。
「春山くん、どれがいいかな?」
「どれと、いわれましても」
ざっと店内を見渡すと、結構な数の商品が並んでいる。
この中から一つを選ぶの?
早く決めないと、部長なら全部試着しかねないぞ。
「じゃあ春山くん、最低3つは選んでね」
「3つですか……」
僕は部長と並んで、ゆっくりと店内を見て回る。
この並んでいる水着のどれかを、横にいる部長が実際身につけるのだと想像するだけでも、恥ずかしくなって視線を落としてしまう。
困るよなー 本当に。
そしてなんとなく、手前にあったハンガーを引き抜いてみる。
これはよくアイドルとかが着てる、上下別れているセパレートのビキニ、というのだろうか?
これが今の日本の社会では一般的な水着なのかな?
リアルな世界ではスクール水着しか目にしてない僕にとっては、こんなのを女の子が身につけているだけで十分刺激が強い。
「これがいいの?」
「あ、いえ、ちょっと見てるだけです」
本当に何気に見ているだけなのに、部長がいちいち反応してくる。
「こういうのも、いいよねー」
「まあ、そうですけど」
「この辺から一着、選んで見ようかな」
「そうですか?」
「色は?」
「え? いろ?」
色はぁ……
今持っているのは、黒っぽい茶色だけど、もっと明るい色が似合うと思う。
明るい水色とか黄色、黄緑とか。
クリーム色や白とかも清純っぽくて似合うかも。
赤はちょっと過激すぎるし、ピンクはちょっとお子様っぽい。
黒は大人っぽいし……
部長は“美少女”だから、大人でもない子どもでもない。
なんというか……
もやもやした思いを頭に描きながら、手前にある青のチェック柄の水着を手にしてみたりする。
「春山くんなら、青か白とか選ぶよね」
「え?」
なんで分かったの?
さらに「なんで分かったの?」と思ってることも見透かしてるような、そんな僕の様子を見て部長は笑ってる。
「浴衣の生地を選んでくれた時も、そうだったよねー」
「……そう、でしたっけ?」
「春山くんが今着てるシャツも白だし、ズボンも紺だよね」
「……です、けど?」
「そっかー 春山くんはブルー系の色が好きなんだね」
……あんまり僕のことを分析するのは、やめてほしい。
恥ずかしいから。
「じゃあ、これかな?」
面白そうに僕をからかった後に取り出したのは、夏の空のように爽やかなブルーのビキニ。
ええ、そうですよ!
そーゆーの好きですよ、僕は!
僕の好みが分かってるなら、一緒に選ぶ必要ないじゃん。
「一つ決まりね。じゃあ、次!」
「はいはい」
愚痴を心の中で叫びながら、次の水着を選びに向かう。
ん~ どれも似たようなものに、なっちゃうよなー
……あれ?
……これ? 水着、なの?
いくつか並んでいる中の一つに、気になって目が留まったものがあった。
下は普通のパンツなのだが、上のブラの方が海藻のわかめみたいなヒラヒラが横一文字に巻かれているだけの水着。
これ、肩の紐ないけど、どうやって留まってんの?
胸のところって、どうなってるの?
まさか、巻いただけで隠してるの?
ちょっと気になり、それを取り出して胸のところをうらっ返しにしたり、めくってみたりする。
「どうしたの?」
「えっ!」
びっくりした!
すぐに部長が顔を近づけて見にきた。
「そんなところ見て、どうしたの?」
「え、いや、ちょっと」
「胸、気になるの?」
「胸が気になるんじゃないです! これ、ここが、どういう仕組みになってるのかって、ちょっと気になったんです」
「これ、オフショルダーの水着だね」
「おふ、しょるだー?」
「肩が見えるくらい大きく開いたタイプのデザインだよ」
「はー」
「ドレスとかでよくあるでしょ? 鎖骨が綺麗に見えるから華奢に見えるんだよねー」
「ふーん」
「もしかして、春山くんって、女の子の鎖骨とか興味あるの?」
「はあ? ないですよ、そんなフェチ!」
「これ、可愛くていいかもね。シャーリングで胸がボリュームあるように見えるし……」
「え? なんですか?」
「ん? なんでもないよ」
そう言って部長は、その水着を取り出しキープした。
いちおう保留しておくんですね。
それから歩きながら次から次へと、陳列してある商品を見ては部長が尋ねてくる。
「これは?」「あれはどうかな?」「これも可愛いね」
「ん~ どれもいいと思いますよ……」
さすがに、ちょっと疲れてきた。
もういいよ……なんでも。
「これは、どうかな?」
「次はなんですか?」
部長が持ってきて見せたのは、色鮮やかな青い……紐?
……これ、最低限大事なところを隠すだけしか布がないんですけど?
布の部分が、ハンカチより布面積より少ないですよ?
「これにしようかな」
「えっ!? これ、着るんですか!」
「だって、いろいろ探してるけど、これ取ったら春山くん、すごく反応したよ」
「いやいやいや」
反応って……それはびっくりしての反応ですよ。
「分かりやすいなー 春山くん」
本当に顔に出てるのかな?
口元や頬を触ってもよく分からない。
ただ左頬がヒリヒリするだけ。
「これで3つ選んだから、試着しに行こうか」
「……そうですね」
取り敢えず最低限のノルマは達成した。
そのまま3つの水着を抱えながら、店の奥にある試着室へ。
「じゃあ、着替えてくるけど、春山くん、お財布貸してくれる?」
「な、なんでですか!」
まさか僕のお金で買おうとしてるんじゃ?
「なら、スマホでもいいよ。ちょっと貸してくれる?」
「……いいですけど、なんに使うんです?」
ポケットからスマホを取り出し、部長に手渡す。
「逃げないように」
「え?」
「私が着替えてる間に、春山くんがどこか逃げないように、預かっておくね」
「……別に、逃げたりなんて、しないですよ」
そうか……
その手があったのか。もう遅いけど……
「ちゃんと待っててね。見てもらうんだから」
「はい」
部長は試着室の中に入ると、ゆっくりとカーテンが閉められた。
さて、どう反応したらよいのだろうか……
僕は試着室の前で、忠犬のように黙って部長の出てくるのをドキドキしながら待っていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
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その3、長くなってしまったので分割します。
その4、その5と続きます。




