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やりやがったな

 



 まさかの私の登場に目に見えて狼狽するラーナ嬢に冷たい視線を向ける

「なんでここがっ!?」

「とりあえずその薄汚ぇ足をお嬢様から退けてください」

 カツカツカツと音を立てて近づき、ラーナ嬢を足払いして体制を崩させた

「きゃぁ!何すんのよ!!」


「リディ!」

 私の後を追って来た殿下とグレイが教室に着いた時、ラーナ嬢はさっきの態度を一変させて殿下に擦り寄った

「イヴァン様ぁアルカディさんが私を転ばして怪我をさせたんですぅ…ラーナ痛かった…ぐすっ」

「それは良かった」

「ですよね!だからあの人をクビに……え?」


 思っていた返答と違ったのか殿下の顔を見た途端「ひっ」と小さな悲鳴が聞こえた

 額に青筋を立て眉間に深いシワを作り、まるで汚物を見るような目で擦り寄ってきた者を見ている

「アルカディがやらなかったら俺がお前を殴っていたところだ」

「え、えっ、?なんで効かないのっ」


 どうやら香水の効果を頼りにしていたようだったが、殿下には効かなかったようだ。いや、効いているからこそあの態度なのかもしれない


「アルカディ、リディの状態は」

「息はあります。長時間誰かに蹴られていたのでしょうか、そこら中がアザだらけです」

 ブチッ


 何かが切れる音が聞こえたのは私だけでは無い


「グレイ、その女を拘束し直ちにエバンス王城に連れていけ」

「はっ」


「痛っ!グ、グレイ?いつもの優しい貴方らしくないわ…?」

「私は貴女と話したことないのですが」

「そ、それでも私知ってるのよ!貴方本当は孤独に思っているんでしょう?誰も自分の内側を見てくれなくて。でも私は貴方の傍にいるから……!本当の気持ちを言って!」

「女性にこんなこと言うのは憚られますが、気持ち悪い。というのが今のところの貴女への気持ちですね」


 そんな、と呟くラーナ嬢は思いついたかのように第1王子をの名前を呼び始めた

「ユール!助けてユール!!」

 しかし待てど暮らせど第1王子は姿を表さなかった


「彼は王城が身柄を確保させた。事前にこの学園内の様子を陛下に申し上げておいて良かった」

 淡々と話す殿下、もう誰も味方は居ない



「………よ、何よ何よ何よ!なんで私が断罪されるわけ!?あの女が酷い目にあうのが普通じゃない!!私は愛されるべき存在なのに」

 よく分からないことを言い始めたラーナ嬢に周りは奇怪な目線を送る。多分理解出来ているのはアルカディ(わたし)のみ



「私はヒロインなのよ、あの女は悪役令嬢で私をいじめるの!こんな簡単なこともあの女はできない!この国の女も出来なかった根性無し。でも壊れちゃったのは面白かったわ、ちょっと男に遊ばせた時の泣き顔なんて特に!

 その女も同じ目に合わせてやる!愛されるのは私だけでいいのよ!!」



「悪役令嬢リディアは死ぬべきよ!消えろブス女!!」


 ドガン!!

 ()の頬をかすめ真後ろの黒板に出来た2m程のクレーター。中心には私の剣が深く突き刺さっており、あと少しズレていたら女を貫いていただろう



「言いたいことは終わったかクソ女」



 もうこの女に敬意なぞ払う必要がない。

 もう私がこれから何をやっても正当防衛で済む。手を出してきたのはそちらなのだから

 令嬢には特に敬語を使っていた私が暴言を吐いたことに殿下もグレイも目を丸くしている

 女は呆然としていたが言われた内容を理解すると共に怒りの顔で口を開くがそれを私は許さず言葉を続けた



「『私が愛されるべき』?『私がヒロイン』?、ブスが何言ってんだよ性格クソブス。いっぺん鏡見てみろよ性格の悪さが滲み出ててヒロインどころかモブにすら採用されない顔面してて笑えてくる。違法香水でしか男の気を引けない女が、好きな男のために見た目も作法も気を使っている女に勝てるとでも思ってんの」

