師と子
最近一ヶ月に一回の投稿ペースになってしまってますね...。楽しみにしていただいている方には本当に申し訳ないです...。
転生概念 豆知識35
リノアは人と話すことが好き。特に好きなのはカラやクゥロと言った旅の仲間たち。
数分後、ムシュフシュはこのままでは数日単位で時間がかかるのではと不安視する。
確かにリノアは治っている傾向にあるが、無秩序状態というのは長期間同状態にあれば深刻な状態になってしまう。ムシュフシュはそれを避けたい訳である。
「...カラ。少しだけ出力を上げていいかな?このままでは治療が終わるのに最低でも4日はかかるかもしれないんだ」
その様子に若干の焦りを感じたカラ。しかし、それはしては行けないような焦りではなく、この状態が続くことの危険さを気にしているのだと察する。
「分かりました。出力を上げてください。多分今のカラなら耐えられると思いますし」
そう言って頷くのを見た後、ムシュフシュは魔法出力を徐々に上げていく。
「...っ」
カラに重圧がかかる。やはり妖精王ともなれば、魔法の質が普通の魔法使いと比べ物にならない。
「大丈夫かい?もしあれだったら少しだけ弱めるけど...」
「...いいえ。リノアを目覚めさせるためです。このくらい、平気です...っ!」
そう言って、根性を見せるカラ。そんなカラを見て、一瞬目を見開くも微笑んで、すぐさま魔法出力の方に集中させていく。
「...これがマビノギオンの中か......」
同時刻、ティル・ナ・ノーグ上空ではソロモンとローレライがマビノギオンの中に来ていた。
「...凄いね、これ。近くで見たらより凄さが浮き彫りになる。素晴らしい粒子構造だ...一寸の狂いもない完璧な構造...」
辺りを見渡しながらも歩みを止めない。ソロモンの目には好奇心と感嘆が宿っているのが明らかで、今は亡き愛弟子の1人、ヴィルジナルが成し遂げた偉業を目に焼き付けている様だった。
「せんせーと別れた後も、わたし達はずっと魔法を研鑽してたの。せんせーの言いつけ通りに出来るために、世界を守るために」
「うん、だろうね...。この魔法構造を見ればちゃんと伝わってくる...」
壁に触れて、その正確かつ美しい配列の魔粒子構造を見て、思わずずっと見てしまうほどにソロモンは感動している様子で、そんなソロモンを見て嬉しそうに微笑むローレライ。
「それで...クゥロ君の話では、大きな水晶のような氷塊がどこかに浮いてると聞いたけど...どこかな?」
「それはね、こっちだよ...!」
そう言うと、ローレライはソロモンの手を握り、一切迷うことなく道を進んでいく。そんなローレライに一瞬驚くも、微笑んで静かに受け入れる。
「ここ!」
「...これか......」
ソロモンの目に映ったのは、自身よりも明らかに大きい巨大な水晶の如き氷塊。最低でも4〜5m程はあるだろうその氷塊に目を奪われる。
「これ...全部、ヴィルが込めた魔力の塊だね......」
目を開き、驚いた顔でそう言うソロモン。その言葉を聞いて、そばに居るローレライも驚く。
「えっ、そうなの?」
「...うん。この魔法構造と質はヴィル以外いないよ...」
ソロモンの目は狂うことを知らない。20万という長い年月で培ったその目は、1度見た魔法構造を魔法の質を見間違うわけが無かったのだ。だが驚いたのはそれだけではなかった。
「......ヴィル...君は一体どれだけの魔力をこれに費やしたんだ...」
ソロモンが次に驚いたのは、この巨大な魔晶氷塊1つに費やした魔力量だった。それは今まで見たことの無い魔力量、ソロモンの半分に匹敵する程であった。
「これ程の魔力量......20万年生きて初めて見た...」
──お前の魔力量の半分か...驚いたものだ。最低でも120億人相等の魔法使いの魔力量と同等な訳だが...。それほどの魔力量を圧縮し、この結晶に注ぎ込まなければ改変は発動出来ないということでもある。やはり現実改変という現象は、生命体にとって難しいものなのだな
ソロモンの中にいる存在は、ヴィルジナルのしてきた事に感心しながらも、現実改変という現象がどれほど膨大な物なのか再確認した。
「そーなの?魔法構造が完璧すぎて魔力が漏れ出てないから分かんないや〜。でもせんせーが言うってことはそーなんだろうね」
「...うん」
そう言って頷いた後、目の前の魔晶氷塊を優しく見つめると、何かが呼応して淡い光が放たれる。
「...これは......」
「ヴィルジナルの...魔法......じゃない?これ」
ローレライも目の前の出来事に驚き、目を大きく見開いてソロモンに聞くと、ソロモンは無言で頷く。そして、その淡い光が段々と形を成していく。
「っ......やっぱり、ここまで出来るようになったんだね。そりゃ、これほどまでの精密さなら当然か...」
ソロモンは目の前で発生した現象に再度目を開くと、少しずつ潤んでいき、目を細めて優しく微笑む。
『お久しぶりです、ソロモンさん...』
なぜなら2人の目の前には、記憶の氷晶によって顕現したヴィルジナルがそこにはいたからだ。
「え...ヴィルジナルだ......」
『って、前まで呼び捨てだったのに、いきなりさん付けで呼ぶって少し恥ずかしいや...。でも、おそらくこれがソロモンに伝えられる最後のチャンスだから...。少しくらい畏まってもいいよね?』
