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僕は茶道部部長に弄ばれる  作者: 夜狩仁志
第二章 夏、雨と潮と花火の香り
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第100話 写真を撮ろう その2

前回のあらすじ

使い捨てフィルムカメラを持ち、撮影をして回る春山くんたち


 僕たちは秋芳あきよし部長が持ってきたフィルムカメラの、被写体となるべきものを探しに町を歩き回ることに。


 先ずは公園で2枚ずつの写真を撮ることに成功した。


 そして今度は部長の提案のもと、夏休み中の学校に行くことに。


「部長……学校なんて行っても、中に入れないかもしれないですよ」


 僕たちは今、私服のままだ。


「忘れ物しました、って言えば、きっと入れてくれるよ」


 理由が忘れ物ってなんなの? 学校休み中なのに?

 大丈夫なのそんな理由で?


 そんなやり取りをしている間に、いつも通っている河川までやってくる。


「待って!」と、部長が叫ぶと、橋の欄干まで駆け寄る。


「部長、どこ行くんです? 危ないですよ」

「私、ここで撮ってみる」


 そう、身を乗り出しながら答える。


「あー 川を撮るのもいいですね」


 橋の上から見下ろす川の水面が、キラキラときらめいて、宝石のように輝いている。

 この前まで花火大会が行われていた河川敷ではあるが、夜と昼との風景では全く見える印象が違う。


 部長はたなびく髪もそのままに、カメラのシャッターを押す。


「奇麗に撮れてるといいですね」

「そうだねー どうかな?」


 部長が川を撮ったなら僕は……


「じゃあ、僕もここで1枚撮ります」


 僕はカメラを持つと、今いる反対側の欄干まで行く。

 部長が上流に向かって撮ったのに対し、僕は逆の下流に向いて撮ろう。

 それと、川というよりも、空を中心に写真におさめよう。


 橋の上から空を眺めると、遠くのほうに浮かぶ大きな白いソフトクリームのような入道雲が、いかにも夏の空という景色を演出させている。


 いーなー この光景も……


 僕はカメラを構える。


 空も、二つとしてない常に刻々と変化していくもので、今目にしているこの瞬間の空は今しか存在しない。

 それを僕は写真として残す。


 よし、撮れたぞ。


 いや……本当に撮れたのかな?

 分からないけど。


 さあ、今度は深谷先輩の番。

 僕はカメラを渡すと、そのままスタスタと橋を渡って、向こう側へといってしまった。


 あれ? 行っちゃった?


 僕と部長は黙ってあと追おう。

 川を渡り終えると、深谷先輩はすでに撮り終えた後だった。


「みーちゃん、なに撮ってたの?」

「逆側から見た川を撮っただけよ」

「逆からですか……」


「いつも登校する時は朝で明るいけど、下校の時は暗いでしょ。こっち側から見る景色はいつも暗いから、今日くらいは晴れてる時の景色を、写真を撮るのもいいかと思ったのよ」


 なるほど。

 いつも見ている景色も、見方によっては違って見えますからね。

 どんな景色が写っているのか、できあがった写真を早く見てみたい。



 そのまま僕たちは、学校の正門までやって来る。

 私服でここまで来るのは、なんだか違和感がすごい。


「ちょっと校務室に行ってくるね」


 と、部長が中に入る許可を交渉しに、僕たちを残して行く。


 あ、すぐ戻って来た。


「大丈夫だって」


 本当に? 大丈夫なの? この学校の警備、あまくない?