「っ!うるさいうるさい!」


 聞きたくない、と頭を振る女の顎をガっと掴み、目を無理やり合わさせる

「現実を受け止めずに思い通りに行かなければ癇癪起こすのはガキと同じだ。この世界はお前の思っている物語の世界じゃない。やり直しも読み返しもできない紛れもない現実の世界だ」


 淡々とそう伝えると瞳が大きく開かれ、絶望の色を滲ませながら独り言のように呟き始める

「だって、わたしは、ひろいん」

「ヒロインだから何をしてもいいなんて無い」

「あいされて」

「香水で洗脳した愛は愛じゃない」

「でも」

「今までやってきたことを思い返しなさい。ヒロインであるお前がやってきたのは悪役令嬢のそれと同じだ」


 やっと現実を受け止めてきたのだろう。あきらめた表情をしながら意識を飛ばしたようで、傾くからだをグレイが受止めた

「アルカディさん」

「……連れていきなさい。途中起きても恐らく大人しくしているでしょう」

「、はい」



 女を連れていくグレイの後ろ姿を横目にお嬢様の側へと駆け寄る

 殿下がお嬢様を抱き上げこめかみに口付ける、それは本当に愛しそうに優しく。

「迎えが遅れてすまなかったリディ」

 そうつぶやき、教室を後にした





 ______その後



 お嬢様は1日経って目を覚ました。殿下は覚めるまでずっとそばに寄り添い、覚めてからもそばを離れようとしなかった

 そんな様子にお嬢様は「他にやることがありますでしょう!」とプンプン怒っていたがお嬢様もまた殿下の手をずっと握っているのは黙っておこう




 オリフベルから届いた中和剤によって学園の生徒たちの洗脳はあらかた解けた。

 あまりにも重症だった第1王子は未だ完治はしてないが、自分の行ってきたことを理解し自ら王位継承権を放棄したようで、国王陛下も同意している



 本来、ここまで混乱を招いた責任を取って王族どころか貴族界からも追放されて平民落ちさせるのだが、元婚約者である令嬢が情状酌量の余地を訴え二人で僻地の屋敷で療養するらしい

 そこは使用人などおらず、自分で何もかもを用意するらしく、貴族の彼女らはきっとこれから苦労するだろう



 洗脳前の第1王子は本当に心から婚約者だった令嬢を愛し、また令嬢も彼を愛していた。とイヴァン殿下はおっしゃっていた


 不思議なことに洗脳中だった彼はどれだけラーナが迫っても、体の関係どころかキスすらしなかったのだという。だからといって許される訳では無いが、その事を聞いた令嬢は泣きながら嬉しそうに第1王子の隣に寄り添った



 ラーナの実家である子爵家は王族を洗脳し、謀反を疑われ重罪人として爵位を取り上げ国外永久追放。調べれば調べるほどホコリが出てきて、脱税や超過金徴収はもちろんのこと、娘であるラーナに日常的に暴力を奮っていたという報告があり、誰も子爵を庇うものはいなかった。

 商人の方はオリフベルでも問題を起こしていたこともあり商隊は解体、上役らは一生牢獄生活になるらしい



 目を覚ましたラーナは世界で1番厳しいとされている修道院へ送られる。その時のラーナはとても大人しく、静かに罪を受けいれた

 修道院に送られる直前、私に「もう少しあんたと話がしたかったわ」と話した彼女の目はもう現実を見ていない目ではなかった。

 現在の彼女となら仲良くなれるだろうとおもうがそれは不可能なこと。ラーナのこれからの人生を祈り、その場を後にする




 お嬢様を傷つけられたことに、憤りを隠さなかった公爵家が陛下に国交を止めるべきだと進言したが、殿下とお嬢様の働きによりそれは何とか免れた

 お嬢様の「わたくしが頑張って覚えた礼儀作法を無駄にさせないでくださいまし!」という言葉が決め手だったようで、つくづく甘いんだなぁと思う






 一方私は…………
















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