女は怖い
皆様お久しぶりです…(2回目)
ラーナ嬢と接触して約半年
「あなたアルカディさん?」
お嬢様が殿下と図書室にいる間、外で待機していた私に話しかけてきたのはラーナ嬢だ
お嬢様と殿下が2人でいたい時や勉学に励んでいる間は離れた場所で見ているか、別の部屋で待機しているということがあるため、隙を見て話しかける生徒は多い
大抵は『ベルダ』への興味などだが、ラーナ嬢は多分違う
「そうですが、なにかございましょうか」
肯定すると彼女は一瞬顔を歪めたが、気持ち悪いほどの笑顔で話を続けてくる
「アルカディさんはご兄弟とかいるんですか?」
「いえ、私に兄弟はいません」
「じゃ、じゃあお名前の由来を教えてください」
「養父からそう呼ばれていたので私では分かりかねます」
「そのお父様のお名前って!」
「ガノロフです」
段々苛立ってきたのか語尾がだんだん強くなっている
「じゃあまじであのアルカディが女化したってことっ!?」
と小声で言っているのも聞こえるが聞かなかったことにする。ここで引っかかったら後々が面倒くさそうな気がしてならないからだ
まじまじと不躾に見定められ、不快に思っていると
「ラーナ!」
遠くから駆け寄ってきた王子が強くラーナ嬢を抱きしめ、こちらに鋭い目線を送ってきた
「貴様、ラーナをいじめているのか」
どこをどう見たらそうなるんでしょうか
「いえ、わたしは彼女に話しかけられたので応答しただけですが」
「泣かせた側の言う言葉は信じられないな」
はいはいそうですかー仲良いんですねー
「では邪魔者は早めに退散させていただきます」
一礼してその場を後にすると後ろから「待ってください」と言われたが気にする事はない。だって関わると面倒臭いから
お嬢様に関わらなければ正直どうでもいいのだ。
まぁ、関わらないなんてことは無理だったのだが
「グレイ」
お嬢様に喝を入れられ動かないのは騎士の名折れ、護衛失格だ。殿下とお嬢様が授業を受けている間、別で待機している時に私はグレイに話しかけた
「…何ですか」
「先日の件について」
ピクリと動いたのは私の勘違いではないだろう
「私は生まれてこのかた、恋愛とは程遠い生活を送ってきた。孤児だったのでそれはもう次の日生きているかどうか怪しかったり、拾われた後も令嬢のような教養ではなく剣を握り、時に殺生に関わることもして…………これでは言い訳になってしまうか…」
グレイは先を促すことはせず、ただ黙っている
「今から言うのは私の独り言と思ってもらって構わない。
___そんな生活を送ってきた私は相手からの好意というものが分からない、全て1人で何とかしようとしてしまう私の悪い癖だ。だが初めて伝えられた気持ちは私は不器用ながら、とても大切にしたい
こんな私でも誰かさんは許してくれるのだろうか」
「それは、同情ですか」
「…いや、私の好奇心でもありただの自己満足だ」
暫くの沈黙がこんなにも気まずいと思ったのは初めてかもしれない
「_俺の独り言と思ってください。一目惚れした俺はどうにか振り向いてもらおうという邪な気持ちで教えを請いました。訓練の内容は辛いものでしたが、ただその人と居ることが幸せで同時に物足りなくなってきました
護衛として一緒に隣国へ行くことになったのは本当に嬉しかった。自分の気持ちすら勢いでしか言えないヘタレな俺が嫌になって迷惑をかけまいと極力避けていたんです。」
なるほどそういうことなのか
「そんなヘタレな俺でももし、まだチャンスがあるなら不器用同士、この先ずっとそばに居たいです」
……………それは
こちらに視線を向ける表情はとても真剣なもので、思わず息を停めた
「アルカディさん、俺は貴女が好きだ。俺と結婚を前提に付き合ってください」
ガシャァァァァァン!!!!
きゃぁぁぁ!!!!