 私服で無人の廊下を、来賓者用のスリッパでパタパタと音をたてながら歩く。


「ねぇ、だれもいない教室、撮りたいよねっ」

「鍵がかかってて、無理ですよ」


 確かに、いい写真が撮れそうだったけど、残念、教室には入れない。


「ん~ じゃあ廊下にしようかな」


 誰もいない昼間の廊下というのも、味がある写真になりそうだ。


 ……というか、部長が……


 床に這いつくばって、下から見上げるような凄いアングルで撮ろうとしている。


「なにしてんのよ、香奈衣! 汚いでしょ!」


 なんてみっともない格好を? 急にプロカメラマン精神を押し出してきた。


「とったよー」


 服をパタパタさせながら、僕にカメラを差し出す。


 今度は僕の番か……


 部室までの道を、あたりを見渡しながら歩く。

 夏休みのこんな時でも、部活をしに来ている人たちがいる。

 吹奏楽の楽器の音も漏れてくるし、廊下の窓から見える校庭では、どこかの部員が何かの練習をしているし。


 サッカー部が練習しているのかな。

 これを撮ろうかな。夏に校庭でスポーツなんて、なんか青春ぽいから。


 撮り終えた僕は、次を深谷先輩に託す。

 そしてそのまま、部室の前までやって来た。


「ところで、部長、部室の鍵持ってるんですか?」

「持ってるよ」


 と言って、3つの鍵が1つのキーホルダーで結ばれた束を取り出す。

 常に持ち歩いてるの?

 まあ、せっかく来たんで、窓を開けて風通しをよくしないとですね。


 部室の鍵を開けたと同時に、部長にカメラを渡す深谷先輩。


「はい、香奈衣」

「え? 私? みーちゃんどこで撮ったの?」


「部室の正面よ」

「そっかー」


 久しぶりの部室。中に入ると、ちょっと埃っぽいかな。

 あと湿気が……

 なんか、ジメジメとホコリっぽい臭いがする。


 今度、ちゃんと掃除しに来ないと。


「はい、春山くん」

「え? 僕ですか?」


 あたりをキョロキョロしていたら、いつの間に撮ってたんだろう? 部長からカメラを渡される。


 今度は僕か。

 せっかくだから和室でも撮っていこう。


 今までさんざんスマホで撮ってきた部室だが、このカメラだと写り方も違うのだろうか?


 僕は和室の床の間がちゃんと映るように、カメラを構え写真を撮る。


 ん~ 撮れた、のかな? 

 いまいち手ごたえがないから困る。


「せっかくだから、少し風を通していきましょう」

「そうだね、ちょっと休憩~」


 暑い中歩いたので、ここで座ってしばらくの休憩。


 全開の窓から、心地よい風が流れてくる。

 そんな和室から眺める中庭の風景を、深谷先輩はフィルムにおさめる。


「今は青々としているけど、文化祭が終わると葉も色づいてくるのよね」

「そうなんですか」


 撮り終えた深谷先輩がしみじみと語る。


「冬は雪、積もるかな~」

「どうですかね」


 部長は楽しそうにつぶやく。


 ここから眺める景色も、季節によって変わるらしい。

 そしたら、また、写真を撮ろう。


「香奈衣、そろそろ行くわよ。忘れ物を撮ったから、もういいでしょ」

「うん」


 こうして僕たちは学校をあとにする。

 これからの僕たちは、駅の先の公園まで向かうことに。

 その間は、お互い何を撮ったかは言わずに、内緒で撮り進めることに。

 写真ができた時に初めて見せ合う驚きと楽しさを体感したいようだ。


 駅までの商店街を通り、駅前までやって来る。

 僕は商店街の中で1枚写真を撮った。

 みんなも1枚づつ撮っていた様子だ。


 そして今僕は駅前の広場を撮影する。


 どこか買い物や遠出をする時に利用する駅。

 一番最初にみんなで利用したのは、僕の茶道の道具を買いに行った時。

 最近利用したのが、合宿で帰って来た時。

 なぜか駅前に来るたびに、部長のことが思い出されてしまう。


 みんな撮り終わったのかな?


「やめなさいって、暑いんだから」

「えー ダメ?」


 なんだか部長と深谷先輩がもめている。


「どうしたんですか?」

「香奈衣が花屋に行きたいって」

「花屋?」


 あぁ、前に行ったコスモスの花の種を買ってきたところ?