ソロモンは話を聞くため、ただ静かに目を瞑る。目の前のヴィルジナルが会話できる存在じゃなく、過去に記憶保存したものであることを理解しているから。ヴィルジナルは咳払いをして話し始める。
『...えっと、多分ですが、これを見ているということは、私はこの世にはいないはずです。私がこれを保存した理由は、聖戦が必ず起きるものだと理解したから。そして...』
『その聖戦が想定よりも酷く、このマビノギオンの力を使わなければならないという未来も、この目で見たからです』
その発言にローレライは声を抑えつつ驚愕する。ヴィルジナルが未来を見たというのは、妖精王達は知らなかったのだ。
しかしソロモンは、その事を知らずとも記憶魔法なら、ここまで強くなったヴィルジナルなら読めるだろうと分かっており、驚かずにただ目を閉じて話を聞いている。
『だから、生きている間に後悔のないようにと思いまして......。なんか...どうしても湿っぽくなっちゃいますね。でもまぁ...しょうがないですよね...』
少しずつ声のトーンが下がっていく。そんなヴィルジナルの声を、ただ静かに聞いているソロモンとローレライの二人。すると、ヴィルジナルは遂に本題を話し始める。
『...これまで、私やリャナンシー、ローレライ達を育ててくださり、ありがとうございます』
記憶のヴィルジナルは頭を深々と下げ、礼をした。それは心の底からの謝辞。恩師への最後の感謝の言葉だった。
『結局、記憶魔法を極め切ることはできず、これを見ているのがいつなのか、私には最後まで分からずじまいでしたが...。もしも私がこの世界から消えなかったとしても、この気持ちが消えることはありません。それは恐らくリャナンシー達もそうです』
『私達は一生...。いえ、死後もソロモンさんを尊敬し続けると思います』
そう言い終わると、頭を上げ、ソロモンのことが見えているかのように真正面を真剣に見つめる。
『それと、あの時私に告げた言葉。それを出来るだけ引きずらないで欲しいです...。私は世界を守るという自分の意思でマビノギオンを起動しますから』
『ソロモンさんのせいではありません。これが最善であり、最良の選択なんです。それに私達はこれで世界を救うんですから、あまり私のことで思い詰めて卑下しないでくださいね?なんて、ソロモンさんが自分を卑下することはあんまりないか...っ』
先程の真剣な顔つきから一転。何かを思い返しながら、ほんのり微笑んでソロモンの強い精神性を一瞬だけ言及した。
『...兎に角、おそらくこれが最後になってしまいますが、私はこの選択に後悔はないので心配は不要です。ただ少しだけ後残りがあるとしたら、最後にソロモンさんの顔を見たかったかな...なんて、そんなのは我儘ですね...』
最後、ぎこちない複雑な笑みを浮かべると、その記憶の再生は止まり、先程とおなじただの魔氷晶へ戻った。
「...せんせー......大丈夫...?」
ローレライは心配そうにソロモンの傍に寄り、少し俯いたソロモンの顔を下から覗かせ伺う。
「...大丈夫だよローレライ。大丈夫だ...」
「ボクだって何十万と生きてるんだし、別れくらい何回も経験してるから大丈夫...」
その言葉とは反して、目を閉じ何かを堪えるように、目にほんの少し力が入っている表情を浮かべている様子。ほんの少し時間を置き、小さく息を吐くと俯きから戻す。
「...予想外だよ......。まさかここでヴィルにまた会えるなんてね。これはサプライズかな?それとも知らなかった?」
「し、知らないに決まってるよ...!それに多分せんせーの魔力に呼応して起動したっぽいし...!!」
いたずらっぽく笑いながら、ローレライを弄ぶような質問をすると、慌てながら必死に弁明をするローレライ。そんな様子にソロモンは笑う。
「うん、そうだね。ローレライの言う通りボクの魔力に呼応して起動した...。それがどれだけ凄いか...ローレライは気づいたかい?」
「...え?えっと......。って、分かってたんじゃん!!弄ばないでよせんせー!!!」
「あはは...っごめんごめん」
軽い音が鳴るような可愛い力で不機嫌そうに頬を膨らましながら、ソロモンをめいっぱい殴るローレライ。
「...それで、このヴィルジナルのしたこれがどれだけ凄いかだっけ...?うーん...あ、もしかして、せんせーはここに来ていないのに、せんせーを感知する機能が出来ているところ?」
「...うん。正解だね」
「ボクは一度もここに来ていないのに、この魔法はボクが近づいただけで起動した。それはヴィルが記憶魔法だけでボクの魔力の完全再現を成功させたという事」
その言葉を聞き、ローレライはハッと気づく。記憶魔法でそれを成功させていると言う、ヴィルジナルのありえない所業に。
「他者の姿形を記憶に映すこと自体は並の記憶魔法でも可能だけど、その人の内部に流れる力までを再現するには、とてつもない魔法の研鑽が必要になる訳だ」
「ヴィル...リャナンシーやローレライ達と一緒にボクの元を離れて以降、君は一体どれ程の時間を魔法に費やしたんだ...」
「もじさんに聞きたかったことがあって」
はいはいどうしました?ローレライさん
「もじさんって生命体なの?」
生命体...ですか?
「うん。こうやって意思疎通できるってことは生きてるのかなって」
うーん...どうなんでしょう?そういった事は私にも分かりませんね...。というより、そんなことを考えたこともありませんでした
「...ふーん。そうなんだ。」