突然の事に私たちは授業中にも関わらずノックせずに扉を蹴破る
そこの光景は割れた窓ガラスに慌てふためいている生徒たち、殿下は足をやられたのかうつ伏せに倒れ、黒づくめの男たちがぐったりしているお嬢様を抱えて、割れきった窓の縁に足をかけている
目の前が真っ赤になったのは何度目だろう。正気を失いかけた私をグレイが止めた
「今攻撃したらダメですアルカディさん」
そうだ、お嬢様があちらの手にある分、攻撃が当たるかもしれない
何も手を出すことが出来ないまま、男たちは外へ出ていった
「グレイは殿下を、そのほかの護衛は生徒たちの安否確認、怪我をしていたら直ちに医務室へ」
「「「はい」」」
_______
結局、突然現れた黒づくめの男たちの情報はあまり掴めなかった
「俺がそばに居たにもかかわらず…」
「敵の侵入を許した私たちの落ち度です。申し訳ございませんでした」
殿下はこれ以上ないほど焦っていた。それは他の護衛たちも一緒で
「刺客であるなら、倒れていた殿下を狙うはずです。それをわざわざお嬢様を連れていくのは、お嬢様を邪魔に思っている人間かあるいは恨みがある人間」
「………あの女か」
ドスの効いた殿下の声に一同が凍りつくも、動じずに話し続ける
「確証はありません。もしかしたら違うのかもしれない。」
「じゃあどうしたら」
「落ち着いてください殿下、いつものあなたらしくもない
確証がないのなら見つけに行けばいい話でしょう」
「───で、俺のところに来たのか悪党め」
「悪党でいいので何か知っていることがあるのでしたらさっさと吐きやがれくださいロンタール様」
私が向かったのは最初に記憶違いに気づいたあのロンタール公爵令息。あれから違和感が拭いきれずにラーナ嬢に近づいていないという彼は以前と比べると人の話を聞くようになった
とは言っても恋心はそう消えるはずもなく、未だにこちらを敵視しているのは変わりないが
「とにかく俺は知らない。途中教師に呼ばれて教室を出て居た時に渡り廊下でラーナが1人で教室へ向かっていたのは見ていたがそれだけだ」
「おひとり、といいました?」
疑問符を浮かべながら肯定するロンタール様に礼を言いその場を後にする
足早に中庭を出ると苛立たしげにエバンス国の王子に詰め寄っている殿下がいた
「だから知らないと言っている。お前の婚約者など俺には関係ない」
「ユール…!!」
「殿下」
熱くなる殿下を落ち着かせるために声をかけた。振り返った殿下は憔悴しきっていて、いつもの鉄仮面がまるで嘘かのようだ
「………アルカディ、手がかりは掴めたか」
「守るべき対象が簡単にさらわれたようだな。さぞ崇高な任務をこなしていたのだろうな」
鼻で笑い、こちらを見る第1王子の瞳は濁っていた
…もう手遅れかもしれない
「申し訳ございません、今回は私の油断でうまれたものです。それにしてもさすが第1王子殿下、その油断を改めさせるために今回の騒動を起こされたなど、オリフベルでも見習うべきでした」
「なんだと?」
訝しげに見つめる第1王子にニコリと笑って続けた
「ラーナ嬢はどちらにいらっしゃいますか?いつもこの時間帯はくっついて仲睦まじげにお話されているので少し疑問に思って」
「お前に答えるギリなどない」
「そうでございますか、その言葉だけで十分です」
もう一度、なんだと?と言葉を投げてくる第1王子を無視して私はあるひとつの学棟を目指した
中庭を出たところの渡り廊下、その先にある教室へ
被害に遭った教室にラーナ嬢はいなかった。授業中であるにもかかわらず途中抜け出したロンタール様が見かけていた。
そして私の質問に第1王子は「答える義理などない」とおっしゃった。ロンタール様のように「知らない」と言わなかったのは何かを知っているハズ
ただ小さなことではあるがそれに縋り付くしかない
間違いは許されない。
なぜなら私は今から教室を破壊するから
目的の教室の前に立った時、足を軽く振り入口の扉を吹っ飛ばす
中では気を失っているお嬢様を意地汚い雌豚が踏みつけているところだった。踏みつけ、蹴りあげていたところに大きな音を立てた私に驚いてこちらを見て固まっている様子に、これ以上ない不快感を覚えた
その時やっと気がついた
私は自分で思っている以上に怒っているのだと