「綺麗な花を撮りたくて!」

「…………部長、やめましょう」

「えー」


 あそこに行ったら、また長くなるから。

 騒ぐから、部長は……


 がっくり肩を落とす部長。

 そんな部長の気を紛らわせるため、僕は提案する。


「それよりも、ちょっと暑いんで休んでいきませんか?」


 駅前のコーヒーショップを指さす。


「そうだね、なにか飲もうか!」


 いや、ちょっと待てよ。そこのコーヒーショップは……

 向こうのファーストフード店は……あっちもダメだ。


 どちらも一回部長といって、騒いでるし……


「あー やっぱ、持ち帰りにしませんか?」

「じゃあ、公園で飲もっか」


 結局、冷たい飲み物をコーヒーショップで購入して……

 しかも深谷先輩に代表して買ってきてもらって、公園へと足を踏み入れる。


 一周20分ほどの池のある公園。

 池と木々があるというだけで涼しげな感じがするこの場所には、親子連れや犬の散歩、ジョギングをしている人など、さまざまな人たちが行き交う、この町の憩いの場。


 池に沿った歩道を僕たちは歩くが、脇では屋台の設置準備がされている。


 そういえば、もう夏祭りの時期だった。


「もうすぐ夏祭りだね、春山くん」

「そうですね」


「一緒に行こうね」

「あー はい」


「今度はちゃんと浴衣着てきてね」

「…………え? なんですか?」


「ゆ・か・た、着てね」

「…………はい」 


 ここでもみんな、それぞれ1枚ずつ写真を撮る。


 僕はこの池を撮った。

 水面が穏やかな風に揺れて、光がキラキラして綺麗だったから。

 でももしかしたら部長たちも、同じのを撮っているかもしれない。

 同じ被写体でも、まったく同じ写真にならないから、それでもいいよね。

 写真の撮り方も、人によってセンスが違うから面白い。


 そのままの足で、人の少ない、のんびりできそうな場所を探し、小高い丘の池が見渡せる場所にあったベンチがちょうどよく、3人仲良く腰を下ろしてコーヒーを飲む。


「これでみんな最後の1枚だね」

「そうですね。これは大事に撮らないと、失敗できないですよ」


 これでお互い撮れる写真は最後となる。なにを撮るのかしっかり考えないと、二度とやり直しはきかない。

 なにを撮るか考えてる、そんな僕たちを、深谷先輩が遮ってくる。


「ちょっと待って」

「どうしたの?」


「確か最初に失敗したのあったでしょ。だから、あと2枚よ」

「あっ……」


 そう……僕の家で触っていて間違えて撮っちゃったのがあった。


「あ――  どうしよう。みーちゃんのが無くなっちゃった」

「私は別にいいわよ。それよりもあと2回だから、慎重に撮りなさいよ」


 あと、残り2枚……


「部長は、最後、なに撮るんですか?」


 しばらく考え込む部長……


 ……


 ……そして、


「やっぱり、3人みんなでそろってるところ、撮りたいな」

「自撮りですか?」

「うん」


 まぁ、部長ならそう言うよね。

 でも……


「ねえ! これどうやって撮るの―――!!」


 そうだよね、そうなるよね。

 このカメラだと画面もないし、セルフタイマーもないし。

 どうするんだろう。

 っていうか、昔の人って、どうやってたの?


「誰かに撮ってもらいますか?」

「……そうだね」


 と、あたりを見渡しても、そういう時に限って誰もいない。


「いいわよ、私が撮るから2人写りなさいよ」

「ダメだよ、みーちゃんも一緒じゃなきゃ」


「そうですよ! せっかくなんで」


 深谷先輩がカメラを引き受けようとするのを、全力で引き留める。

 じゃないと部長と僕のツーショットの写真になってしまう。

 そんなの恥ずかしいって。


「じゃあ……撮ってみるから、みんな私にくっついて」


 え? くっつかなきゃダメなの?


 部長を真ん中にして、僕と深谷先輩は真ん中に寄る。


 部長がカメラを逆さに持ち、こちらに向けながら精いっぱい腕を伸ばす。


 ……腕をプルプルさせながら。


 これじゃあ、部長の腕しか写らないんじゃない?


「部長、自撮りは難しいですよ。やっぱり」

「ん~~」


「部長、力み過ぎて顔が引きつってますよ」

「ん~~~~」


「部長、それだとたぶん、部長しか写ってないですよ」

「ん――――――」


「部長、もう少し右じゃ……」


 カシャ


「あっ!? あ――! 押しちゃった――!!」


 あぁ……


「どうしよう!」

「諦めなさい。覆水盆ふくすいぼんに返らず、よ」


 慌てる部長に、深谷先輩は無慈悲な言葉をかける。


 うなだれる部長……


「……はい……次……春山くん」


 なんて……なんて悲しい目をしてるんだ……


「……じゃあ部長、僕も3人そろった写真撮りますよ」

「春山くんも?」


「はい。これが本当の最後の1枚ですから。最後くらいはみんなで撮りましょう」

「うん」


 いつもの元気のいい明るい顔に戻った部長がうなずく。


「じゃあ、撮りますよ」

「ちょっと待って」


 と、髪をとかし始める部長。


 なにしてるんです?


「じゃあ、いきますよ……って、部長、くっつきすぎですって」

「なるべく一緒にならないと」

「真ん中の部長がこっちに来ても、しょうがないですって。深谷先輩が……」


 ほら、深谷先輩が、冷めた目で見てるし。


 仕切り直して……


「じゃあ、正面からじゃなくて、ちょっと斜め横から撮りますよ」


 横に並んだ状態を正面からではなく、ちょっと横から取って斜め縦列に撮れば、そんなにくっ付く必要はない。


 僕はおもいっきりカメラを持った左手を伸ばす……が向きはこっちでいいのか?


 本当にレンズの中に僕たち収まってる?

 ブレたらどうしよう?

 全然関係ないところ撮っちゃったらどうしよう?


 ……き、緊張する……


「じゃあ、3・2・1で撮りまよ」

「いいよー」



 3


 2


 1



 カシャ


 ……


 …………


「撮れた? どうかな? 春山くん!?」

「いやぁ……分からないです」


 結果が分かるのは数日後。


 なにこの、高校入試の結果待ちみたいな気持ちは……


「楽しみだね! 春山くん!」

「え? えぇ……」


 本当に……純粋に、混じりっけのない楽しそうな顔をする部長。


 なんだか不思議な気分だ。

 今のこの瞬間が分かるのが、数日後だなんて。


 でも、こういうのもいいのかもしれない。

 なんでも、すぐ出来たり分かったりする今の世の中、急がず焦らず、ゆっくりと、というのもたまにはいいのかもしれない。


 普通、先のことなんて不安で心配になると思うけど、部長の顔を見ていると、なんだかこの先もずーっと楽しいことが続く気がしてくるから不思議だ。


「さあ、香奈衣、もう済んだら帰るわよ」

「もうちょっと」


 今は分からないけど、時間がたてば気付くこともあるんだなー


 実際、半年前の僕は、今こんなことになっているなんて想像もできなかった。


 そうすると、これからの半年後って……どうなってるんだろう?


 今は分からないけど、この先の数日後、数か月後、そして数年後……


 僕たちの未来は、今みたいに明るいものであってほしい……

最後まで読んでいただきありがとうございます!


なんだかんだで100話も書き続けることとなりました。

これも読者の皆様のお陰です。

せっかくなので最後まで書き続けたいですが、だいぶ時間かかりそうですね。

最後まで皆様と完走できればと思います。

ので、これからもよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 100話目おめでとうございます。 ちょうど半年(には少し足らないのかな)なんですね。 さてどんな写真がとれているのでしょうか。楽しみです。
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